猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2017-12-01から1ヶ月間の記事一覧

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-13

トーザ・カロットの岬に びゅうびゅうと雪混じりの風が吹き荒れています 猫そっくりの店主は ワンピースのようなエプロンをつけて お店の奥でコーヒー豆を選んだり 毛糸玉を数えたり キンキンに冷えたお水を用意したり いつもより ほんの少し早歩き 今日は年…

不安

あなたの目は 心にもありますか あなたの耳は 心にもありますか あなたの舌は 心が宿っていますか あなたの指先は 愛がありますか

雲の色さえじっとしてはいないのに

雲の色さえ じっとしてはいないのに 写真のあなたは 二度と私を叱らない やさしい笑顔は 誰に向けたものだったろう あなたは何と 声をかけられたのだろう シャッターが切られる瞬間に 雲の色さえ じっとしてはいないのに 写真のあなたは 二度と私を叱らない …

冬雲

押しのけても 押しのけても 重く垂れ下がる冬雲を 愛しい あなたはそう言って 涙を流した 振り払っても 振り払っても したたかに絡みつく言の葉を さびしい ぼくはそう言って 笑みを浮かべた

使いまわし

使いまわした思い出話を 注意深く彫り出すかのように 話して聞かせる人がいる くりかえし くりかえし さっき食べたものは忘れてしまうのに “もういいよ” 背中をトントンしてにっこりしてみせると ようやく安心して寝息をたてはじめた 使いまわした恋の話を …

Noël

信じてはなくとも 特別な心もちになるのは おさえようもなく それなら せめて子どもたちの前では 楽しげにしていようと そう決めた 夢へ逃げ込むまで

asylum

四年前と同じ女が だるそうにチケットをもぎっている “入口は隣のビルになります” ずぶ濡れの僕を見ようともせず 劇場のサービスカードと半券が 決まり文句と同時に 光の速さで戻ってくる 女が愛用しているのか 一度だけ試した葉巻の香りがした 四年前と違っ…

欺瞞

コーヒーの香りに押しつぶされながら 今朝も僕は堂々巡りを試みる 悲しみ成分が人より多いから 歌うわけではなく 苦しみ成分が人より濃いから 描くわけではなく 喜び成分が人より豊かだから 見せびらかすのだろうと 陰口の標的になって なんでもない顔して …

そしてにっこり笑うこと

鼻歌のように みことばも聖なる奏でも 近しい存在だった おはようの挨拶のように “みくにのきたらんことを” 舌足らずに呟いた 心のそこから だれかの幸せだけを思うのは むずかしいのだけど 切なく理屈っぽくてもいいから 時々思いだすこと 空をあきらめない…

あたしはダブルシャープを抱きしめさよならと言った

えぐるような転調と あふれる音列 あたしはその真ん中で休符にもなれず うつむいた 誘うような移調と はみ出る音律たち あたしは純正律も平均律もほっぽり出して 泣きだした 慰めるように臨時記号があらわれ すべてが終息に向かうのに あたしはダブルシャー…

指先でなぞるのは

指先でなぞるのは 遠すぎる雲の輪郭 涙より不確かなのに 愛より近く 感情がなぞるのは 近すぎる両腕の輪郭 雨よりやさしいのに 冬より冷酷で 舌先がなぞるのは 消えそうな幸せの記憶 光よりおぼつかないのに 嘘より憎らしい

「好き」の濃度

「好きなこと」は たくさんでも たったひとつでも 増えても減ってもいい 昨日と同じ空が 二度と訪れないように 「好き」の色は刻々と変わっていく 布を染めるように 濃淡があらわれ あなただけの あたしだけの 「好き」が彩られていく だいじなのは それもあ…

誰にも言えないけれどもしかしたら

雪だるまの満月が 見えるひとと見えないひとが いると知ったのは ほんの数日前のこと 「雪だるまみたい」 思わず舌にのせたら こう訊かれた 「顔?体のほう?」 友だちの質問に うまく返事ができなかった 「どっちだろね」 大人ならそう答えるのだろうけど …

居場所

このところ月曜の朝は ぼくにとって始まりではないのだけど かすかに心がどんよりする ユウウツにならない理由と場所を 探すくせは昔からだ ともだちがいた頃もいなかった頃も 空をかきむしるような絶望に凍えながら ぼくはランドセルにすがりついてた 居場…

ふたり

鈴のおとが聴こえました 頭の後ろから 足の裏から 鼻の奥から 舌の根元から 歌が聴こえました つないだ指から 耳たぶの熱に混ざって 胸の間を 滴るように 涙が流れました 寄り添う背中を 今日は信じていたいと かみさまに約束したくなったからです

空腹

舞い散る風の音を ひとつひとつ受けとめようと 大きく口をあけた 雨は横なぐりで 目をつぶりたくなるけれど せめて受けとめようと 大きく口をあけた お腹は空かないのに 心に何か詰め込みたくて せめて受けとめようと 大きく口をあけた 何も聞こえない日 何…

一週間

始まりの日 闇とだけ生きていたものは 誰もいなくなりました 二日目 光とだけ生きていたものは 誰もいなくなりました 三日目 雨しか望まなかったものは 誰もいなくなりました 四日目 山でしか生きられないものは 誰もいなくなりました 五日目 海でしか生きら…

からっぽ

ふらりふらりといつものように ふかりふかりと土を踏みしめ ゆらりゆらりと歌っておりました ちらりちらり風が光ると さらりさらり雲が揺れて ぽかりぽかり時間が流れてゆきました 雪が降って指先凍えて 街にはもう誰もいません というより 星にはもう時間以…

雪だるま

すっかり凍えた庭先に ひとりで立っていた いつもより 満月は親しげで 秘密をうちあけたがっているようだ その相手が僕でないことは わかっているけれど またいつかここで会えたら 話し相手になってくれるかい

あたしの秘密

時が逆流することが たまにあって もちろん誰にも信じてもらえないから 黙ってた 時が逆襲してくるわけでは ないのだから 自分にそう言い聞かせて 泡立つ感情を抑え込んでた あるとき 時間も伸び縮みするのだと知ってから それまでより ちょっとだけ ほんの…

愛育-2

言いなりになること 実は そんなに嫌ではありませんでした 今にして思えば 考える そんな些細な行動さえ あきらめていたのでしょう とげとげしい感情が去ってしまえば 言いなりになっているほうが 楽だと気づいてしまった 多分 そんなところです 狡猾が ぷく…

飛行機雲が死ぬ前に

飛行機雲が死ぬ前に ふわりと歌った恋のうた きみは笑っていたろうか それとも黙っていたろうか 飛行機雲が死ぬ前に ゆるりと歌った恋のうた あなたは泣いていたろうか それとも叫んでいたろうか 飛行機雲が死ぬ前に こそりと歌った恋のうた あたしは旅して…

再起動

スイッチを切り替えましょう スイッチをオフにしましょう スイッチを切り替えましょう スイッチをオンにしましょう そうすれば つまらない憎悪も とるにたらない嫉妬も きれいさっぱり でしょ? だからこうするよ きみはいたずらっぽく笑って 僕の背中のスイ…

サンタクロースの存在を

サンタクロースの存在を 二親から否定される それもずいぶんと早いうちから そのことを さびしいとも不条理だとも 思わなかったけれど おとなになって 12月は特別な存在になった 夢見ることも 子どもらしくふざけることも 許されず 人形やぬいぐるみに 八つ…

会話

守れる約束しかしないもの あなたは言う こともなげに 破るから約束なんだって あたしは言う 期待もせずに 大丈夫? 大丈夫 でもそれは どっちの意味なんだろうね あなたにとって あたしにとって

忘却

夜中に どうしても思い出したくなるのです それは大抵 嫌なアイツのことだったり 好きなあの子のことだったり 自分の愚かさだったり 冷蔵庫の残り物だったり いつの間にやら空を見えなくする 灰色がかった 冬の雲みたいで憎たらしいのに その時だけは なんだ…

わけ

大好きなのに 大切なのに 独りよがりに わけを探す ほんの少し傷ついた 表情が見たくて 独りよがりに わけを探す ぼくだけの人であって欲しくて 独りよがりに わけを探す 寄り添うわけを 探す

あなたは決して

あなたは決して わたしに溺れることはなかった ふたり寄りそっても 秘密をうちあけあっても あなたは決して わたしに溺れることはなかった "愛してる" 符号を交換した 泡の消えたソーダ水みたいに "愛してる" 吐息も嘘になる 時を刻まない腕時計みたいに

究極の口説き文句

究極の口説き文句は 好き 一緒にいよう そんなハードル越えるみたいな 言葉も憧れるけど ほんとは もっと普段ごとがいい ついでだから一緒に行こうか 明日持ってきてあげるよ 腹減ったからいつものとこに 寄ってく? 特別感がないぐらいのほうが かえってき…

中くらいの都会

眠たさをこらえて 窓をあけると 波音が聞こえる ここは中くらいの幸せが巣食う 中くらいの都会だ 泣くのをこらえて 耳をすますと 羽音が聞こえる ここは中くらいの愛が蠢く 中くらいの都会だ 寒さをこらえて 瞳閉じれば 足元に猫が寄り添う ここは中くらいの…