猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん「猫そっくりの生き物」

トーザ・カロットの岬に すっくと人のように立ち上がる命を選んだ 猫そっくりの生き物が暮らしています 生き物は 小さな毛糸屋さんを営み 人らや猫らや森の住人らが かわるがわる店を訪れては “kanade”を染み込ませた毛糸玉を 買い求めるのでした お客の中に…

ベレー帽と猫そっくりの店主-1

雪が溶けたり積ったり つるりつるり足もとが心もとなく 鼻のあたまも 耳もしっぽも凍りそう こんな日は お店に着くまでに 人らも猫らもすってんころり!と なってしまいます 猫そっくりの毛糸屋の店主は 急いでお店のホームページに おやすみのお知らせを出…

喜劇

やがて元に戻るのだと 人らはそう呟く 確かに暑さも寒さも なかなか手強いが 室内のエアコンでどうにでも リモコンを手に風を動かせば それはそれは幸せだ 汗ひとつ流れず 震えあがることも忘れ 誰もが笑顔になる たとえ 星がひび割れ始めても

pot pie

ツゴウの悪いことには 全て蓋をかぶせせてから 火に突っ込むの チョチョイのチョイ そして 何食わぬ顔して焼き上げるの ほかほかで美味しいよ つやつやピカピカなのよ そのうち 天から大きなスプーンが伸びてきて 蓋ごと崩してしまうから 誰も隠れられないの…

今日を追い越すように

足もとが心もとなく 座っていても星からこぼれてしまいそうだ 斜めになった夜景が揺れて それでようやく 時間も空間も置き去りにしたことを知る 猛スピードで僕の街は近づきつつあるのに 夜は感情さえ隠してしまうから 泣いていいのか 笑っていいのか 迷いな…

小さなギャラリー

それは ほんの今しがたのこと 小さなギャラリーは活気に満ちていた まだ 懐かしむには近すぎて 思わず振り向けば 先ほどと変わらぬ光景が広がる いつものように再会を喜びあって 立ち去っただけなのに 時間軸ごと失われたみたいで 群衆にのまれながら涙をこ…

悲しく幸いだ

季節はかけ足だと 誰かが諦め顔で笑う 時は無情だと 誰かがしたり顔で呟く そうだ とどめておきたい思いほど 移ろいやすく 忘れたい情景ほど トゲに変貌する 上書きできないほど傷ついても 悲しく幸いだ わたしたちはここにいて それを知ることができるのだ…

ウソトウラ

性急になっても仕方ないと ゆっくり熱を迎え入れ ゆっくり熱を手ばなした 早急に諦めても仕方ないと ゆっくり光を受け入れて ゆっくり影をかたどった 緊急のことなら仕方ないと ゆっくり怒りをのみこんで ゆっくり言霊手渡した

魔-3

とりあげるものが すっかりなくなると つまんないわ そんな妙な理由で ようやくきみから解放される 外は雪 恋人たちは夢の中 きみは全てを僕に返すと 「また明日ね」 さびしそうに笑う 赤い実も 黒い実も 飽きちゃったわと 散々もてあそんだものだから 今や …

恋~空想版「フシギナカラダ」より

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜店主、旅に出る-10

ごとんごとん ごとん、ご、と、ん ご、とん 列車は岬に近い街の駅に ゆっくりとまりました 猫そっくりの毛糸屋の店主は 最終列車を降りました 月も星も隠れてしまったので あたりは真っ暗 人らが灯りもなしに散歩するには難儀な夜です 店主はここぞとばかり…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜店主、旅に出る-9

ごとんごとん ごとんごとん のんびりした音が近づいています 猫そっくりの毛糸屋の店主は “毛糸屋さんのいない街”駅に やってきました あと数分で最終列車が到着する時間です また何かを さささささ! と編んでみようかと思いましたが 帰るまでは魔法を使わ…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜店主、旅に出る-8

帰る日の夕方になりました 猫そっくりの毛糸屋の店主は 夢で見た溺れるまあるいもののことが 気になり もういちど「浮かぶ海」まで きてみたのでした 今日の海はオレンジ色で 相変わらずゆったりゆったり 波が寄せたり返したりしています 背伸びをしても ぴ…

架空花図鑑〜オミナエシ(女郎花)

寄り添いあって咲くことから 切ない感情と やさしい女を想起させるが 寒さの頃には 強い匂いを放つ imacveryさんによるイラストACからのイラスト

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜店主、旅に出る-7

朝陽が顔を出す頃 猫そっくりの毛糸屋の店主は 宿屋に戻ってきました ぽかぽかぬくぬくの寝床に 本当の猫のようにまあるくなると あっという間に夢の側へ 誘い込まれていきます 先ほどまで見あげていた海に まあるい何かが たっぷんとっぷん いったりきたり …

風に正直になる前に 雲に秘密を打ち明ける 光に隠れる前の夜 きみに愛を打ち明けた 星が溺れる終わりの頃には 思い出せない言葉が増えて あふれたふたりは 規則正しいリズムを刻む 空に嘘をあずけるたびに 夢が重くのしかかる せめて命を洗えればと 猫は踵に…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜店主、旅に出る-6「浮かぶ海」

ざぁ ざざぁ ざぁ ざざぁ うすぼんやりした光の中に 海が見えてきました まるで 低くたれこめた雲のように 海そのものが中空に浮かんでいるのです 猫そっくりの毛糸屋の店主は 波が寄せては返すのを しばらく見上げていました そして 旅行鞄から大きめの布を…

生まれ落ちる前の物語

しなやかな猫として生きるか すっくと立ち上がり 人のように(時に旅をしながら)生きるか 好きなほうを選びなさい 猫として生きれば 猫のまま召され すっくと立ち上がる命を選べば 悲しみは深まるだろうが 喜びも ひときわ輝きを増し 歳を重ねることすら 忘…

ある朝-2

みかんのジャムを きみはもう煮ない ぼくはカフェ・オ・レを コンビニで済ませる チビたちは (正確にはもうチビではないが) 「いってきます」の代わりに 「今日は遅くなるからご飯いらない」 そう言いながら出かけていく タブレットでネットニュースを眺め…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜店主、旅に出る-5「花屋フリュ」

毛糸屋さんのいない街では みかんの香りと森の香りが ほどよく風に紛れこんでいます 猫そっくりの毛糸屋さんは 旅行鞄を持ち直すと さっき風磨きのうさぎに 拾ってもらった襟元のブローチを よくよく確かめ なじみの花屋へ向かいました リサラヌアという透明…

幸せ鳥の真実

幸せ鳥と 呼ばれて欲の深くなり いつしか前より 不幸せになる

同窓会

やさしくておっとりしていて だから きみだけにはなんでも話せるよ 真面目で気遣いができて だけど 群れない感じがいいよね 求められるのは 置き去りにした時間と そこに生きた少しダメな自分 変わらないね すごいね 嬉しいね おざなりな挨拶の奥から 浴びせ…

ひとりとひとりになった日

ひとつくらいは 意味あること ほとんどは 意味ないこと ふたりが ひとりとひとりになった日 無理やりそういうことにした ほんとは 全てに意味があって ほとんどがこの日に集約されたのだと あとになってから 知るのだけど ひとつくらいは 意味あること ほと…

今日のいいこと悪いこと

同じ顔をしているのだ 結局は ただ まっすく見ているか 斜めに見ているか 前から眺めただけか 後から眺めただけか あるいは 晴れていたから 雨だったから もしかしたら その場にすらいなかった そんな些細な修飾はあれど 同じ顔をしているのだ 結局は 今日の…

magazine

突き出た女の両足が 逆さになっている 赤いマキシ 上半身は隠れ 笑みか叫びか恍惚か 唇は何を選びとっただろう 突き出た女の両足が 逆さになっている 黒いヒール 上半身は隠れ 強さか儚さか孤独か 瞳は何を選びとっただろう 突き出た女の両足が 空を貫いてい…

待ち合わせ

仮“騒”現実

無言電話

朝方

あくびをかみ殺し カゴをレジ打ちに渡す …っしゃいませえ〜 …ござしたぁ〜 こだまする街の効果音 今日はそれすら心地よく 店を出ようとして 仕事用エプロンを つん やさしく引っ張られた おとしましたよ 風を磨くうさぎが たまたま降りてきたらしい 小さな声…

手紙は届かずとも

手紙なんてはやらないでしょ 鼻面と耳先をひんやりさせて きみは笑ったような顔になる 受け取りかたも 送りかたも 失われてしまったのに 僕は変わらずペンを走らせる 文字なんて読まないわ 行儀よく座って きみはじっと僕の顔を見ている そんなことより ボー…