猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

自分の

自分の残像すら追えず うつむいていた やさしい人だと呼ばれて 頑固者だと指差され 目眩しだと罵られ 結局居場所が見つからないのである 自身の心情すら追えず 仰向けになった 弱い人ねと過ぎ去って 恩知らずねと笑われて 悲しいだけねと吐き捨てて 結局心地…

約束のカケラ

晩夏の印を見つけるために 目指す夜の岸辺 揺れたのは夢よりも淡い 恋模様 初秋の印を追い越すために 目指す眠りの岸辺 触れたのは夢よりも甘い 過去模様 二度と現れない 約束のカケラ

揚げ物

喪失

金曜だけが抜け落ちたような 日常がまた戻ってきた すなわち 月木は通常営業 土日は家で過ごし なぜか金曜の出来事だけ 思い出せないことが ここふたつきは続いている 映画館がすっかり遠くなり ライブはオンラインに頼りきり 週末の買物ぐらいはしているよ…

整理整頓

悲しみで体は重く 妬みで心も重く 涙は心の汗ならば 気持ちの晴れ間も 見えるのか 熱波で体は重く 羨望で心も重く 叫びが舌にのるのなら 気持ちの引き出し 片付くか *イラスト:いとうのりこさん(フリー素材作品)

雷雨の朝

天井の照明器具が ぼんやりと蝕を纏う 寝違えた背中を気にしつつ ゆっくり寝返りをうった 夢見が良かった分 目覚めは最悪だ 酒のせいか 慣れぬ恋のせいか 一足早く出掛けたらしい 相手の置き手紙に 気持ちが揺れる 雷雨の朝である

おこぼれ

思わず目を背けた 美しかろうが 乱れようが 一律に同じ名前で呼ばれることに 辟易したのである 恋人に優しくしたついでの 甘い時間の残り香を きみは愛だと言い放つ そうしたいなら それもよかろう あたしじゃない 誰かに手渡した後の おこぼれなんて 舌の上…

薄情な部屋

休みを消化するたび 薄情な部屋が置き去りになる しがみついた夢は剥き出しのまま あたしは見えない涙にくれる 思いは過去と変わらずとも 体は次第にあちらへ近づいていき 命が小休止するのなら 眠りは今夜も訪れぬ 愛を消化するたび 薄情な部屋が置き去りに…

残像になるまで-c

結局 同系色にまみれた赤を前に 涙も枯れて途方にくれる 夕方 街に落ちた影は 猫たちの忘れものだから 決して触れてはいけないと 子ども心に思ってた どんなに見事な影だとしても 褒められたことなど 一度もなくて ただ光ばかりが称賛される 美しさを疑えば…

きみが残しし痛みを思ふ 皮下をすべるトゲのごとく

残像になるまで-B

居場所がなくなっても 帰る場所を失っても それでも生きている 全ては消えゆくのだと 納得できずとも 残像に伸ばした腕は 真実でありたい 愛すべき人から自由になって 帰る場所から解き放たれて しがみついてたものは 失ったけれど 夢に伸ばした腕は 誠実で…

熱帯夜

左を向けば眠れないから 苦しくて髪を掴んだ 右を向けば夜が重く さびしくて手首を噛んだ すやすやと こんなに熱い身体で なんと幸せなと横顔に口づければ さも嫌そうに 払いのけ 夢の中で丸くなる 左を向けば眠れないから 苦しくて髪を掴んだ 右を向けば夏…

残像になるまで-A

居場所がなくなって 帰る場所が消えて それでも生きている 消えないものは ないのだけど 残像が幻でも 手を伸ばし続けたいのだ 愛した人が消えて 帰る場所から自由になって 手放せなかったものは 失ったけれど 夢が残像になるまで 追い続けたいのだ それだけ…

八月

休日

ほんのわずかに 朝は暗い かかわらず セミたちの音量は 最大値 最弱運転のクーラーに 身も心も寄り添う日々だ オンライン上映の 短編映画が始まるまでに シャワーを浴びて 軽くお腹を満たし ウェアラブルネックスピーカーと PCをつなげば 小旅行が始まる マ…

心なき

マイナス

通帳をマイナスにすることだけが 生き甲斐の恋人と 数年暮らした 咎めれば “なんで?数字が大きくなったって 借金ってわけじゃないでしょ 少しずつ返せているんだから 問題ないはず” にっこりして 決して僕に食ってかからない そうだ 名義は相手のもの 何が…

ぼんやり思ったこと

お腹のなかから 悲しい そうつぶやいた なぜかはわからない 「みんな」 という単語には警戒するけど 「誰もが」 には肯定感が漂うせいか 見過ごされていく お腹のなかから 悲しい そうつぶやいた なぜかはわからない みんなも そうだったのかな

生意気にも奥ゆかしく

わたしの(わたしが) わたしでも(わたしが) わたしに(わたしが) わたしも(わたしが) 心の声をぐっとのみこみ “わたしでできることがあれば” すまして言ってのけた 処世術だと自分を宥めて

花火もいつかの夢の中

急ぎの用がなくなって 来るべき人は急用で 雨はあがって肌寒く 花火もいつかの夢の中 ただ会いたいのは わがままで 理由をつくれば 疎まれて 違えた約束数えても 無意味なものだと 腑に落ちる 急ぎの用がなくなって 来るべき人は既読無視 雨はあがって肌寒く…

深夜のいためもの

顔を洗ってゆっくり呼吸した

いつもならパキッとした 夏を彩る花々を選ぶのに その日手にしたのは 思いがけずやさしい色たち パラリと落ち始めた雫を かいくぐり家路を急ぐ 少し葉をとり 少し茎を短く 丁寧に花をととのえては 生けていく やさしげな色たちが 不意にぼやけ ぽろぽろぽろ…

そんなこともあったような気がする

心に大きなケガをした 初めのうちは 何も感じなくなった 好きな音楽も 好きな映画も 自分の入口で引き返していくみたいで 次にやたらと涙が流れた 前触れなく 場所を選ばず そのうち 一日中眠って過ごすようになり たまに出かけて誰かに会っても 酷く酷く疎…

療養-7

信じられないぐらい 手首が腫れて 信じられないぐらい 痛みが走った 春先の早朝のことである 夏が深まり 禍は相変わらずであるが 傷は癒え 体のバランス感覚は戻り 心のバランスのとり方も ちょっとマシになった 痛みは残っているが 眠れないといったことは…

夏が来る

遠くなったり近くなったりを 生真面目に繰り返しつつ 僕の住む街にも 激しい雷雨がやってきた 身じろぎもせぬ黒猫を そっと押しやり 窓をあければ 思いのほか風は冷えていて 黒猫はアンモナイトよろしく 丸まっている 深くなったり浅くなったりを 生真面目に…

心を診る猫の医者-15(休診日)

気づいてから そろそろ3ヶ月になるだろうか それまでは 置かれた花びらが 彼より1枚少ないことに 疑問すら抱かなかったし 誰が置いたか確かめもしないので 始まりがいつだったのか 実は知らない ボクと彼との場所が どこだったとしても 律儀にそれは行われ…

降るはずのない雨

降るはずのない 雨が香る 慌てて探ったバッグの底に 黄緑色の小さな折り畳み傘 流行にもゴシップにも 興味のなかった君の 数少ないお気に入り 忘れてるぐらいの重みが あたしを楽にする そんなこと言ってたっけな 傘にもなれず 恋人にもなれず 旅すらしなか…

心を診る猫の医者-14(休診日)

ある日 言葉を探すのにも 歌を紡ぐのにもほとほと疲れて 心を診る猫の医者のもとを 訪ねた 人の姿をしていない友人たちの中で 人のためにも医者をやってる奴は 彼ぐらいではなかろうか それはともかく 友人に診察してもらうというのも 公私混同しているよう…

かみが・み・のかい・わ

響くサイレンに 街は押し黙る ここは最果て 頭の中の 暗く凍えた小宇宙 いっそ 風にマスクをかぶせてしまいましょう それとも 巨大な清浄機を大陸ごとに 設置しましょうか いえいえ 星ごと丸洗いしてしまえば てっとりばやい それはいい それはいいね そんな…

おやすみ

うつろに響く校舎のチャイム 1年生も2年生も3年生も 4年生も5年生も6年生も だあれもいない 色とりどりの紙吹雪が 夢にあらわれ 今日こそみんなに会えるかと 早起きしたのに 門の外には 先生がふたり おやすみになったから 今日は帰りなさいと ゆらゆ…