猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

マイナス

通帳をマイナスにすることだけが

生き甲斐の恋人と

数年暮らした

 

咎めれば

“なんで?数字が大きくなったって

借金ってわけじゃないでしょ

少しずつ返せているんだから

問題ないはず”

にっこりして

決して僕に食ってかからない

 

そうだ

名義は相手のもの

何が起ころうと

それは僕のことではないのだ

 

仕事も家事も

程よく分担している

通帳だって別々で

目に見える困りごとなど

何もないのだ

 

たまたま

君のバッグからこぼれた

通帳のページが

僕の目にとまっても

君は隠そうともしなかった

 

“とっくに知ってると思ってたわ”

にこにこ笑って

君はとびきり美味しいカレーを仕上げていた

 

君が置き手紙もなく

いなくなってしばらくの間

カレー屋の前を通るのさえ辛くて

夏を3度過ぎる頃に

ようやく遠回りの習慣から解放された

 

通帳をマイナスにすることだけが

生き甲斐の恋人と

数年暮らした

 

幸せだったか

そうではなかったのか

答えは見つからない

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