猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

禍を越えば

あなたで

抱き寄せたい 伸ばした腕が 突き放したい衝動と交錯する 愛してる 寄せた唇が 噛みつきたい衝動と混じり合う とても大切だ 指でなぞれば 壊したい欲望がたちのぼる 花の茎を熱湯に浸し そののち水切りをすれば 美しく咲くという それを試したくなる あなたで…

ふたり

イラスト:いとうのりこ さん(イラストACにて公開中の作品) 色のない世界を 漂うような恋をした 傷ついても 傷つけても 流す涙すら持たず 抱擁すら与えられなかった 色のない世界を 漂うような恋をした 嬉しい気持ちも 悲しい気持ちも 区別がつかず ただ黙…

いかさまのごとく

イラスト:いとうのりこ さん(イラストACにて公開中の作品)

こわいゆめ

気づけば じっとり汗をかいて 安全な自宅の寝床にいた こわいゆめの正体は たいてい自分自身なのに 半分眠った脳が 潔くそれを否定する 雨が消えることがないように 感情もまた 空が青くなった頃 あふれて全てを連れ去ってしまう 気づけば じっとり汗をかい…

覚書

雨を音で

雨を音でひろう 風の重さでも 窓の滴でもなく 気づいたのは ほんの昨日のことだ 雨は音をひろう 街に心に溶けこむために まるで 幼子のように 無心に音を集めている 川はあふれ海は泡だち 雨がいっそう騒がしく 哀しみの深くなる 雨を音でひろう 風の重さで…

心を診る猫の医者-13

ドロドロでベタベタで 弱っちくてずるいんです それが本当に本当の 自分の芯にある いっそ 体から心を全て切りとって ゴシゴシ洗いたい だけど 誰に話しても 人はみんなそんなもの だの 考えすぎだよ 莫迦だねえ だの 真面目に受けとってくれる 人間はいない…

押しつけ屋-4

昼休みに部署へ行き 打ち合わせと立ち話の中間程度の 会話を交わす のんびりした社風でもあり いざとなればテレワークもあるので 無理して出勤せずとも 咎められはしない 見下ろせば スーパーの駐車場は ひどく混んでいて 人らの焦燥感が このビルまで漂って…

押しつけ屋-3

翌日は 昼からの勤務 少し早めに家を出た 受けたバトンは さっさと手放すに限る 通りを10歩と進まぬうちに ひそやかなため息3度 まるで自分の鼓動にも似て くっきりと 託す相手をしっかり見定め 「好きに使いなさいな」 その人の手に 小さな包みを握らせ 風…

押しつけ屋-2

「では、ね」 押しつけ屋は あっという間にいなくなり 今やバトンは託された 何を思おうと 何をしようと 自分がやったとわからない なんと素晴らしき哉! その日は ようやくテレワークから解放された 記念すべきひとときでもあり かと言って このご時世なの…

押しつけ屋-1

「半端に余ったのでよかったら」 その人は 子どものこぶしほどの 可愛らしい包みを 押しつけてきた いやいや 不足はありませぬ そう声を発するまも与えず その人は 「では、ね」 足早に消えた 巷で流行りの 押しつけ屋である ふうう、と知らないうちに ため…

庭師とヒペリカム

かじりつきたくなる 彼はそう言って 色づく固い実を撫でた 無骨な指は やわらかさを求め 深淵に近づいた かじりつきたくなる 彼はそう言って 色づく固い実を撫でた 無骨な指は 花を散らし実を結ぶ 黄色の花から 似ても似つかぬ 優しげな固い実を結ぶ

コレクター

惜しげもなく 古びていくさまを 愛らしいと あなたは笑う 惜しげもなく 朽ちていくさまを 美しいと あなたは涙する 惜しげもなく 去っていけるなら 全て許されるだろうか 許せるだろうか

また今度

ほんとに欲しい? 今すぐ必要? 代わりはあるでしょ 足りてるでしょ 主張してくる買い物メモたち あたしが書いて あたしが迷って あたしが決めた 小さななんでもないけど 必要なものだというのに 財布の中は カードが行儀よくおさまる 家計費を気にしなくて …

なんとなく

たれ

きたれ しみたれ 幸あれ 見せたれ 手練れ きみ誰 だけど たまには叫びたい もうっっっっ ばかたれっっっ bBearさんによる写真ACからの写真

花一輪でも何かが変わるから どんなにすすめられても 習慣にないことは根づきにくく 買っては飽きて 飽きては買い もらっては枯らし 枯らしてはもらい そのうち 花瓶もハサミも手放して 結局は 風で倒れてあぶないし あたしってばマメじゃないんだし 花がな…

夏の香

雨と競争しながら たどる思い出は 決して平坦なものばかりでなく あなたの背中で 本当は何を思っていたかなど 責めたてられることが大半である 雨と競争しなくても よくなってからは フロントガラスをすべりおちる粒に ふと 思い出なんかに負けないぞ なんて…

禍にありて

心を診る猫の医者-12

いつか眠りはやってくる 深く遠く消えゆく時に 今は削るぐらいで ちょうどよいのでしょう あなたの体にあっている 誰にでもいずれ眠りは訪れる 深く遠く消えゆく時に 眠れないから 眠くないから 眠らねば と自分を責めたてないことだ 活動時間が人より増える…

祈りと命

祈りはささやかですが 祈りは強いものです 時に心を砕かれ 時に絶望に漂い それでも 涙を持って種を育て続ければ 芽吹きと実りを迎える日が 訪れる 命はささやかですが 命は強いものです いつの時代も変わらないのです

かかかの歌

ゴミ袋

悲しいと ゴミ袋が膨れあがる 生ゴミも出ない プラスティック容器を捨てることも すっかり減った それなのに 悲しいと ゴミ袋は膨れあがる いけない何かを隠したり 思い立って断捨離したわけではない それなのに 悲しくて ゴミ袋ごと膨れあがる あたしは雨ざ…

7月7日に雨降って

7月7日に雨降って まだ梅雨だったと うつむいた 7月7日に雨降って 黒い傘を探してた 7月7日に雨降って ひとりになったと 思い知る 7月7日に雨降って 心にさす傘 探してた

存在とエンプティ

スマホに挿したままの 充電器が点滅して エンプティを伝える 機械人形が黙りこむように ことりとも聞こえない 午前3時 架空は確かに存在する なぜならエンプティは その中でしか生きられないからだ きみがどう思おうと 架空は確かに存在する エンプティを抱…

キミノナカデ

閉じ込められたいのだ 音符になって 言葉になって 心の行間にくっきりと 閉じ込められたいのだ 光でもなく 影でもなく 心の片隅にくっきりと 刻まれたいのだ あたしがあたしの輪郭を失っても キミノナカデ 閉じ込められていたいのだ ぐっとぴさんによる写真A…

ふたり

療養-6

“今までよりひと回りほど大きく” 生まれて初めて そうオーダーした ブレスレットを選ぶとき 標準より細めに作っていただくのが 常であったが 怪我を負えば当然 前と同じにはいかないこともある そのひとつがサイズであった 腫れがひき 取り落とすのはトース…

きみを待つ

鼻の脇を少し気にして あたしは ゴムを引っ張った “止まない雨がないのなら” 2時間遅れのきみをなじりたくなって 慌てて 右手ごとスマホをバッグに追いやる きみは 約束なんてしなかったことにして 遠くからあたしを見てるのかもしれないし きみの 乗った電…