猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ひとつ

トーザ・カロットの岬に 不思議な毛糸玉の並ぶお店があります 猫そっくりの店主が まあるい手でていねいに触れれば ふわふわふわ〜とやさしく歌う そんな毛糸たちです 毛糸屋さんは気まぐれに 小さな小さなワークショップを開きます もともとは 編み物がこん…

誰でもない僕になった

朝をひとりじめしたのは 何日ぶりだろう かっと照りつける陽射しを縫って さっと通り抜ける秋の風は ほう、と肩と背中を いつもよりやわらげてくれる 絡みつく仮想現実から離れたのは 何日ぶりだろう 時間さえこぼれてしまう場所から 逃亡して 誰でもない僕…

雲を喰う

この広い広い空ごと 貪ってやりたい ようやっと そんな季節になり そうは言っても姿かたちは 人らと変わらずにいるので 誰も見ていない時を見計らい たれこめた雲をちぎってもぐもぐ なんというか 物足りない可愛いものだ 本性をむき出しに生きても この時代…

とめどなく情けない日々

閉じ忘れたアプリが じわじわ侵食するような 日々はもうとめどなくて 泣けばいいと 笑えばいいと そんな言葉さえ辛いばかりだ 開きたかったアプリを キョロキョロ探すような 日々はもう情けなくて 愛すればいいと 憎めばいいと そんな言葉さえ辛いばかりだ

秋の光景

膨らませたほっぺなどと オトナゴコロをほのぼのさせるように 可愛らしく振る舞いはしない そのかわり それを直接ぶつけたりもしない 誰かへの罵詈雑言なんて そこらへんに 穴でも掘って埋めたほうがまし 幼い頃から確信していたものだから (そりゃあ穴こそ…

三面鏡

三面鏡をのぞきこめば ずらりとあたしが生まれ落ちる ぐるりと囲まれ癒える孤独 深い緑にまみれた匂いは 誰のものであったろう すらりと抜かれた悪意だろうか くるりと巻かれた秘密だろうか それとも 残りカスの愛情だろうか 三面鏡をのぞきこめば ずらりと…

恋におちたら

日没の時間を 閉じ込めた箱に 溶け落ちていくふたりを 演じても 幸せにはなれないのだけれど そこに平行線しか引かれてなくても どこかで望んでいるのだ あなたさえいればいいと 愚かにも 切望しているのだ Mari Nishimuraさん作ロゴアート(部分)

木立

木立がざわざわふるえて 蝉時雨のこぼれるこの道が 好きでした 疲れきった帰り道 わずかな風のたまる道 アパート前に さわさわと葉擦れが響く たまに夜更かしな蝉がいて たまに早起きすぎる鳥もいる みんな生きてるなぁ ふっと笑えて ほっとする 小さな習慣…

狂秋

生きてきて 何度目かの日曜日 あたしはスマホとBluetoothスピーカーで 遠い街のラジオ局を選ぶ 空が嘘をつかなかったのは 昔の話で 人よりも前触れのないものだから 信じられる事象は減るばかりだ 生きてきて 何度目かの日曜日 あたしは遠い街のラジオ番組を…

伝わるもの

愛が豊か過ぎても 憎が溢れ過ぎても ひとは 言葉をなくすものです ぎゅうっとすれば 伝わるものもあるでしょう いくらかは 多分きっと

conceal

生み出した言霊の なんとグレーに満ちたこと 優しくて甘くて 誰にも それとは気づかせないように 念入りに固く 決して崩れたり解けたりせぬよう かじってこぼれ出たものは なんとグレーに満ちたこと 外側は香ばしく艶やかで 舌に絡みつき喉をすべり落ちた 芽…

怪獣さんに食べられたの

怪獣さんに食べられたの 娘はニコッとした いいことも 悪いことも もともと出どころは同じ あっちに曲がるか こっちに曲がるか でもね 曲がる前に食べられたの どっちかなぁって考える前に 怪獣さんが心の出口のところで 待ってるんだ あたしからあたしが滲…

そんなに前ではないのに

宇宙が小さくなったわけではないのに 何もかも知ってるような気分になって 迷ったままでいようと決めたのは そんなに前ではないのに きみがいなくなったわけではないのに 何もかもわからないような気分になって 笑ったままでいられたらと泣いたのは そんなに…

大切そうに

大切そうに抱えたものを 大切そうにさよならと 大切そうに縛りつけても 大切そうに輝くのなら 大切そうに話した夜も 大切そうにしまっておく 大切そうに取り出しては 大切そうに抱きしめて 大切そうに手放せば 大切そうに歩き出す

かすかな記憶

うちの子じゃない 涼しい顔して そんなことを言う人たちと ようやくあちらとこちらに 別れ別れに 平気な顔して 寂しがって見せる人たちに ふざけないでよとも 口にできず 近しいのに気を遣って 近しいから分かり合えない 思い過ごしは少なく だが 今となって…

にわかの雨が体を包む

にわかの雨が 体を包む カフェとポストを探しながら 傘をさすべきか少し迷う にわかの雨は 街を包む 教えられた店は遠く 引き返すべきか少し迷う にわかの雨が 空を包む 夏を消し去ることを まだ迷っているように

あなたと同じ屋根の下

あなたとはもう バラバラになりたい 望んだのは祈りにも似た あからさまな あなたと同じ屋根の下 重たい空気 望んだのは叫びにも似た つまびらかな あなたをもう 彩ることもない 望んだのはため息にも似た ささやかな

きみに会いたい日

きみに会いたいのに きみに会えない 意味を持ち合わせないから 意味がない きみに会いたい日に きみに会えない 勇気を持ち合わせないなら 意味もない きみに会いたいけど きみに会えない どうにも不釣り合いだと 先走る言い訳 きみに会いたいから きみに会え…

彼はそう言って去って行った

あふれるつぶやきに 視界はさえぎられ それが嫌で 僕はSNSから離れた 数十秒に一度 スマホがぶるると鳴いて 愛する人からの声は すっかり隠されてしまう それが悲しくて 僕はSNSから離れた 友達ではない人と 友達になるのは興味深かったが 本当の世界を見失…

やがて溶けて消えるまで

世界は揺れる ふるふる揺れる 人らも猫らも大河も空も いっそ同じ大鍋の中だから 世界は回る ぐるぐる回る 人らも犬らも大地も風も いっそ同じ大鍋の中ならば かき混ぜられて ふらふら泳ぐ いっそ何にも染まらない 鳥や魚に導かれ どこまでも いつまでも 何…

手紙

離れて何年も経つのに 返事に窮するような便りをよこしては ずんずん君は 僕の心を踏み荒らす あたしさびしいの みんなどうしてるかな 昔みたいに会いたいよねえ それぞれの暮らしがあるのに 簡単にはいかないだろうに どんどん君は 僕の心を腐食する また一…

きみのための

傷ついた獣のように 深く眠れば 言葉を掘り当てることも できるだろうか きみのための

狂った季節が消える時

狂った季節は それでもあとを濁さずと言いたげに 一夜にして消えていった 風の匂いも 空の遠さも きみの声が届く距離も 本当はそんなに変わってはいないのだ 狂った季節は それでもあとを濁さずと言いたげに 一夜にして消えていった 雨の匂いも 時間の流れも…

それを知らない

わがままになったのは 空ではないのに わたしたちはそれを知らない わがままになったのは 時間ではないのに わたしたちはそれを知らない わがままになったのは 季節ではないのに わたしたちはそれを知らない わがままになったのは 音律ではないのに わたした…

探す

チョコラテさんによる写真ACからの写真 歩道橋 たれとぶらふや あきあかね

まるで真夏の猫みたいで

忘れてしまったものたちを もう一度呼び戻したい そんなことで幸せになれるなら 罪なこと 酷なこと 甘い感情に混じり合うのは いくらでも我慢がきくけど きみが去ってから ぼくはまるで 真夏の猫みたいで 消えてしまった時間たちを もう一度呼び戻したい そ…

忘れもの

わたしはわたしを忘れ わたしは空を忘れ あなたはわたしを忘れ わたしは愛を忘れた わたしはわたしを忘れ わたしは光を忘れ あなたはわたしを忘れ わたしは憎悪を忘れた わたしはわたしを恐れ わたしは闇を恐れ あなたはわたしを恐れ わたしは涙を恐れた

杉玉を

杉玉を横目に急ぐ君の家 qumicoroさんによるイラストACからのイラスト

晩夏

キライなくせに いってしまえと心底願ってるくせに 解放される頃には ぐったりしているくせに もうちょっと あと何日か とどまっても許すよ 愚かにも毎年考えてしまう 暑いのはキライなくせに 夏なんていってしまえと心底願ってるくせに 解放される頃には ぐ…

世界は不思議に満ちている

せっかく持ち合わせているのに 使い道がないのはつまんない 彼女はそう呟くと 13個目のアカウントを開いた 誰かとつながるわけでなく 誰かを探すわけでもなく 裏アカ欲求もまるでなかったが もしものために なんとなくこさえているうちに 13個になっていた …