猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

光と影

光だけを編むか 影だけを紡ぐか 迷っていた頃のあたしたちの話 どちらかに特化したことは 街中にあふれていて “いいこと” “悪いこと” などと便宜上隔てられた “いいこと”は きみにとっては致命的で “悪いこと”は すごくあたしにフィットしてて (スイーツだ…

庭先

庭先の蝉重なりて 雨を知り

喧嘩を売ってもしかたない

プチトマトかよ にこりともせず そう言ってのけた あまりに雨が降らなくて あまりに風が熱すぎて 沈みかけの夕陽に 大真面目に そう言ってのけた お前に罪はない あるとしたら俺らのほうだし ああそれでも 喧嘩のひとつもうりたいじゃないか 最高気温40度な…

ピアス

夕日を映したピアスを 一対 小皿にころんと置いた だいきらいなあなたがくれた 大好きな色のピアス あなたのことはだいきらいになったのに 大好きな色はそうそう変わらなくて 別の人を好きになるたび 自分で買ったのよ と 小さな嘘をついた 夕日を映したピア…

突拍子

ふたりは 突拍子もない場所で会い 突拍子もない言霊を交わした あったかで 軽やかで ちょこっとおふざけな言霊を 幸せを見つけるのは苦手で 幸せを味わうことに慣れてはいなかったが 突拍子もないタイミングで すっかり消えてしまう そういうものだと よくよ…

幸せ

泣き疲れた口元 小さな寝息 ぎゅっとしがみつく両の手 ささやかな悪さを叱られた 昼下がり うとうと揺るる 時計が回る ゆらゆらそろろ 幸せ巡る 空は風待ち 風は雨待ち 人らも猫らも うとうと揺るる

手ぬぐひ

手ぬぐひの 折り目に満ちて夜ひとつ

ばかじゃね

ばかじゃね 自らに問うたところで はてさて意味はあるのだろうか ばかじゃね 自らを諭したところで できない理由を紡ぐだけだ ばかじゃね ため息ひとつ こぶしを握る ばかじゃね 空に笑顔を 向ける朝

胞子

胞子のようにしたたかに 図太くなれたら 生きるのはあるいは もう少し楽だったのか 人に生まれてきたからこそ そんな妄想すら幸せなことなのだと 気づきもしないで ぶつくさ繰り返す 遺るのも遺すのも なんとたやすいことだろうかと 胞子に憧れ夢を見る 自分…

せっかくだから

塗り絵のパーツを いっそ黒く塗りあげたら せんせはどんな顔するかしら はみださない 生意気言わない みんなと同じじゃなくてもいいけど たくさん色があるでしょう せっかくだからとりどりに せっかくだから美しく せんせは いつも無理難題を手渡してくる あ…

ピアノウーマン

三角なだけでは 音楽にならないよ 困り顔のコンダクターに 言われ 四角い音符でも なめらかに歌わねば 寂しげなギタリストに 告げられ 平均律じゃなくて不文律だね どこか他所でやっとくれ 師匠に匙を投げられた 弾くのは初めから好きではなかった そのこと…

雨を紡ぐ

雨を描いておけば なんとか格好がつく そんな小さな言い訳をしつつ したり顔で雨を紡ぐ 散りばめて それとは感じさせず そこかしこに気配を編んで 律を乱し列を汚し 何もかもすっかり台無しにしながら したり顔で雨を紡ぐ 絵空事はより美しく うつつはより儚…

君のアリア

隠しちゃえばいいと 思ったの 君のアリアはとても素敵で 心が痛いんだもの いっそ G(ゲー)線をとっちゃえ そうも考えたの 君には意味ないのにね 莫迦をする暇があれば 君の10倍やら20倍やらの 鍛錬を重ねればいいものを 君が大好きなのに 君を尊敬してるの…

詩人屋さんのひとりごと-h

むごい出来事が行儀よく並んで ぼくらはそれを持ち歩いてる こんな時代だと嘆きながら ぼくらはそれを弄ぶ むごい出来事が行儀よく並んで ぼくらはそれを持ち歩いてる こんな時代だと嘆きながら ぼくらは指先でそれに触れる 怒りと悲しみは分離できないのだ…

トーザ・カロットの岬の夏-2

紫陽花という不思議な植物を 宇宙猫から教えてもらいました 長い雨のときを好み さまざまな色や種類があるとか 「写真添付した、美しいから」 花のように見えるのは花ではなく ガクと呼ぶらしいことも 添えられていて 香りはそんなにしないらしい 宇宙猫が送…

トーザ・カロットの岬の夏-1

トーザ・カロットの岬に 今年も短い夏がやってきました 猫そっくりの毛糸屋さんの店主は 棚や床をいつものように丁寧に 拭きあげながら 雲を読むひとらとの会話を思い返していました 小さな青い星が本当はどこにあって どんな物語に彩られているのか 猫だけ…

詩人屋さんのひとりごと-g

今生ではまだ 死んだことはなく 然りとて 予行練習するわけにもいかず ただ ああ昨日より半歩だか一歩だかわからぬが あちらに近づいてはいるのだと 目覚めるたびそう思う おぼろげな記憶では やたらと広い川にひとり佇んでおり 夢なのか 命の器を手放した頃…

カチリ

目の前で 誰かが鍵をかけた 瞬間的な負の感情を 吐き出すために そうして気が済めば 何食わぬ顔で扉を開ける 目の前で 誰かが鍵をかけた 積み上げた負の感情を しまい込むために そうして気が済むまで 何食わぬ顔で暮らしている 目の前で 誰かが鍵をかけた …

くるくるくるくる

くるくるくるくる 二人は回る くるくるくるくる いつまでも 食べたかったのは あなたの心だったのか あなたの影だったのか あなたの体温だったのか 全てだったのか 食べられたかったのは あたしの体だったのか あたしの光だったのか あたしの冷ややかな視線…

夏の午後

さく、さくさく 黒髪が落ちる しゅ、しゅしゅ 耳元でブラシが跳ねる ゴォ、ゴォゴォ ドライヤーの風があたたかい 髪の長さとボリュームを 互いに確めあえば もう 店主は何も言わない 僕も何も言わない 静かに時が流れ 店内にはラジオの音が満ちている さく、…

詩人屋さんのひとりごと-f

コーヒーを淹れる これはいつものこと あの星でしかとれないとか あの店のあの豆とか 何時何分になったらとか 拘っていたが ある時 一切合切手放してみた どこの星の豆ということも あの店のあの豆ということも 時計にしばられすぎるのも 窮屈すぎやしないか…

恋愛事情

血を吸ひて 腹ふくれたる昼さがり 心踊るも恋は焦らず

詩人屋さんのひとりごと-e

猫でも人でもないのなら 今頃どこにいただろう 空は好きだったろうか 水辺を愛しただろうか 花の香に ふふふと笑ったろうか 猫でも人でもないのなら 今頃どこにいただろう 深海魚になって 日がな一日漂い続け きっと君には会えなかったろう 猫でも人でもない…

友人

たまにはよかろうと 泣ける映画を観に出かけた 情けない顔を見せても動じない友人と あたしは日傘を忘れてて 友人は買物メモを忘れてて あらあららと ちょっと慌てて劇場に駆け込んだ 映画はあまり泣けなくて ふたり首を傾げながらのランチ だんだん だんだ…

静かな雨の約束-5〜トーザ・カロットの人々

小さな青い星には 七夕という伝説があると 宇宙猫から聞いたことがあります ただ 起こったのか起こらなかったのか わたしたちにとってはそれだけのこと 物語としては興味深いが 「猫にとっての時間軸はあってないようなもの」 猫そっくりの毛糸屋の店主は 瞳…

静かな雨の約束-4〜トーザ・カロットの人々

遠い遠い明日の明日の そのまた明日のこと 飛ぶものは消え 浮かぶものは去り どちらでもないものたちのうち 最後に残るのは猫だという説があるのです ある種の虫でもなく ナノ世界の住民でもなく ひとでもなく すっくと立ちあがることを選んだ猫 ニャァの言…

くらぶる

陽も落ちて 怠け心の甘美なり 残り仕事をきみとくらぶる [作者註] くらぶる〜比べる、の他に“心を通わせる、親しくする”の意味があります

眼鏡橋

いにしへびとの 夢裡にて会えなば眼鏡橋 石数へつつやをら歩む

雨はまだ

シャツの中を風が泳ぐ 雨はまだ海の上 シャツの中を風が泳ぐ 雨はまだ岬の上 シャツの中を風が泳ぐ 雨はまだ水の門(と)に シャツの中を風が泳ぐ 君はまだ来ない

詩人屋さんのひとりごと-d

ときどき家出したくなる リセットしたいわけではないのに 命を抱きしめているのに 愛されていても 愛していても 笑っていても 泣いていても あなたといても あなたがいなくても さびしいのは それはもう仕方ないのだとしても ときどきこの人生から家出したく…