猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2018-02-01から1ヶ月間の記事一覧

誰かにもらったはずのキスを思い出しながら

気の早い春雷がやってきました 灯りがゆらゆらして 昔もらった手紙みたいです 誰かにもらったはずの手紙は 燃やしてしまったのか 破りすててしまったのか そもそも手紙なんてもらわなかったのか 春の嵐は 淡い思い出さえ嘘になりそうで 指先がざわざわするの…

緋色の森の惨劇

可愛いでしょう?この胸元 綺麗でしょう?深い色 わたしが作ったの だから 今日からみんなこれにしましょうよ きっと楽しいし お揃いだし目立つよ 誰よりも 可愛いでしょう?この胸元 素敵でしょう?夕陽の色 わたしがこじあけたの だから 「せーの」でみん…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-20

お店に新しく並べる毛糸玉に “kanade”を定着させる日がやってきました トーザ・カロット岬の風にあてたり 雪に浸したり 話しかけたり そんなことを繰り返すうちに 毛糸たちは月の光のように輝き始めます そのままにしておくと 調子はずれな歌を奏でるものが…

誰かに書いたはずの手紙を思い出しながら

お元気ですか 星が壊れ始めて ずいぶんたちました きみの背中も きみの声も すっかり忘れたわけではないけれど 僕は相変わらず 空と海が混ざり続けるのを ここで眺めています そう あのときと何も変わってない きみの選んでくれたコーヒー豆が 妙に懐かしく…

壊れるままに

シートのぬくもりが薄れて きみと紡いだ時間が たやすく壊れていく 閉じ込めた思い出がもつれて きみと重ねた日々が たやすく壊れていく 描いた未来がかすんで きみと交わした約束が たやすく壊れていく

途切れる二人

冷えたコーヒーと 甘い痛み あなたはいつもそうだ 冷めたささやき 苦い抱擁 きみだっていつもそうだ 終わるの? 終わらせたい? 同時に口にして 泣くでも笑うでもなく 熱い背中を感じていた

街は灰色でした

街は灰色でした いつも何かに渇望し いつも何かを探し続けて 街は灰色に染まっていました 悲しみと喜びが交互にやってくる そんな法則からすっかりとり残され 街はいつも灰色でした 街はいつも旅人で賑わい 誰もがそれを受け入れて随分たちます 悲しみより喜…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-19

トーザ・カロットの岬に 猫そっくりの店主が営む毛糸屋さんがあります 岬の突端にはリサラヌアの花が群生し 今朝はまるで そこだけ雪が積もっているようです 明け方 びゅうびゅうという風の音に混じって 何かがはじけるようなかすかな音が聞こえました トー…

突然

お別れは 突然やってきました まるで リハーサルなしの本番みたいに 幾度か繰り返されてきたわけですが どうしても慣れないのです お別れは 突然やってくるもの まるで 予習もせず試験を受けるみたいに 幾度か繰り返されてきたわけですが やっぱりへっちゃら…

がらんどうの星

がらんどうの青空 曇り空は窮屈で 雨降りはきらわれもの 空っぽの海 魚たちは饒舌で あぶくを集めてた がらんどうの星 かろうじて今日も回る 風をつなぎとめるのは 希薄な挨拶と 苦いシズク

嘘つきさんの日記

透明な季節が終わって 嘘だけを隠れ蓑にするのに飽きて あしたを夢見るささやかな幸福と 瞬間を手放し続けるさびしさとを 正直に書きつけることにしました

あした

あした 少しかしこまって あした 少しおめかしして あした 少しときめいて あした 少し眠れずに あした 少し早起きして あした 少し丁寧に あした 少しやさしく あした 少しゆっくり 手渡されるものを抱きしめる

体の中で

確かめても迷っても 最後にあたしにかえってくる 進もうが戻ろうが 結局あたしが置き去りになる 詰めこみすぎた古いもの 喉につかえる新しいもの 程よくわけなく溶け合えば どんなに楽だろう 体の中で 胸の中で

ゆううつなベイビーブラウン

ゆううつなシュガーブラウン カサカサのパンケーキ 無理に笑ってミルクで流しこむ ゆううつなレイニーブラウン ベトベトのポーチドエッグ 無理に笑ってスープに溶かしこむ ゆううつなベイビーブラウン ぐるぐるの片想い 無理でも笑って好きなのって呟いてる

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-18

トーザ・カロット岬の毛糸屋さんに “手紙をあのひとに” “今日なら伝えられる” “花束よりも鮮やかな夕焼け” そんな名前の毛糸玉たちが 並ぶようになりました どこかにあるという小さな青い星 噂ではチョコレートや花束を 恋人に渡したり 友達同士で分け合うと…

君に伝えたいこと

玄関には季節の花 食卓には旬の食材 仕事の愚痴でもこぼそうものなら 憤りすら共有して “だいじょうぶ、あなたはちっとも悪くない” それが僕には苦痛だ バスルームはピカピカ トイレは薄くミントの香り ふかふかタオルとふかふかスリッパ どれもこれも白く輝…

元カノ

明るいのに寒くて 寒いのに明るい つまらなそうにこぼすと きみは誰かに素早くLINEして もう消えてくれと言わんばかりに ぼくに硬い笑みをよこした スマホに変えたがった理由を 知りたがった頃から 隔たった時間軸に迷い込み 角ばった言霊の応酬が始まった …

月は血の 涙は海の 雲は不安の 心は時間の 恋は花の 影は命の 風は雪の 色は哀しみの

蝕事

生まれ落ちる前から 決められていたのは 星を食べたり 星に食べられたり それをくりかえしながら 終わる日まで過ごすこと そう言えば命の中に 星の名残はいくつもあって たとえば心だって時間のように 急いだりゆっくりになったりする 生まれ落ちる前から 決…

もうどっちでもよくて

命の終わりが怖かった頃 眠らなければいいのかと フリだけして 夜を愛した 命の始まりが怖かった頃 生きるのも怖くて フリだけして 周りに溶けていた 不確かなことに憧れ続けた頃 泣くことが怖くて フリだけして 優しさをまとった ふりだしに戻るのも ゴール…

ひ・と

こんなに難しくて これほど愛しい こんなに醜くて あふれるほど愛しい

海底

追い詰められる自分を 追い詰める自分が あざ笑う たったそれだけ? と 追い詰められる自分を 追い詰める自分が 苦笑する そんなものなの? と もはや自分が向かう道もすべも 見失いそうになりながら 浮遊する言霊を頼りに またデジタルの海に潜る

ある親子

おやすみと言ったあと 決まって 「はい」 と頭をなでてくれる たがいちがいに繋がれていた頃は 触れ合うことさえ 怖かったのに またねと言ったあと 決まって 「はい」 と握手をした すれ違いざまに会話するしか なかった頃は 顔も見たくないと 思っていたの…

孤独感

光にも染まらず 闇にも癒されず 何にも属さない 孤独感とはそういうもの なのかもしれない 誰かに教わりすぎず 誰にも伝えきれず 何にも属さない 孤独感とはそういうもの なのかもしれない

灰色がかった雫に 薄く青が混ざって わたしはただ みていたのです 春を待つには浅く 冬を忘れるには深く 空が乱れるのをただ みていたのです 灰色がかった朝に 薄く青が混ざって わたしは息を吐きました 春と呼ぶにはかすかな 冬を手放すさびしさ混じりの 雨…

ハルトアオ

春は 青を深くその身にまとい 優秀な技術者のごとく丹念に 若者を染めあげる 思い出せないこと 思い出したくないこと どちらも降り積もっていくけれど 同じだけ 想い描く未来も降り積もっていく 春は 青を深くその身にまとい 優秀な技術者のごとく丹念に 空…

架空花図鑑〜サクラシオネ

トーザ・カロットの岬からも 居場所を探している女の子の住む街からも ほんの少しはずれたところに 森があります まっすぐ行くと やがて三つ目たちの暮らす窪みが見えてくるのですが その話はまたの機会に ところで あなたの暮らしている星には確か サクラ …

架空花図鑑〜リサラヌアの花

雪に恋い焦がれるように 透明な花びらを白く深く染めることから 「冬はじめの少女」「雪染まりの日」「純恋花」「純愛草」 と呼ばれる 風の吹き付ける場所を好むとされ トーザ・カロット岬に自生しているのを 見ることができる 毛糸の染料としても知られるが…