猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-19

トーザ・カロットの岬に

猫そっくりの店主が営む毛糸屋さんがあります

岬の突端にはリサラヌアの花が群生し

今朝はまるで

そこだけ雪が積もっているようです


明け方

びゅうびゅうという風の音に混じって

何かがはじけるようなかすかな音が聞こえました


トーザ・カロットの岬でも

居場所を探している女の子の住む街でも

宇宙猫の住処でも

三つ目たちの暮らす窪みでも

かすかな音が聞こえました


猫そっくりの店主は誰よりも

その音を心待ちにしていて

花から色を分けてもらいながら

“kanade”をどんな風に毛糸玉に定着させようかと

思いをめぐらすのだとか


「雪染まり…」


猫そっくりの店主は

ニャァと言うかわりにそう呟くと

ちょっぴり尻尾をふくらませました


と同時に

降りたての雪のようだった花弁が

みるみるすきとおっていったのです


店主はリサラヌアの花から分けてもらった色を

まあるい手で大事そうに抱えて

ゆっくりゆっくりお店の中へと姿を消しました


トーザ・カロットの岬には

今日も涙を吹き飛ばすような風が

びゅうびゅうと吹いているのです