猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

Arrière ! Détestable mélancolie !

4月の終わらぬうちに 憂鬱がやってくる 2年前のちょうどその頃は 怪我による療養中で それが起因しているのは間違いなかろう 完治はしても雨や寒さに遭えば シクシクと訴えるものが 手首のあたりに居座るのである 気落ちもせず程よくあきらめの心情で 満た…

病み上がり

久しぶりに あたりまえの朝をむかえ なんでもない飯を食い なんでもない詩(うた)を紡ぐ 久しぶりに あたりまえの朝をむかえ なんでもない風を浴び なんでもない光を集める 久しぶりに あたりまえの朝をむかえ なんでもない時を喜び なんでもない道を歩く

遺せるものは愛だけ

魔法であろうがなかろうが 夢を持とうが持つまいが すべては始まりと同じく すべてが終わる どんなに厳重にお呪いを施しても いつかはほどける そんなものなのよ 今日は幸せしかない日 明日も明後日も そう信じられる日は 体の調子がすこぶるいいだけのこと …

遺書のようなうた

妬みの感情が 少なくなっていく 次第次第にあたしは 最後の眠りに近づいていることを 知る 割とどうでもいいことやら 恨みつらみに勤しむことが まるで無駄だと決めつけることはできないが SNSで日がな一日悪意を垂れ流すか それとも 読書アプリや語学のアプ…

相槌

順調とはなんぞ

捉え方によっては薄く曖昧で 嫉妬の種になりかねない ありふれたひとことを きっとここまでくるには紆余曲折が とか きっとたくさん泣いたんだろうな とか そんなふうに瞬時に変換できる人に わたしはなりたい

携えた知らない顔の数だけ

知らない顔のひとつやふたつ あのこもわたしも携えて だからこそ正直でいたくて だけれども 妬みなど隠したくなるけど 時間の無駄だと手放して きれいさっぱり気持ちを整頓 書き出せば楽になる、それはなぜかなじまずじまい ああそれでも 方法はいくらでも …

花筏の

食卓には、おかずのほかに

食卓には おかずのほかに 愚痴やら誰かの悪口やら ついには連れ合いへの不平不満やら 日常茶飯事とはよく言ったもの それらが並ばない日は稀だったものだから 私も妹も 家族全員が揃う夕食どきは苦痛でたまらず 黙りこくって飲み下し 宿題するね、と明るく席…

きっと、の祈り

ソックスは麻混 夜はきっと遅くなるから レモンイエローのストールをくるっとまとめて バッグの隅に マスクの予備と小さな消毒用ボトル いついらなくなるのか まだなんとも言えないのですが とるものもとりあえずの心持ちで 3年ぶりに友達と会ってきます ……

詮索好きな友への返信

愛しき

ふにゃふにゃの気配が 足元をくすぐる 足がつるよ〜と小さく文句を言っても お構いなしだ ややあって 小さな小さなエンジン音が 響いてきて ふにゃふにゃの生き物は ずっしりした重みを遠慮なしに あずけてくるのだ いつまでも、を願いたくなる 儚いものだ、…

正気

積読のエッセイを数ページ コーヒーをひと口 少し胃がキュッとなって 何か食べなきゃな、と思う きみの態度に知らんぷりした 僕の感情は逆撫でされまくりで 少し胸がキュンとなって 何とか息をしなくちゃな、と思う 積読のエッセイをもう数ページ コーヒーを…

ちぐはぐ

しあわせの数え方は これでもうまいほうだと思うの ああだけどね しあわせの味わい方は まだまだ鍛錬が必要なのだわよ 身に沁みるわねえ 愚痴っぽくなっちゃうわねえ それでも歩いていかなくっちゃね あんたもあたしも

約束

ようやく花散らしも鎮まり、 虹龍さんと森に出かけることにした。 以前からの約束だったのを、 わたしがお腹を下してしまって遠出が危うくなった。 それで、のびのびになっていたのである。 雨だろうが、風だろうが、 むしろ虹龍さんには嬉しいことであるよ…

呪いのかけ方

ものすっごい嫌いな人がいてね (多分その人もあたしのことを嫌いなのよ) 呪いをかけてやろうと決めたの ただかけるだけじゃだめ そういうのってブーメランみたく 返ってくるものなのよ 巡り巡ってね だからこんなふうに 「何回かに1回は塩と砂糖を間違え…

無題放題または心をみる猫の医者

じぶんをだいじにできない そんな病に罹患した 娘にも息子にも相談できず 連れ合いはすでにおらず 兄弟姉妹は行方しれずときたものだ 心を診る猫医者は そんな日もあります、と 話をゆっくり聞いてくれたが 出されたハーブティがどうにもぬる過ぎ かえって笑…

つみのこし

ほんの少し あと3問で終わりの 計算ドリル ま、いいや また後でもできるだろうし 翌日 ほんの少し あと1行で終わりの漢字帳 ま、いいや 明日でも間に合うし そんなふうにつみのこした結果が この星だと断言されてしまった それが今日 さて宿題は 後回しに…

にぎっ、にぎっ

にぎっ、にぎっ 赤子の剥き出しの足を 後ろ手に握る 肌寒い朝、女は我が子の足を愛おしそうに 握りしめたまま消毒コーナーを素通りして 入店していく スーパーは開店したばかり 客は筆者を含めまだ数人といったところ にぎっ、にぎっ 赤子の剥き出しの足を …

心得

音律ばかりを調えてはいけない 言霊に寄りかかりすぎぬよう 詩人であることすら 気づかれぬよう振る舞いなさい 酸っぱい葡萄の逸話など ほうっておけばいい 甘い水の香りなど 消えてしまうのだから 詩を書く自分に酔ってはいけない 詩人であるなどと吹聴して…

春眠

わたしは眠らせる、目を耳を口を鼻を わたしは眠らせる、手を足を わたしは眠らせる、悩み苦しみを 闇雲な憎悪を わたしは眠らせる、小洒落た言葉を わたしは眠らせる、たれこめる妬みを わたしは眠らせる、明日への哀しみを 闇雲な思い込みを

いつもの春と同じように

さらりとした五月晴れがやってきたら とりだして 丁寧に広げて優しく洗おう あちらの綻び こちらの傷口 揉んだり伸ばしたり 丁寧に優しく洗おう 洗い終わったら 空に向けて乾かすのだ さらりとした五月晴れがやってきたら とりだして 丁寧に広げて優しく洗お…

朝を紡ぐ

書けば滅びて嘆きが生まれ 愛はどこぞと探せば迷う 幸は薄く道は細く 言霊遠く消えていく 寄せては返し 返しては寄せ 幾たび目かの朝を紡ぐ

窮屈な器

窮屈な器に今日も命を充したまま それとも気付かぬうちに はらはらこぼれ続けているのか 鉢植えの桜が花ひらき わたしはまた 生と死を思う 秘められた祈りを 思う 繊細な器に今日も命を充したまま それとも気付かぬうちに はらはら散り続けているのか 鉢植え…

絶対量

絶対量は変わらない 幸せを焦っても 不幸を嘆いても 絶対量はそのままだ 愛を欲しても 憎悪を垂れ流しても この星での生活が途切れる日は それはもう命を宿した器によりけりで だから 濃度に差こそあれど 絶対量は変わりはしない 大事なこと、すべきことは …

悪口

ふつり、と心の糸が切れ あたしは魂だけになる 流れる理由も 陥る理由も あからさまに わけなく醜くなっていく 衣擦れは耳障りで あたしはもう手放したの 人生は調子っぱずれ あたしはいつか手放したの あたしでいようと決めた あの日に ふつり、と身体の糸…

きみにはない世界観だね、と

拙詩を朗読してくださった 恩人のような人がいます もう何年前になりましょうか よく響く鍛え上げたその声で まだまだ幼すぎる作品を 丁寧に朗読してくださいました 誰かの声で自分がむき出しに晒されていく 恥じらいのうちに俯いておりますと 「きみにはな…

滲む闇

滲む闇を押しやりながら 朝からの出来事に思いを馳せる そうしたところで意味はなく そうしたところで愛は死ぬ 傷に薬をつけるがごとく あなたは優しくしてくれたけど 口先からこぼれる言霊 気もそぞろね 滲む闇を拭いながら 毛布を鼻までひきあげる 長い夜…

オレンジ色

オレンジ色に染めた ブラッドオレンジを初めて食べ とりこになった 理由を訊かれたら そんなふうにでも答えておくか 馴染みの美容師は難しい顔をした 黒髪が羨ましいのにとさえ言われた 同級生のよしみでなんとかしてくれ 過剰なサービスは結構 後悔もしない…

あたしは今日もとりあえず

新しさが重い お揃いが息苦しい とは 口の端からこぼさぬよう あたしは級友に おはよ、と笑いかける 行儀よくだけじゃ苦しい 触れたそばから未来はこぼれ落ちてく とは 口の端からこぼさぬよう あたしは努めて陽気に マスクに似合うメイクを 級友に教わって…