猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2016-09-01から1ヶ月間の記事一覧

器はここに

壊したものは ひとつとしてありませんでした 大切に大切に 守り抜いたつもりでいました だから代わりに内側が こんなに壊れてしまった 器はここに 中身はどこに行ってしまったのでしょう

最後の会話

まだあついね サヨナラの代わりに そう言った まるで遠い国の言葉のように 舌の上でもたつくけれど まだあついね 追いすがる代わりに そう返した 元気でいますか 心も体も

時が隔てるもの

時が隔てるものは 距離の隔てより 限りなく 残酷で 優しくて 美しい

君の名は

君の名は 思ひ届けや秋茜

あなたの涙が枯れるとき

あなたの涙が枯れるとき 風が頬を包むでしょう あなたの涙が枯れるとき いくつも星が流れるでしょう あなたの涙が枯れるとき 誰かがそっと抱きしめる あなたの涙が枯れるとき わたしの涙も乾くでしょう

生き人形

あなたはあたしを組み立てた パーツを切って ヤスリをかけて 丁寧に丁寧につなぎ合わせた あなたはあたしを組み立てた パーツを切って 色を塗って 丁寧に丁寧に貼り合わせた あなたはあたしを抱きしめて 丁寧に丁寧に囁くの どこへも行くな 何色にも染まるな…

耳たぶから1センチ

信じていてもいいよね 照れた笑顔は 僕だけが知ってるって 反時計回りのひまわりみたいで 夏の夕立みたいで つむじ風みたいに 感情を撒き散らした 信じていてもいいよね 涙を隠したくて不意に駆け出す癖 僕だけが知ってるって 耳たぶから1センチの君の声 僕…

30ぶんの1

新月の30ぶんの1 それだけでいい 新月の魔法の30ぶんの1 それっぽっちで構わない 新月に起こるすべての魔法の30ぶんの1 それさえあれば生きていける つぎはぎな時を信じたままで

名乗りたがり

不完全な月のもと 不完全な星にひしめき 不完全に泣き笑い 不完全に哀しみ怒り 不完全にさざめきながら かみさまを名乗りたがっている

心の光量は そりゃもう耳をふさぐほど 言葉になんてできやしないから 欲し続けていたのさ 心の風量は そりゃもう脳をもぎとらんばかり 絵に描くなんてできやしないから 叫び続けていたのさ 心の重量は そりゃもう体からはみ出しちまって 見つかりっこないん…

失せ物

いつもの隠し扉の前で 彼女は髪を振り乱してた 扉の鍵が見つからない バッグにもポケットにも 銅鑼のチャームも見当たらない 扉さえ開けば 自分についた嘘 自分を飾る手管 手酷く振られた想い人 忘れたいこと何もかも 押し込んでしまえたのに いつもの隠し扉…

虹色

うさぎうさぎ 虹色うさぎ 雨の落ち葉 探してはねた うさぎうさぎ 虹色うさぎ 繊月恋しい 見上げてはねた うさぎうさぎ 虹色うさぎ いつかのかみさま やさしくはねた

くぐる

切り落としてきたシナプスも 灯し続けたニューロンも こんなにこんなに あけっぴろげで あんなにあんなに 正直で 信じ込んでた古い知恵も 生まれたばかりの浅知恵も こんなにこんなにこんなに 酔って あんなにあんなにあんなに 探って 大したことではないよ…

なべな

鍋の中のあたし 半泣きで 白菜と豆腐の陰に隠れた ぐつぐつ熱くなって ぽこんぽこんおだしが暴れて 今度は春雨の下にもぐりこんだ 鍋の中であたし 生煮えのまま じっとしてる 食べられないように じっとしてる *なべな トゲのような毛を持つ背の高い植物(…

禁じられた遊び

好きだから 魔法も祈りも 遠ざけて 指折り数えた 眉をひそめる大人たち そっぽを向く級友たち 好きだから 哀れみの眼差しはそこらじゅうに 歪んだ優しさもそこかしこに 「好き」 そう囁いて 並べ続けた あなたの冷たい胸元に 終わらない歌を

いつか会えたら

怒りを悲しみを寂しさを ずっとずっとしまっていたものを あなたに投げつけてあげる 憎しみを悔しさを不安を きっときっと抱えきれないほど あなたに食べさせてあげる 誓ったのは嘘ではなくて 大切だったのは嘘ではなくて 寄り添ったのも偽りではなくて ただ…

さびれた宇宙の出口で待つから

真っ暗闇の底にしゃがんで とってつけたような気やすめ聞かせて あの日の光がおっこちなければ あの子も大人になれただろうって 醜い星の淵にこしかけ とってつけたような戯言聞かせて あの日を消そうとしてるのは ただの思いあがりだよって さびれた宇宙の…

固い固い壁

昔々あるところに 固い固い壁がありました 固い固い壁は それはそれは 高くて厚くて 向こう側を見たものは 誰もいなかったのです 雨が降って日照りが続いて また雨が降って日照りが続いて 固い固い壁のことを 誰もが忘れていきました 高くて厚くて すっかり…

リスのしっぽふさふさ 月の瞳濡れて うさぎの後ろ足はねた 犬の鼻ぴくり ねずみの耳揺れて 獅子の口でかぷり 猫なのに猫じゃない 猫だから猫じゃない きみは生きてる きみを生きてる 今を生きてる

例えばあなたは

例えばあなたはムラサキをまとったまま やみくもに歩いていたので かえって見失ってしまうのです 例えばわたしは打ちのめされたまま 知らん顔して笑っていたので かえって苦しくなってしまうのです どうしていいのか わからなくなってしまうのです

Party

変わり続ける絆と 薄れていく感情と 終わっていく場所の 繰り返される悲しみを 変わらない愚かさも 彩りの朝も 始まろうとする場所の 二度と来ない日を 二度と忘れない

俺を

名乗った名は ひとつでなくても 言葉の色は ひとつでなくても きみは俺を 許してくれますか なんでもないよと 笑ってくれますか 信じてくれますか

ことん ことん

ことん ことん まばたきをした こほん けほん 少しむせた 夜は甘くて 闇は苦い あなたはずるくて あたしは嘘つき ことん ことん 心臓の音 ころん ころん 涙の音

きみと日々

いらない言葉なんて なかった きみからもらったのは それほど 重くて熱くて 鋭くて 捨てたい時間なんてなかった きみと過ごしたのは どれほど やわらかで丸くて 冷たくて 忘れたいぬくもりなんてなかった きっと なかった

秋の夜

まどろみを 甘く破られ虫時雨

あおとあか

右手のあお 左手のあか 振り向いた 片隅であお 真中であか まばたきの 生き残ったあお 陽だまりのあか 泣きながら 呼び止めたあお ひたすらのあか さよならの色

憧憬

青碧の 衣ずれ恋し空高く

こと刃

誰かを笑わせ 誰かを泣かせて 誰かが元気になって 誰かがしょんぼりする 誰かを怒らせ 誰かがへこんで 誰かを暴走させて 心を殺す