ひりひりと焼ける爪先初デート
見上げれば 花舞う風のあどけなさ
でじたるの 海にただよう嘘まこと
箱かかえ 右も左も新年度
山がすみ はなひる連れのけしきいとほし [訳] 山が霞み春らしい風景なのに くしゃみの止まらない連れの様子が とても気の毒でなりません
鍵あらば なれの心も開かむや 桜を眺めば問ひかけてみる [訳] 鍵があるのなら きみの心も開くのだろうか 桜を眺めては問いかけてみるのです
風もどり 孤独呼びこむ人の群れ
風みがく うさぎにさそわれ春の雨
街泳ぐやうに進まば なくせる恋の見え隠れす [訳] 街を泳ぐように進んでいると 手放した恋が見え隠れするのです
終わり雪 猫と眺める窓辺かな
母に覚ゆひとの手とりてやをら歩む 見たりし映画の話しつつ [訳] 母に似た人の手をとってゆっくり歩きました 観ていた映画の話をしながら
雨避きて 二番館のキネマかな
咲くほどに いと口惜しき麗しさ [訳] 桜の花が開くたび その美しさに嫉妬してしまうのです
時過ぐとも 悲しみ深し春の午後
春走る 巣作りねこまをまもる朝 [訳] 風の強い春の朝、まるで巣を作るように猫が毛布にもぐりこんでいるのを、見つめています
今日もまた 恋しと言われで 平気なる顔をす [訳] 今日もまた「あなたが好きです」と言えなくて 平静を装っているのです
天気雨 きみの泣き顔隠す街
たわむれも 恋の始まり四月莫迦
やわらかく しなだれかかりて ねうの声 [作者註] ねう〜現代語で“にゃあ”。猫の鳴き声のこと。
身をゆだね 心遊ばす音だまり
こわれ星 青く光りて回れりかし
美しく やがて悲しきひな流し
春霞 わびしくなりき 空の色
汗ばみて 春よせくなと 母言ひき
月隠れ 焦げ猫ひとり 花衣
ふるふると 心凍ゆる午前四時 まどろみてなほ 眠るまじきに
空あおぎ 学び舎遠く朝戸風