猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2018-03-01から1ヶ月間の記事一覧

おかげさまで

三丁目のあたりに 空が落ちてきたので 日課の散歩は 遠回りすることにしました 空をよけながら歩くのは そりゃあ大変なんですもの 空が落ちてきたので 雨の心配だけはしなくてよさそうです 小さなポシェットひとつで 軽々と歩けそうです おかげさまで

きみのあたたかい匂い

まとわりついたスポーツタオルを パンパン叩いて竿に干した つん 鼻の奥が痛んだのは きみのしっぽを思い出したせいだ 腕や手首にいつの間にか巻きついてきた きみのやさしいしっぽを 思い出したせいだ 緋色のスポーツタオルを ていねいに広げて竿に干した …

夢の種

悩みごとは減りました 背が伸びた分 心配の種は尽きないのだけど 悩むことは減りました 空が身近になった分 心配のタネは尽きないのだけど 小言も減りました あなたの世界が広くなった分 夢の種も尽きないのです

心臓の上を滑っていく ふわふわも ウキウキも 泣きたい気持ちも 花びらみたいに 心臓の上を滑っていく もう声は聞こえない さらさら砕けて川面に散った 心臓の上を滑っていく ふわふわも ウキウキも 泣きたい気持ちも あなたのことも 花びらみたいに 心臓の…

気のすむまで泣けばいい

慎ましやかな不幸せも きらびやかな絶望も 切り捨てるでもなく かきわけるでもなく 凹凸のどちらかにすえれば それで済む 昼だけではなく 夜だけでもない 笑いだけでなく 哀しみだけでもない 聴くひとがいないなら 空に打ち明ければいい 星が海のように広が…

おつかい〜トーザ・カロットの人々

ミケと一緒に暮らしているおじいちゃんに 不思議なおつかいをたのまれました えーと 3日目、ノックは3回 それからそれから おじいちゃんからことづかったことを 反芻しながら トーザ・カロット岬までやってきたのです お店に着くと 小さなワークショップ開…

常緑樹

常緑樹を植えたんです そんな大きなものではないけれど 土もシャベルも使わずに 常緑樹を植えたんです 光や水で育てているわけじゃない 植木鉢に入れっぱなしなわけじゃない 心の中にぽつんと 空や風を忘れることのないように 常緑樹を植えたんです

椅子

何気ない会話だったのに 妙にはっきりよみがえる “置いていくんだ” “ないと困るでしょ” たった一脚の椅子で 押し問答になる僕たち 捨ててしまえばすむことなのに “持っていかないの” “買うからいらない” たった一脚の椅子を挟んで かろうじて会話する僕たち …

おじいちゃんとミケと私〜トーザ・カロットの人々

春のお休み中にミケと遊んでいたら おじいちゃんにお使いを頼まれました よくお聞き 今夜 いや正確には明日になってすぐの 3分と33秒 小さな青い光が流れる それは岬のほうに落っこちるだろう 学校が始まった3日目の放課後 毛糸屋さんの窓を とん とん とん…

三つ目と雨と旅人

あたしら三つ目は 物心ついたときから大体は 大きめの雨よけの服と 頑丈な傘を持ち歩いてるもんさ と言っても知っての通り 風の強いこの星じゃごくごく当たり前のことさね 日の強い時にさす傘 ご先祖様を思うときにさす傘 買物に出かけるときにさす傘 そうさ…

許し

とはいうものの どーしても許せない どーしても許さない 日々を歩くほどに ゴロゴロとあふれてるから ああ いま尖りすぎてる それに時折気づくだけでも すっと泣けたり すっと笑えたり するものです

熱々ビスケット

粉々になった青色と はがれ落ちた灰色を 程よく固めにこねたのです かつてあったであろう 星に思いをめぐらせ 夢やら後悔やらでコーティングして 焼きあげるのです 迷いも嘘もそのままに ただ焼きあげるのです

月曜がきて

月曜がきて きみが笑って ポートレートを残していった 月曜がきて きみは合鍵を手放し 香りを残していった 月曜がきて 僕は窓をあけ いつまでも空を見てた 何もかも壊れてくれと 願いながら

心にさした傘が壊れても

心にさした傘が壊れても 雨は降り続いた あんなに頑丈で大きな傘だったのに 雨は消えると信じてたのに 心にさした傘が壊れても 雨は降り続いた どんな日も逃げたり隠れたりできたのに 雨は消えると信じてたのに 心にさした傘が壊れても 雨は降り続いた いつ…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-22

トーザ・カロットにあたたかな雨の季節がやってきました 岬のほうに出かける日に 雨よけいるかな? と迷うほどの 霧のようにやさしい雨が人々の心をみたしていきます “灰色こぐまの不安な夢”をひとつください 小さな女の子が 雨よけの服に身を包みお店を訪れ…

とてもひどい風が吹いた

とてもひどい風が吹きました 頬を打ち 心を乱し 足元が見えなくなるほどの とてもひどい風が吹きました 髪を乱し 足枷をし 息ができなくなるほどの そんな出会いをしてしまったのに 恋でも憎しみでもなかったと 思いこもうとしています

そんなことがふつうのふつうだ

鼻のあたまに ぷつぷつと汗がのっかりました あたしが大好きなお話の本を おとうさんも おかあさんも つまんない大人になるから そう言って あたしからとりあげようとしたのです 自分たちこそが つまんない大人でしょ そう言えば 酷く汚れた言霊が飛んでくる…

今日はもう

歌うのも踊るのも すっかり飽きて 今日はもう 鮮血みたいな夕焼けのことを 考え続ける幸せに逃げ込んでいる 話すのも走るのも すっかり飽きて 今日はもう 君の可愛い口元のことを 考え続ける幸せに逃げ込んでいる

今でもあなたのことは ほんの少しも好きではないけれど 身体中のどこを探しても かけらすら見当たらないけれど あなたの存在が 自分の命につながっている事実 当たり前のどうしようもない 誰もが受け入れていることさえ どれだけ苦しくて どれだけ疎ましかっ…

きみがぼくの膝や肩にのりたがるのは ちょっと高い目線になりたいから 決して 大好きでたまらないからじゃなく 決して 可愛がられたいからじゃなく 温くてちょっと高い場所にいたいから ぼくが手を伸ばせば触れるところにいるのに きみはいつも遠くを見てる …

誰かにもらった歌を思い出しながら

雪どけ水のしなやかさと強さを いつも忘れずにいたいと笑った どこか冗談めかして 半分ぐらい本気で 白昼夢の枕詞にもなりはしない そんな歌をどこかで誰かが歌ってた 春を待つでもなく 冬にとどまるでもなく どこか窮屈そうで 絵空事の代名詞にもなりはしな…

誰かに届けようとした絵空話を探しながら

壊れかけた星では 音楽も風も絵空のお話も 目の前のコーヒーやスケッチブックほどには 必要とされてないかもしれない おはようのかわりに 店主はそう切り出した なるほど 今の僕は猫そっくりの店主の言う通り そう映るのだろう それでも手紙を書き それでも…

Sold Out

優しさと言われるふるまいも 笑顔に見える表情も 愛と感じさせる言葉も 涙を流させる温もりも 超える気持ちも 戻レル記憶も 売り切れだよ もう帰りな その人は背中を向けたまま ぼそりと言ったのでした

冬と別れたなんでもない日の午後

ゴロゴロゴロ 嬉しげにのどを鳴らしながら 膝に猫がのぼってくる 風はこんなに冷たいのに 陽だまりはこんなに熱を帯びて 僕はマフラーをきっちり畳んで 膝に置いていた “好きな場所に好きなだけ好きな人と” 猫にそんなことを言われてみたいものだと 背中を撫…

誰かに触れられた遠くにある感情

見られたくなかったり 知られたくなかったり できれば そっとしておきたいし そっとしてもらいたいし そんな感情が遠くの遠くに 見えるか見えないかぐらい ふだんは自分でも気づかない その人は いとも簡単にそこに触れては かき回していくのです 気のせいだ…

3月を忘れたカレンダー

ぼくの部屋には 壁かけと卓上置きのカレンダーが ひとつずつあります きみがプレゼントしてくれたのは 卓上タイプのほうで なぜか3月のページだけが ないのです 初めから失われていたのか きみがそうしてくれたのか もう確かめることはできないけれど ぼく…

雪どけ水に憧れて心はあたしと別の夢をみる

どんなに上手に隠しても どんなに上手に飾っても あたしがまるごとなんです どんなに上手に閉じ込めても どんなに上手に繕っても あたしがそのままだったんです 結局のところ心だけがふらふらと 雪どけ水に焦がれるくせは 相変わらずなんです

きみのこと

温もりの記憶 ふたり通い詰めた本屋 「多分こっち」 あてずっぽうに歩くくせ まるでトリックアートだった ココアの苦味 ふたりわらいころげた寄席 「きっと平気」 あてずっぽうに空をよむくせ ぼくにとってトリックアートだった

猫と三つ目〜番外編〜

宇宙語あやつる 猫に抱かれて 瞳をこらして空をみた 人が消えてしばらくしてから もっともっと星は熱くなっていき 暮らしているのは 宇宙語操る猫たちと 三つ目のあたしらぐらいのもので よくよく争いごとが起きないなと 人が消えてなければ そう笑うだろう …

誰かにもらったはずのハグを思い出しながら

華やかな話ではないのですが ちょっとだけ日常が騒がしかった頃 ハグしてくれた人がいたのです 家族だったのか 友人だったのか それとも 愛情に満ちた言霊で包まれたのを 記憶に上書きしただけなのか 全部入り混じっているようで だけど 背中に誰かの体温を…