猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧

内臓までも

内臓までも 熱くしていくきみの声

おじいちゃんとミケと青い瓶〜トーザ・カロットの人々

びゅうびゅうと風が踊る岬をあとにして どきどきしながらおじいちゃんのお家を目指します 胸元には毛糸屋さんから手渡された青い瓶 しっかり抱えて落とさないように やがて風がすっかり静かになった頃 おじいちゃんのお家の前までやってきました いつものよ…

découpage

それが日常になっています ずいぶん長いこと はじめは 小さな無地のシールを1枚 すみっこに貼って満足してました 友だちもほめてくれるし 自分でも鼻高々 少したって 無地より模様入りのほうが いいような気がして 少し大きなシールを1枚 目立つように貼り…

5番目の季節

空が落ちる季節になったら 逢いましょう いつだったか そんな約束をしたのです 春でもなく 夏でもなく 秋でもなく 冬でもなく 空が落ちる季節になるのを 罪深くも待ちわびたものでした 雲予報士という仕事についたのも そのためです 空が落ちる季節の訪れを …

もう二度と

ないでしょう あなたは怖がって 色を変えることすら 拒んだから 逢えないでしょう わたしは寒がりで 空に触れることさえ 拒んだから 思い出さないでしょう ふたりはもう 時を重ねることさえ 捨てたのだから

呼吸

吐き出した まだふたりが同じ色を美しいと 信じていた日々を 吐き出した まだふたりが同じ音を美しいと 信じていた時間を 吸い込んだ まだ光でも闇でもない 名前のない日々を 吸い込んだ もうふたりで描けない 音のない光景を

悪女

あたしの中に 悪魔のような人がいて “だいすきだよ”って きみに微笑む あたしの中に 悪魔のような人がいて “バイバイ”って きみを抱く あたしの中に 悪魔のような人がいて “すごく幸せ”って 頬寄せる

後悔

後悔も苦しみも いまは時の海に沈めて 青く濡れそぼった命を抱く 甘いだけの言霊なら 食べ飽きたはずなのに 星が落ち続ける闇に紛れ込むことしか できなかった 後悔も悲しみも いまは記憶の奥に追いやり 白く発光し続ける心に寄り添う

覚悟

あと何回 幸せの意味を問うのだろう あと何回 幸せの儚さを知るのだろう あと何回 幸せを手ばなすのだろう あと何回 幸せを覚悟するのだろう

夕焼けと満月

夕焼けと満月が入れ替わり きみの声を吸い込むこともできなくて ぼくはただ涙する 夕焼けと満月が入れ替わり きみの声を抱くこともできなくて ぼくはただ涙する 愛してると大嫌いが入り混じり ふたりはただ大きく息をする

夕焼けさらさら

夕焼けさらさら 流れたなみだ ことばは舌を凍らせて あしたのいいこと きょうの秘め事 虫の居所恋心

incompatible

ときどき 生まれたばかりの朝焼けを もぐもぐ食べてしまいたくなるのです なんだかとても懐かしくて 愛おしい匂いです ときどき 生まれたばかりの朝焼けを びりびり引き裂いてみたくなるのです なんだかとても楽しそうで 震えるほどの絶望に酔いしれるのです

蜜柑とだれかの信じたかみさま-5

お前だけが特別だ 面白いやつだ ついて来なさい だれかの信じたかみさまは するんと皮をむき 実を貪り 皮を小さくちぎって のみこみました ずっとずっと昔からそうしていたので だれかの信じたかみさまの褥には 心だけになった蜜柑たちが つぶれたり消えかか…

妬むことすら

小さな青い星にとりこまれ どこへでも行けそうで どこにも飛べなくて あたしは何も知らないままで 泣くことだけが真実だと思ってた 小さな青い星にとりこまれ 誰にでもやさしくできそうで 誰からも見捨てられて あたしは何も知らないままで 笑うことだけが現…

指先

心の入口って知ってる 目かな どうしてそう思うの 考える前に否応なく飛び込んでくる まてよ 耳かな どうしてそう思うの 目はつぶればいいけれど 耳は閉じることができない いや 口かな どうしてそう思うの 考えていることと裏腹な言葉が 飛び出してしまうか…

蜜柑とだれかの信じたかみさま-4

だれかの信じたかみさまは 心だけになった蜜柑を連れて どんどん歩いておりました するんと皮を剥かれ 実を喰いつくされ 剥かれた皮も飲み込まれたので 蜜柑はただただついていくのでした 日照りの中も大雨の中も だれかの信じたかみさまは決して歩を緩めな…

夢を見なくなっても

気がつけば 前が見えないほどの荷物を抱えていた きみの正体が猫でも人でも 空が落ち始めたことさえ たいしたことではなかったのに きみの名付けたコーヒーを飲み 猫そっくりの店主に宇宙語の辞書を見せてもらい かちんかちんの店で時々“おしまいのミルク”を…

花咲くように心あふれて 種蒔くように夢を見た 刈りとるように熱はもつれて 熟れた月に触れる爪

蜜柑とだれかの信じたかみさま-3

心だけになった蜜柑は考えていました 内側も外側もなくなったけれど 内側のまた内側は食べられなかった だれかの信じたかみさまは 内側のまた内側もその向こう側まで 簡単に喰い散らかすのだと 林檎たちは噂してたっけ いずれ自分もそうなるのだろうか それ…

店主

かちんかちんの店に珍しく鍵がかかっています 空がひとかけ落っこちそうだと 雲予報士がラジオで言っていたので 安全のため店主が鍵をかけたのです そして 空が大丈夫そうだとわかると 窓を大きく開けて 森の香りと夕焼けの香りから作ったお香を 店の中で も…

蜜柑とだれかの信じたかみさま-2

滴り続けるものだから 貪り続けることをやめ だれかの信じたかみさまは するんと剥いた蜜柑の皮で 指先と口元をやわやわ拭いました 心だけになっても存在しているなんて 面白い蜜柑だ こうしてやろう 甘く熟れた実を貪ったあと 滴る果汁をやわやわ拭ったその…

蜜柑とだれかの信じたかみさま-1

おまえ 心さえあればそれで足りるだろう おまえ 心さえ美しければそれでじゅうぶんだろう おまえ 心に闇を宿し光を宿し 乱反射させて存在すると言うのなら だれかの信じたかみさまは手を伸ばし 蜜柑の皮をするんと剥きました ほーら 肉体は消えて心だけが残…

退屈の風船をめいっぱいふくらませ 無表情に立っている 産湯を使った つかまりだちした ランドセルに隠れる体 初めてくれた赤い花 すべてふりはらって 無表情にそこにいる 乱反射する命をもてあましながら スーツケースと一緒に

天の大鍋

孤独な心臓たちが ぐつぐつ震える樹上の空は それはもう焼け落ちそうに美しく われ先に口づけしたいと 焦がれるほどでした 孤独な心臓たちが ふつふつ震える樹上の空は それはもう身悶えするように艶やかで われ先に触れたいと 夢見るほどでした 孤独な心臓…

見守りカメラ

あたし これキライ 心臓がどきん! いつ動くのかびくびく 誰もいないのに お水とごはんが出てくるなんて ガマンできない あたし これキライ あなたのキレイな声が こんなにガサガサになっちゃうんだもの ここにいないのに 「僕だよ」なんて言わないで いつも…

umbilical cord

雫の形だった 少しぐらいアンバランスでも 気にも留めなかったけれど つながってたんだ 涙の形だった 少しぐらいあなたの時が早すぎても 気にも留めなかったけれど つながってたんだ 深く儚い強さで

しあわせな羊さん

しあわせな羊さん くるくる回る 寝言の意味など 知らないくせに しあわせな牛さん くるくる回る 運命の意味など 知らないくせに しあわせなお嬢さん くるくる回る 愛の意味など 知らないくせに しあわせなお星さま くるくる回る 空も落ちよと 言わんばかりに

おもちゃみたいな星に生まれて

おもちゃみたいな星に生まれて ゼンマイじかけの命を歩くの だからせめて 錆びつかないようにしないとね わたあめみたいな星に生まれて タイトロープの命を進むの だからせめて 足元を見失わないようにしないとね バーミリオンな景色も見飽きて 不確かな今日…

土曜日の猫

土曜日の猫が笑う 日曜なんて土曜の明日ってだけで ちやほやされるのよって 土曜日の猫が歌う 日曜なんて月曜の昨日ってだけで 愛されてるのよって 土曜日の猫が踊る 日曜なんてあたしは知らない くるくるくる 毛糸玉追っかけて 迷い込んだ 日曜なんてあたし…

寒がりな女の子

寒がりな女の子 恋のうたも ふかふかの毛布も あたしをあっためてくれないの 寒がりな女の子 ママのハグも 熱々のスープも あたしをあっためてくれないの 寒がりな女の子 きみの左腕と鼓動しか あたしをあっためてくれないの