猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

おじいちゃんとミケと青い瓶〜トーザ・カロットの人々

びゅうびゅうと風が踊る岬をあとにして

どきどきしながらおじいちゃんのお家を目指します

胸元には毛糸屋さんから手渡された青い瓶

しっかり抱えて落とさないように


やがて風がすっかり静かになった頃

おじいちゃんのお家の前までやってきました

いつものように庭に回ろうとして

もしかしたらと思い直して

玄関扉の近くの窓を


とん とん とん


毛糸屋さんを呼んだ時のように

ノックしたのです


すぐにおじいちゃんが窓をあけて

にこにこ顔を見せてくれました

そして

ごくろうさま、と頭をなでてくれました


瓶の中身がなんなのか

“雪だるまの満月”に気をつけなさいって

どういう意味なのか

おじいちゃんはどうして窪みに暮らしていないのか


急に言葉があふれそうになって

だけど

そんなことはどうでもいいような気もして

ちょっとさびしいような

そんな気持ちが体の奥でゆらゆらしました


さびしいという気持ちを持っている人は

ぬくもりをよく知っている人でもあるのだよ

ほら


そう言っておじいちゃんは青い瓶の栓をあけ

あたしの手に中身をほんの少し分けてくれたのです


落ちてきた空

そんな名前の石らしい

好きなように使いなさい

次の満月の日にまたおいで


月がのぼっています

雪だるまの形ではありませんが

いつもよりずっと青く

いつもよりずっと明るくて

触れたくなるような美しさです


今日はミケと一緒に行きなさい

そうすれば道にも迷わない


おじいちゃんはもう一度

頭をなでてくれました