猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

子ども時代#3〜トーザ・カロットの人々

三つ目のおじいちゃんの教え方は 一風変わったものでした 決して “ひとつ” “ふたつ” という数え方をしてはいけないよ どんなに雲が散らばって どんなにたやすくつかまえられそうな日も 瞬きする間に 笑って消えてしまうのだから うさぎが雲の中で風を磨いて…

灰色の連想ゲーム

灰色の連想ゲームと ひねくれた夢に明け暮れ “信じるものは救われるなんて” かみさまにきこえないよう 体の奥に綴っては消した 名残のヒグラシと 熱帯夜に焦れて “傷つけばやさしくなれるなんて” きみにきこえないよう 心の奥に刻んでは隠した

アイスキャンデーが勝手に地面に落下する

アイスキャンデーが 勝手に地面に落下する あるいは 今より広範囲で 雨とか雪とかじゃなく 空ごと降ってくる 望んではいなかった 望もうとも思わなかった 僕にとってはどちらもほんの普段ごと 丈夫な傘を持ち歩いても防げないことは 世の中に多いけれど それ…

あな

ふたりが互いをよく知らずにいた頃 僕たちの世界は平和で 思い切りよく木槌でもって “夢”だの“約束”だのを 傷つくのも厭わず 壁に打ちつけていた ふたりがわかりあえた頃 僕たちの世界はすっかり傷ついて “夢”だの“約束”だのを 思い切りよく木槌でもって打ち…

死に物狂い

僕は今 死に物狂いだ 優しい とか 柔らかい とか 癒し だとか 木漏れ日 だとか イメージを全て せいいっぱい体内からひろい集めたのだけど きみに会うのがどうにも億劫で そんな自分を死に物狂いで面白がっている

詩人屋さんといっしょ#1〜トーザ・カロットの人々

「おはようございます 今日の空は降ることを忘れているみたいですよ」 そんなことを言いながら 訪ねてくるのは一人しかいない 同族ではないが旅好きで 星を渡りたいと夢見て とうとう雲を数える仕事についてしまった おはようございます 相変わらず編み物を…

今より自在に

奥ゆかしく抱えたものを 全て手放してしまえたら それだけで 息をしやすくなるのでしょうか 奥ゆかしく背負ったものを 全ておろしてしまえたら それだけで 笑えるようにもなるでしょうか 奥ゆかしく飲み込んだものを 全て忘れてしまえたら それだけで 泣ける…

哀しみの 分け隔てなく朝明ける

網目模様の夏

網目模様の夏が暮れる くるぶしまで染まった濃緑の 日々が薄れていく 見上げても うつむいても 心に降る澱の速度はさして変わらず ひたすらに 次の季節を呼吸しようと足掻いている 網目模様の夏が暮れる 手首まで染まった深緋の 日々がとろけていく

アスファルトに

アスファルトに鳴る雨音や 君想ふ

詩人屋さんの打ち明け話#3

私ごとですが 独占してつなぎとめること 手段は選ばず あの人との愛を そんな風に始めてしまったので あっという間に愛ではなくて 独り相撲になりました 私ごとですが 相手も同じ風であったので なにやらかにやら とっちらかってしまいました それでやっぱり…

子ども時代#2〜トーザ・カロットの人々

三つ目じいちゃんは “見えすぎても困るし、人たちを驚かせてしまうから” そんな理由で三つある目のうち ひとつをつぶってることが多かった 掃除するときなんかはかわりばんこに 目をつぶったりあけたりすればいいから 便利なんだって “空や雲がドスーン!っ…

墨流しのきみ

きみを見つけたとき ぼくの内側は 墨流しで染めあげられた 自分の名と ぼくの名と 愛犬の名と 旧姓と さらに 3つのアナグラム それぞれ器用に使い分けては ひっつきむしのようについてくる きみを見つけたとき ぼくの内側は 墨流しで染めあげられた 自分の…

子ども時代#1〜トーザ・カロットの人々

ねえ母さん 空に小さな小さな穴があいてるよ 人には見えるか見えないぐらいの 小さな小さな穴だよ ねえ母さん 今日は昨日より雲が少なくなったよ いつか降ってくるのかなぁ 青いところも白いところも ドスン!って落ちてくるのかなぁ ねえ母さん 毛糸屋の店…

呼びかけても

呼びかけても 恋さし違う蝉しぐれ

八月の一桁

八月の一桁を僕は愛する 八月の一桁を僕は食す 八月の一桁に僕は焼かれ 八月の一桁に僕は憂う 八月の一桁で時は止まり 八月の一桁に命を思う 八月の一桁は僕の中に 八月の一桁は君の中に

わたしをさがしています

わたしをさがしています 体内の浅い場所から深い場所まで 心とやらをさがしています さびしがるのはたやすくて 見せつけられては苦しくて そんなに意味を求めなくても そんなに命をいじめなくても 生きてはいけると そうなんですけど わたしをさがしています…

空降りのあと~風磨きのうさぎ

絡みついた緑のあやしかたも忘れ ただ一羽風を磨く 噛みついた言葉のほどきかたも忘れ ただ一羽時を編む 点滅信号をくぐれば 出会うのは猫ひとり 風を磨くでもなく 落ち空にじゃれるでもなく 悲しげな背中の旅猫ひとり 凍てついた心のあたためかたも忘れ た…

詩人屋さんの打ち明け話#2

電車に乗るのが好きで 岬に移り住む前は毎日のように乗っていた とりわけ 駅舎にツバメが巣をかけるような 一番ホームしかないような そんな駅でひとりになりたくて (三角の耳も長い尻尾もジロジロ見られないしね) 手帳代わりのスケッチブックと 簡単なお…

夏おと

降りしきる空の重さに 汗ぬぐい

詩人屋さんの打ち明け話#1

あたしのポジティブは多分 “嫌い”から始まってる 本当にごくごくたまに “嫌い”に拍車がかかりすぎることがあって そんな時は 暗澹たる自己に沈むか あるいは あたしがそこで溺れるか どちらかだとわかっているけれど そこから妙に勢いよく“好き”が生まれる奇…

ぼくと妻#4〜トーザ・カロットの人々

ぼくたちが家族になった頃は 人も空も つまりはこの星をひっくるめた宇宙が 今よりずっとずっと元気でね 猫たちも三つ目たちも まあ思うところはあっただろうが この小さな星で慎ましく暮らしていた 孫は小さかったので たまにきみの毛糸屋さんで会うぐらい…

壊れていく

舌の上で戸惑うコトノハ 指先で彷徨う水玉 触れずに傷つけることばかり どんどん巧くなっていくのに 触れれば愛が壊れていく 舌の上でたゆたうコトノハ 爪先に彷徨う水色 許されたくてここにいるわけでも 許したくてここにいるわけでも ないのに 触れれば愛…

水滴

後悔しないと決めたのは 大人になる少し前のこと 大嫌いな自分と向き合うことを 覚えた頃のこと 不完全さを否定せず 全きを求め続ける方法を 模索していた頃のこと まだ 体内に蠢く嫉妬の澱を 持て余していた夏の日々 潰れたペットボトルにへばりつく 水滴の…

落ち空に焼かれる

人は 空に母を見るのだろうか それとも父を思うのだろうか 雨は涙に 雲はわたあめに 晴れた日は大海原に 夢につまずけば身勝手に 空がなくなるようだと俯く だが 空を大事にしているかと言えば そうでもなくて 見えているのが当たり前 そこにあって当たり前 …

詩人屋さんの告白

“みっともない” “大口あけるんじゃない” “やかましい” 厳しく厳しく言われ続けているうちに 笑い方がわからなくなり 泣き方もわからなくなり 自分の奥から出てきたこれは 果たして悲しみなのやら喜びなのやら 女の心か男の心か 二十歳過ぎても 確かなもので…

点滅信号#2〜トーザ・カロットの人々

空を回収したあとは 三つ目たちと分けることも多いが 毛糸に混ぜ込んだり ペンダントか何かにすれば 人が楽しむこともできるのですよ と言っても人たちは まだまだ “落ち空”の扱いには慣れてないから よほどの思いきりがないと 近づけないようですね 雲を数…

点滅信号#1〜トーザ・カロットの人々

変わり映えしない点滅信号をくぐって 冷え切った空を夜中に回収しに行くのです あたりは真っ暗でも わたしたちには関係ない 何しろ猫の日常なので そんなにしょっちゅうではないが 元見習いのあの子も手伝ってくれるし 運が良ければ石を拾うこともできる わ…

喉を潤すそばから 体内で棘に変わっていく きみがいた時間を例えるなら そういうことなのだろう 愛を感じた次の瞬間 傷ついて絶望する あまりにも繰り返されたので 慣れっこになっていたんだね きみがいない時間が長くなったのに あの頃より ずっと落ち着い…

それは

きみの匂いが遠すぎて それは焦りに変貌した 少し楽になったところで アイコンタクトなどしてみるのだ きみの背中が愛しすぎて それは悲しみに変貌した 少し気まずくなったところで ぎゅっとしがみついたりしてみるのだ