猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2018-04-01から1ヶ月間の記事一覧

通せんぼ

“ここにあなたの居場所はない” たくさん席は空いているのに たくさん床が見えているのに 通せんぼされた気がして 悲しくなった “ここはあなたの居場所じゃない” たくさん椅子があるのに たくさん笑顔が見えているのに 何もかもが遠い気がして 淋しくなった “…

満員の満席

この星はとうの昔に満員の満席 もうぎゅうぎゅうで 心をふわふわさせることも できなくなった この星はとうの昔に満員の満席 もうぎゅうぎゅうで 風をつかまえることも できなくなった この星はとうの昔に満員の満席 もうぎゅうぎゅうで 息をすることも 忘れ…

満員

たったひとりしかいないきみが ぼくの心を満員にする

旅猫の噂

昔々小さな青い星に 人のように話し人のように二本足で歩く 猫そっくりの生き物が暮らしていました 猫そっくりの生き物は 森のうんとうんと深いところや 洞窟のうんとうんと奥のところや 海にうんとうんと近い崖みたいなところ ようするに “果て”とか“隅っこ…

旅猫

室内ばきをひとりじめして きみと同じ模様の 小さな生き物が眠る 壊れかけた星を渡る猫の種族は 最初は小さな青い星にあらわれ その後 星間の噂にのぼるぐらいには 目撃情報があるらしい だからこの星では 旅猫ではなく “放浪猫の奴ら”と忌み嫌われ “猫が空…

すれ違う

もはやきみだけのものになった感情の行方を 聞き出すつもりはないけれど もう扉を開いてもくれないのか すでにきみだけのものになった感情のありかを 僕は知る由もないのだけど もう声すら聞かせてくれないのか とうにきみだけのものになった感情の未来を 僕…

新・シンデレラ

つま先と踵に無理強いしながら あたしはあたしの顔をとりつくろう せっかく足に絡みついているのだもの 無理に壊すこともないと思った つま先と踵に無理強いしながら あたしはあたしの言葉をとりつくろう せっかく場に馴染んでいるのだもの 無理に壊すことも…

春のまんなか

春のまんなか枝垂れ桜 見惚れてころんだ木の根っこ 春のまんなかドウダンツツジ そんなに急がず開いておくれ 春のまんなか市電の響き 何もかにもが似合う街 春のまんなかクスノキ騒ぐ 思わず見上げた熊本の空

そんなわけで。

そんなわけで ぼくは今日もまた 猫そっくりの店主が営むカフェに たったひとりの客として いつもの席についている 壊れかけた星を渡る猫の種族なのに 三丁目でとうとう空が落ちてきても 平然と店でコーヒー豆を挽いている とっておきの豆で店主が淹れるコー…

消印

心臓からはみだした不安が 落ちた空に踏みつけられた気がした それからぼくは 誰かを好きになっては 後悔するくせがついたんだ きみから届いた最後の手紙は 電話より遠く メールより冷たく それでいてやさしさにあふれてた 消印はあの日の日付と「三丁目」の…

おしまいのミルク-4

猫がうでにしがみついて やさしいエンジンを響かせている 溶かしたばかりの“おしまいのミルク” café au laitのため 明日の朝のため ほんの少し猫のため そこではたと気がついた 「空が落っこちたのを片づけます」と さっき回覧板がポストに入ってたいた そう…

春は

春はやさしくて 制服の襟元のように ぼくを戸惑わせる 春はやわらかくて 「初めまして」の挨拶のように 軋んだ風が吹く 春は眩しくて 妖艶な花のように 容赦なく手招きする 都会を染めることも忘れることも たやすくできそうなのに あたたかな季節はそれを許…

おじいちゃん〜トーザ・カロットの人々

毛糸屋さんとおじいちゃんがどうやって友達になったのか 知りたいと思ったことはなかったけれど “雪だるまの満月”と二人の口から聞いて 急に心細く ちょっとだけ怖く 毛糸屋さんの窓をノックしたときより もっとドキドキしながら それでも 青い瓶をしっかり…

春なんてこない

春なんてこない くるはずもない 桜が舞っても ソーダ水が喉を潤しても 春なんてこない くるはずもない きみと歩いた愛しい日々は 調子外れな循環と音律でしかなかったけれど 春なんて知らない くるはずもない きみはもうどこにもいない

桜のかけら

朝の寒さが懐かしくなって うんと早起きして公園の桜の木に会いに行きました 花見酒の酔いもさめ 花筏も終わり 夢に染まった祭りもお開き つやつやの葉が月明かりに揺れています 少し寝ぼけた体をほぐして だあれもいない道を戻ってきました 襟元がくすぐっ…

おしまいのミルク-3

かちんかちんの店で買ってきた かちんかちんのおしまいのミルク 栗の木べらでやさしくやさしく 混ぜました 膜がはる少し手前で火を止めて それから少し考えて きみが教えてくれたあのカフェの 緋色の豆を挽きました とっておきのcafé au laitを淹れるために …

おしまいのミルク-2

三丁目のあたりに空が落っこちたとき もしや 風を磨くうさぎも転げ落ちてやしないかと 心配でしたが やはりそのへんのことは とてもよくできているようで 「風変わりな生きものを見つけた」 そんなうわさは いつまでたっても聞こえてきません 少しばかり安堵…

おしまいのミルク-1

三丁目のあたりに落っこちた空を よけていくうちに ミルクを切らしていたのを 思い出したのです 本物の生きている牛は もういないので おしまいのミルクをコップ一杯だけ 買うことにしました 角を曲がって二軒目の なんでもかちんかちんに凍らせて 売ってい…

手をつないでいても

手をつないでいても こんなに遠い心がふたつ それでも寄り添っておりました 触れていると熱を感じて だけど それだけでしかなくて もうやめよう 心はとっくに決まっているのに それでも寄り添っておりました 手をつないでいても こんなに遠い心がふたつ それ…

雨の日とぼくたち

地面に貼りついたふたりが これ以上いびつにならないように ぼくたちは手をつないでいた 雨は興奮と静謐を撒き散らし コンビニで買った傘が壊れて むき出しのふたり キスすら遠い距離で佇んでる 地面に貼りついたふたりが これ以上春に侵されないように ぼく…

過去

蓋も鍵も頑丈なのを用意した 光も闇も あたしから出ていかないように 昔々のお話です

今日ぐらいは

スマホから急に 遠い国の 肌にまとまりつくような音楽が 流れてきました アプリを立ち上げたままだった自分に なんだかものすごく落胆して 思いきり泣きたくなった時 そんなこともあるよって 友達のLINEがタイミングよく届きました 何もかも不思議で 何もか…

散歩

やさしいピンクに染まりきった水を 弄びながら 季節はこうやって汚れていくんだよ と真顔でのぞきこむきみ 染まりきった水はくるくる回って ぼくの足もとで小さくはねた びっくりして後ずさりする ごめんね 少しだけ傷ついてたの そばにいてくれてありがと …

ひとときの熱

一陣の風に身構え 小さく雲が叫んだ きみに届かず 春を見送る そんな朝のことでした ひとときの熱にとまどい 小さく声をあげた ぼくに届かず 春に涙する そんな雨の朝でした

南風に

南風にストール揺らし きみを待つ

群青の空に抱かれたきみに

群青の空に抱かれたきみに 最期の花束と 手垢にまみれる前のことばを キスのかわりに 真空の宇宙にたわむれるきみに 最期の抱擁を 想い出にまぎれこむ前のキスを サヨナラのかわりに

友達

ぞろ目を発見! やった! 友達と久しぶりの街歩き なんでもないことが どうにもおかしくって 大笑い 天使みたいに写るのも 可愛いイラストのアイスにも さほど心が動かない だって ものが間にないほうが あたしたち ずっと近くなる 正直でいられる 呆れるぐ…

血族

増幅されて あたしの中息づいてる あの人のくせも 思考回路も 増幅されて あたしの中渦巻いてる あの人譲りの瞳も 髪質も 深く深く閉じ込めて 黒く黒く塗りつぶして あの人を忘れる それでも消えない つながりの細い糸

エイプリールの残酷な夢

手紙を見つけました あの日 あなたのやさしさに救われました 今度 声をかけたらご迷惑でしょうか 走り書きすら残せませんでした あなたを困らせてしまいそうで いつものお店 いつもの席で待っています 思い切って話しかけます そんな言葉にのるほどこどもで…

きみの好きな人

きみが好きなチョコレートは カカオの濃度がやたらと高くて はい 手渡されるたび 心が小さく抵抗した きみの好きな映画は 遠くの星での日常を描いた 淡雪のような舌触り 行こ 誘われるたび 心が小さく抵抗した きみの好きな人は 夢をみない 空気をよまない …