猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

そんなわけで。

そんなわけで

ぼくは今日もまた

猫そっくりの店主が営むカフェに

たったひとりの客として

いつもの席についている


壊れかけた星を渡る猫の種族なのに

三丁目でとうとう空が落ちてきても

平然と店でコーヒー豆を挽いている


とっておきの豆で店主が淹れるコーヒーを

きみは“緋色のコーヒー”と呼んで

とても気に入っていた

それはそのまま店のメニューになったのだが

お客はもうぼくだけなので

店主は何も訊かずコーヒーカップを

目の前に置く


支払いは

かちんかちんの店で手に入れた

“おしまいのミルク”


毎度ありがとうございます


猫そっくりの店主は

ほんとの猫がするように

尻尾をゆらゆら

瞳がまあるくなった


猫が人のような立ち居振る舞いをすると

集団で刺すような視線を浴びせる人の多いこと

三丁目にもなかなか通いにくい


それで店主のお仲間は星の片隅を選ぶんですね

ぼくの言葉に店主は瞳をますます丸くする


空が落ち始めてからは

刺すような視線の持ち主も

ずいぶんと少なくなったようだが


やさしげなふわもこ容姿とは裏腹に

カフェの店主はそんなことを呟いた


お客様のお連れの方は

空の落ちない場所できっと元気にやっていますよ

我々の種族なのだから


そして


「またのお越しをお待ちしています」と

やさしく扉を支えてくれた