猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

100円の食卓

きみと囲んだ食卓は あたたかいものは食べやすく つめたいものは心地よく なのに 心で味わえなかった ひとり気ままめしが なんと心にうまいのか きみと離れて初めて知った 仕事帰りにスーパーをのぞく キャベツ半個が50円 肉厚きのこが50円 冷蔵庫には少しの…

廻(めぐ)り

お気に入りを そばに置いて独り占めするのは 幸せだけど 永く続かないことを わたしたちは心の片隅で 予感している 同じように 「やったね♡」 「できた!」 「こんなふうになってるよ」 幸せな明日を描き 体の奥底で予感する 時に莫迦莫迦しくとも 否定が頭…

冬のラジオ

男とも女とも判然とせず ただ低く唸っている 笑いも悲しみも 奏の合間合間に こぼれては夢に馴染む リズミカルで不規則な 風のように時を運んでは 夜を満たす

饒舌多弁

遠く 記憶に身を任せば 闇は今より深く 饒舌多弁なのであった それでよしとしよう それなら溺れはしない 見失いもせず 寄り添えばいいのである 遠く 思い出に身を委ねれば 闇は今より色濃く 饒舌多弁なのであった それでよしとしよう それならおそれはしない…

休息

PCとタブレットとスマホをオフって TVとラジオに布をかぶせた 目と耳を(もしかしたら舌も)休息させるのである 小さなポーチには 小さな水筒と飴玉数個 迷っても タクシーで帰ってこれるぐらいの 用意をして 寒くなりかけた道をひとりいく なんにも考えない…

cinéma

かすめるように冬が香って くぐもるように映像が流れる 肩先が時折冷たいのは 換気のせいだろうか その日は 自分の生まれた頃のシネマがかかっていて ほお、と唸った 誰ひとりいない そう思っていたが 明るくなった場内を なんとはなしに見回せば 館主がニコ…

愛ほしこと

停車場

おしくらまんじゅう

ひとりじゃ おしくらまんじゅうも できやしないでしょ あなたとわたしは よく笑いあった やがて 押し問答なら ひとりでやってくれないか と 互いに背を向けた

下着

「飽きちゃったんだ」 小さな理由できちんとしまいこまれた 哀れな下着 顔も声も思いださないのに 後ろ姿を 忘れられない 使い古したタオルに包んで めったに開けない 引き出しを選んで 「飽きちゃったんだ」 小さな理由できちんとしまいこまれた 哀れな下着…

しに急いではない

しに急いではない しに憧れもない しにたがったことを忘れて ふしぎと生きている つめたい場所と つめたいからだ なく人たち 自分の記憶のようで 誰かの問わず語りにも似て しは初めてではない確信もあるにはあるが なんと早すぎる そんな知らせもたくさん届…

心を診る猫の医者-17b

慣れないことだけど やってみたくてもできなかったこと そして 時間を気にしなくてもいいこと 完成させなくちゃ!…じゃなくていいし 誰のためでもなくていいし 誰かのことを思いながらでもいいし 自分のためだけだって構わない それを つらつら書き出して こ…

美味しいものは残酷だ

美味しいものは 残酷だ 記憶の引き出しを開け 封じた憎しみを解放し 押し黙ったままの 家族の食卓が 浮かびあがるから 美味しいものは 残酷だ 破り捨てたラブレターの 馬鹿げた会話の端きれを 不誠実な空とともに 浮かびあがらせるから

そこかしこに転がる

胸のつぶれるような できごとは 指先にまとまりつくものだ でなければ 指先からうみだすものだ あたしの先輩は そう言ってニタニタする 肝心なのは 自分が絡めとられないこと それが口癖だったはずなのにね 先輩

スイッチ

スイッチが入る。 黙々とダンボールを組み立て、去年は手放せなかったものたちを、おさまりよく詰めていく。 いつの日か、のんびりまとめて見るんだ。 …は、いつまでもやってこない可能性が高い。 これまでもそうだった。 資料を作るわけではない。 まみれた…

乾くひまなし

シチュー

そばにいるのに孤独が深くなるばかりで ふたりは それに気づかないよう静かに暮らした 男は酒に溺れ 女は花に溺れ すでに互いを見てはいなかった バランスよい食事は 並べるそばから嘘になり 食卓は幻想に汚れた 「行く場所なんてないくせに」 「帰る場所な…

詩人の恋文

きみにだけ届かないのは いったいどういうわけだろう 心尽くしの これでもかの 誰にも負けない 誰とも似てない そんな言葉を送りたいのに 綴ってはほどき ほどいては綴り 編んでは戻り 刻んでは悩む きみにだけ響かないのは いったいどうしたものだろう

畳んで使う

バスマットをやめた。 代わりに、大きめのタオルを適当に畳んで使っている。 のると足がほっとする。洗うのも干すのも、バスマットより遥かに楽だ。 冬になり、洗濯物が乾きにくくなったのがきっかけである。 ちょうどタオルの新調も考えていた時だったので…

裏返す

厚手のセーターやジーンズは 裏返しに干したほうが 乾きやすいという それで思い出したのだが 人生もある地点で 実は裏返しになるという説がある 涙が多ければ あとあと笑いがあふれ 流されるままであれば とどまってしまうと 恩師は折に触れ語っていたもの…

夕焼け

その日 夕焼けは蒼く澄みわたった 熱い思いと冷たい風が 頬に触れては遠ざかる あの日 雨が落ちたことも忘れて カーディガンも羽織らず 出てきてしまったから ぶるると震えた その日 夕焼けは蒼く澄みわたった 熱い思いと冷たい風が 頬に触れては遠ざかる

寝返り

心臓が 上になり下になり また上になる あなたがくるまで 祈るように繰り返している 空が 上になり陰になり また上になる あなたを抱くまで ため息のように繰り返している

肉親

深夜スマホが震えて その知らせを運んできた 疎遠になった妹たちに 滅多に使わない一斉送信 こんな時代でも こんなご時世でも 長男は長男なのである それぞれの人生が混じり合ったのは 今思えばほんのひとときだったろう どした?と半分寝ぼけた妻に 既読の…

ネット銀行

乾かしてみる-1

ドライフラワーを作ってみたくなった。 我が家では「お花の定期便」が届くサービスに加入しており、2週にいちどちいさな花束が送られてくる。 片方の手でそっと握れるくらい。 ポストに入らなければ、扉の前まで届けてもらえる。 数日たち、花瓶の花が少し…

孤独

言葉であらわせるうちは まだいい それがなんなのかわからず 心地よさすら覚えて 身をまかせてたくなる さびしいだけなんて甘えだよね 孤独の淵に立っていると気づかないまま あの子は笑う 言葉であらわせるうちは まだいい 孤独は音もなくやってくる それが…

日々

哀しみを厭わず 孤独にもさからわず 悩みあれば 心の引き出しを整理し 静かに佇んでいる 謗りには感謝を 称賛には控えめな微笑みを 病む日は雲と話し 闇の日は風を聴き 好きな曲流れれば そっとリズムをとり パワフルな絵と出会えば 財布の紐が緩みがちに た…

ひとふでが記

離れ離れがよいこととされ 夏ばかりがやけに目立った そのくせほとんど一本調子の日々で 緊急にもうっかり馴染んで 俺らは何をおどおどしてるのか 見えない何かと 見える何かを 満遍なく受け入れる あれほど躊躇した 新しい日々がすっかり板についた まるで …