猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2019-06-01から1ヶ月間の記事一覧

静かな雨の約束-2〜トーザ・カロットの人々

猫そっくりの店主が営む 岬の毛糸屋さんを僕は訪れている 不思議な音色を奏でる毛糸は 猫にもひとにも それ以外の命たちにも それはそれは人気で その理由を知りたくて お酒の相手も欲しくて 猫そっくりの店主と約束を交わしたのだった 「いらっしゃい」 ノ…

静かな雨の約束-1〜トーザ・カロットの人々

夏至をすぎて 風向こうの岬にも ようやく静かな雨が降り注ぐ いつもの道を行けばほどなく 猫の詩人屋さんの住処が見えてくる が 今日は久しぶりに毛糸屋さんを訪ねることにする ひとのようにすっくと立ち ひとの言葉を話し ひとよりもひとのことを知り 歳を…

凝固

黄身色の陽がぽかりと浮かび 野菜室のパプリカを 僕はまた思った 黄身色の陽がだらりと崩れ 冷凍庫の刻みねぎを 僕は羨ましいとまた思った 黄身色の陽が雲に隠れ ことん、ことん 体が四角く転がるのを 僕は嘆きもせず まだそのままでいた

をの去りて 黄身月いまだ残りけり

風磨きのうさぎ-6

“風ではないものを磨きなさい” 天気をつかさどるかみさまは おっしゃいました 長い雨の季節 わずかに不規則なリズムで 水滴が大地を叩いています 岬の風模様と雨模様とを彩る 風磨きのうさぎは ひさかたぶりに宝箱から いにしえの音の葉をとりだしました い…

詩人屋さんのひとりごと-c

溺れるぐらいなら 沈んでもいいよ そのうち すーっと力が抜けて そのうち すーっと浮かび始めるから 溺れるぐらいなら 沈んでもいいよ そのうち すーっと闇がはれて そのうち すーっと明るくなるから 溺れるぐらいなら 沈んでもいいよ そのうち すーっと涙が…

とめどなく

小さな小さな言い訳が あとからあとから口をつく あわよくば 願わくば しめしめ…? 朝から暑いから 猫が行方不明だから あの夜きみが泣いたから 小さな小さな言い訳が あとからあとから口をつく たまにはね 少しぐらいは よくある話だし ほら今日もとめどな…

あなたの街

曲がり角ひとつ あたしはいつも手前を あるいはいつも見落として先を だから あの街はいつまでも苦手だ 匂いも 音も 光景も 曲がり角ほんのひとつ あたしはいつも手前を あるいはいつも見落として先を 行きたい場所は そこにあって 忘れ去られたわけでも 消…

詩人屋さんのひとりごと-b

なまめかしく砂が落ちて 時間はすでに人のものではなかった 止めようにも超えようにも すべはなく 砂に紛れるしかないのである なまめかしく砂が落ちて 時間はすでに人のものではなかった 刻もうにも戻そうにも すべはなく こぼれ続けるしかないのである 絶…

冗談だったのですか

戯れ言と なんぢがさ言ふとて信ぜられぬ 交はしし熱も甘き言の葉も

ポリグラフ

黙っていれば いいんじゃないの それか とびきりの甘い嘘でも ついてみれば ぼくの中のポリグラフが カチカチ動いて きみの微笑みを測っている 囁いてみれば いいんじゃないの それか とびきりの甘い嘘でも ついてみれば ぼくの中のポリグラフが カチカチ動…

やさしさとは

「やさしさ」を 迷ひて家族に罵倒さる そんな日もありあり難きかな

ふれあい

ほら 遠慮しなさんな あなたがやさしく膝をたたく 着古したTシャツを 膝の上に丁寧に広げて ほらおいで あなたがやさしく僕を呼ぶ 飛びのろうか よじのぼってみようか 長いしっぽをゆらゆらさせて 大好きな場所をじーっと見た ほら 遠慮しなさんな あなたが…

有罪

問われるダロウか 問われないダロウか できゴゴロだった まさかいなくなるなんて 予想できなかった 裁くのか 抵触するのか 指先ひとつ 単語ひとつのことじゃぁないか なんで俺だけなんだ みんなやってるじゃないか あっちでもこっちでも 殺しまくってるじゃ…

あの子の鏡はふたりを映し 私の鏡は孤独を映す ふう、と足元目をやれば ロボット掃除機走り去り 不機嫌空に押しつけて さびしくないぞ、と舌出した あの子の瞳はあの人映し 私の瞳はふたりを映す ふう、とスマホに目をやれば 「少し遅れる」LINEが光る

生々反転

まあだだよって 言われるままに 素直でいるのに飽き飽きしてた もういいよって 笑われるままに 道化でいるのに飽き飽きしてた では すっかりねじくれた心を まず 表に返すところから 始めてみようじゃないか

ある場面

手放せば 幸くるなりと肩を抱く

サヨナラ

いかなる人とて 海に還るとこはがりて 流るる涙を風がためにす [訳] どんな人であっても 海に還るものだと強がって 流れる涙を風のせいにしているのです

鍵付きダイアリー

朝でも夜でもない時刻 少しだけ凍えた心は 読み慣れた短編小説のようだ そこに君がいないなどと 鍵付きダイアリーに綴ったところで 辛いだけだろうに 朝でも夜でもない時刻 少しだけ淀んだ体は 住み慣れた安アパートのようだ いつか君に会いたいなどと 鍵付…

答え合わせも済まぬのに

人生の答え合わせも済まぬのに 白黒つけよと迫る吾妹子

理由

やさしかったのは 雨が降ったからだ 好きだとか 嫌いだとか そんな話ではなく 触れたのは 雨が降ったからだ そうしたいとか そうしようとか そんな話ではなく 泣いたのは 雨が降ったからだ 会いたいとか 立ち去りたいとか そんな話ではなく ただ急に 雨が降…

ぼくが俯いている間に世界は終わってしまったのか

窓を開ければ コンソメキューブ色に染まった空 ぼくは思わず 「かみさま…!」と呟いた 季節の境目がなくなって もうずいぶんとたつけれど それでも 雲も風も空も 輝いていたのではなかったのか それとも ぼくが俯いている間に 世界は終わってしまったのか 窓…

溶けたパラフィンのように

愛は決して裏切らず 何もかもをもふわりと包みこむ 尽きたかと思えば溢れ 壊れてしまえと願っても 何もかもをやさしく満たしていく 僕の涙も 僕の憎悪も 僕の嘘さえも 熱く包みこむのだ 溶けたパラフィンのように

だれかの放った

心が鈍く脈を打つ 目の前を過ぎたのは言霊だけなのに 心が鈍く脈を打つ 目の前を過ぎたのは思いだけなのに 心が鈍く脈を打つ 傷が広がった 目の前にあるのは短い音節だけなのに 知らないだれかの放ったものなのに

“か”のうた

かすれた記憶を記せば かられた衝動の奥 かさねた月日も消え行き かすかな光景となる かなえた夢のあとさきに かまえた感情も和らぎ かがやく藍に染まれば かけがえない宝となる

食卓

焼き海苔の匂いが鼻につき 味噌汁と卵で 乱暴にのみくだす 顔も見たくないのは お互いさま なのに まだもしかしたらと 淡く願う バターの香りが胸をつき サラダとコーヒーで 乱暴にのみくだす 触れたくないのは お互いさま なのに まだ もしかしたらと薄く笑…

強がり

元カレに 「わりと幸せ」返信す

雨の庭

雨の庭 言葉も恋も脱ぎ捨てる

雑踏の

雑踏のひまわり覚ゆ にはか雨 [作者より] 突然の雨に人波が揺れ動くさまは、どこかひまわり畑に似ています

ゆびさき

ぴ 手の中でスマホが鳴く あの人が好き 誰かの指先が動いた ぴ 手の中でスマホが鳴く 気にいらんのよ 誰かの指先が動いた ぴ 手の中でスマホが鳴く 暑くてやっとられんな 誰かの指先が動いた ぴ 手の中でスマホが鳴く おはよう もうすぐ着くよ あたしの指先…