猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

静かな雨の約束-2〜トーザ・カロットの人々

猫そっくりの店主が営む

岬の毛糸屋さんを僕は訪れている

 

不思議な音色を奏でる毛糸は

猫にもひとにも

それ以外の命たちにも

それはそれは人気で

その理由を知りたくて

お酒の相手も欲しくて

猫そっくりの店主と約束を交わしたのだった

 

「いらっしゃい」

 

ノックするより早く扉が開いたものだから

危うくマタタビ酒をとり落としそうになる

 

「おっと」

 

ふかふかのまあるい手が

器用に瓶を受け止めた

 

店主は瞳を細めると

どうぞ、と招き入れてくれながら

「奥様はお元気ですか」と言った

 

何しろ編むよりもつれさせるのが得意な

妻のこと

それでも「人生みたいなものでしょ」と笑って

何度でもほどき直し編み直す

先輩だった頃も妻になってからも

それは変わらない…が

 

「店主に会いたいなぁ」

の言葉になんだか拗ねてしまった僕は

聞こえないふりをした

 

空落ちが落ち着いたとは言え

カケラのカケラぐらいが降らないとも限らず

翌日は雲予報を巡って小さなケンカをした

 

勢いで店主にメールを送って

静かな雨の日に、という約束をとりつけたというわけだ

 

おかげさまで、と大人の返答をしておいて

ふといつもの癖で空に目をやった

 

「奥様もよく空を見ては降ることを心配されておられましたよ」

 

しっぽを少し揺らして

猫そっくりの店主は静かに言った