猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2018-01-01から1ヶ月間の記事一覧

夢からこぼれ落ちたのは

夢からこぼれ落ちたのは かつての愛しいひとでした すっきり吐き出し しっかり前見て 互いにくるりと回れ右 そんなことさえ覚えてないのに 夢からこぼれ落ちてきた かつての愛しいひとは やっぱり何かに溺れているようで 赤い目をしてブツブツ呟き続けます …

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-17

トーザ・カロット岬の突端に 背の低い花が揺れています リサラヌアの花です ひときわつめたい風が岬に吹く頃になると まるで絵筆に染められているように それまで透明だった花弁は ゆっくりゆっくり雪の色をまといはじめるのです 猫そっくりの店主は 誰より…

ただ歌っていて

ありきたりな物語は 欲しくない ただ 歌っていて あの子の泣き声がきこえないように ありきたりな慰めは欲しくない ただ 歌っていて あの子の心がひび割れないように デジタルの雨の中 まだ 歌っていて ありきたりの癒しは欲しくない ただ そばにいて あたし…

姉の告白

カクカクした星の 変拍子な命の群れ カクカクの空もカクカクの海も それしか知らなかったから 別にどうということもなく 今日まで生きてきた カクカクした星の 変拍子な命の群れ カクカクの風もカクカクの雨も それしか知らなかったから 別にどうということ…

頑なに

頑なに未来だけしか見なかった 頑なに過去だけしか見なかった 頑なに今日を生きても 昨日に変わればまだ今日の終わりは遠すぎて 痛すぎる自分の日常を恨んだ 頑なに未来だけしか見なかった 頑なに過去だけしか見なかった 頑なに今を生きれば さっきまでのト…

元カレ

お茶ぐらい飲ませてよ そう言って君は 捨てられずにいた大ぶりのマグを 食器棚の奥からさがしあてる これ好きだったんだよね そう言って君は 当たり前のようにあたしの淹れたコーヒーを飲んでる 大好きが湧きだした分だけ 大嫌いも降ってきた なんてバカバカ…

恋するにもほどがある

ほつれた糸を引くときの 醜い歓びに酔う あなたの心をそんな風に 紐解いた 運命にもほどがある 泣き叫ぶにもほどがある 恋するにもほどがある

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-16

コロコロ ちりちり パリパリ さわさわ なんとも心地よい音が お店の奥から聴こえてきます それはそれはひそやかに とてもとてもささやかに 手にとると消えてしまったり 近づくと歌いはじめたり 毛糸玉たちは気まぐれです 猫そっくりの店主はまあるい手で ひ…

翡翠色の影法師

翡翠色の影法師たちが 入れ替わり立ち替わり 想い出を上書きする 失恋はより美しく 失敗はより悲しく 失言はより冷たく 心を上書きする 翡翠色の影法師たちが 入れ替わり立ち替わり 想い出を上書きする 秘めごとはあからさまに 孤独は罪に 喜びは憎しみに 理…

粉雪

うさぎたちが風を磨き終えて 雪を降らせる雲の上でひと休みしています 今日の地上はまたずいぶんと冷え込んでいるらしく 心も体もぎゅううと縮こまった人間たちが 不機嫌そうに歩いています 思い思いに雲の上からこっそり地上を見下ろしているうちに 一羽の…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-15

さっくりさっくりと雪を踏みしめ 猫そっくりの店主は いつものくぼみまでやってきました 小脇にとっておきのお土産を携え 幼馴染に会いにきたのです お互いがお互いを風変わりだと思っていた頃 言葉はあまり意味を持たず ただ 見上げた空に揺れる雪だるまの…

ため息の理由をあたしは知らない

ため息の理由を あたしは知らない 言葉にしてくれないから わからない あたしだけが知ってるはずの 感情の上澄みすら もう分けてはくれない ため息の理由を あたしは知らない 視線にかき消されて 二度とわからない

夢見がち

キタナイ ヨゴレル そう言われても 子どもの頃は男でも女でもなく いられたから かまわず秘密基地なんぞ作ってた キタナイ ヨゴレル そう言われすぎて 体も心もいささか窮屈ではあったが 子どもの頃は男だから女だからと 深く考えることもなく 大きな水たま…

いつの日も妹のように

死にたくないと身構えるでもなく 生きていたいとすがるでもなく やわらかな微笑みをたたえて あの人は逝きました あたたかな腕にすっぽり包まれ わたしは幸せでした いつの日も 妹のように可愛がってくれた人 ありがとう

愚かなふたり

月の引力に逆らって ようやく君に終わりを告げた 海ならば泡立つぐらいですむだろう 猫ならば逆立つぐらいですむだろう 人ならば抗えず 寄り添っては傷つけることを繰り返す 月の引力に逆らって ようやく恋に終わりを告げた 嘘も真実も身をよじり ますますふ…

何をさがしているのでしょう

服に隠れた部分など そんなに変わりはしないのに あなたもわたしも 何をおそれているのでしょう 肌に隠れた部分など そんなに変わりはしないのに あなたもわたしも 何を嘆いているのでしょう 星の色でも変わらぬ限り そんなに悲しくないはずなのに あなたも…

祭あと

打ち捨てられたツリーを ひとかわひとかわ 剥き出しにするくせに 12月をこよなく愛すふりをする 波打ち際では ひとかけひとかけ甘いケーキの恋模様 紡いだそばから泡になる 赤色帽子のふわふわサンタ 祭あとの可愛いトナカイ 夢のあとさき迷子のふたり

ねじれ

きみが呼ぶぼくの名は とうのむかしにねじれてしまって もはや原型をとどめない ぼくはただ苦笑いして それを投げ返しもしない サンタのソリの刃は すべるように走るけど 魂ひとつ傷つけずに夢を運ぶ きみは言の刃を 自在にあやつりながら いつか自分の魂ま…

ねえ

ねえ 目に見えるものやさわれるもの 目に見えないものやさわれないもの 両方ぜったい? 片っぽじゃダメ? ねえ 目に見えるものと見えないもの さわれるものとさわれないもの 両方ぜったい? 半々じゃダメ? ねえ はかれないことまで目盛りで決めつけて はか…

布団に抜け殻雲に落書き

布団に抜け殻 雲に落書き 雨のカーテンは とんでもなく遠くて 夕方から荒れ模様だなんて お天気アプリを見ても 信じられない 冬は重くさびしく きみの声がやさしく響く 嫌いになれないのは 孤独すぎる季節だから 聖夜の恋人たちはすでに 他の誰かと手をつな…

なくなりっこないもん 消えたりしないもん 今はね 手放せるもん なかったことにできるもん 今にもね 覚えてられるもん 泣いたりしないもん 今だけね

しばられているものリスト

ことば からだ 嫉妬 許し 憎しみ 安堵 愛 他人 自分 過去 未来 自由 夢

あたしとあした

少し悲しく少し不幸せで 少しさびしくて 少しずるい 少し不安で少し深くて 少し笑えて少し許せない 少し歩いて少し泣いたら 少し明日と仲良くなれる

必ず

伸縮する宇宙のほんの片隅で 小さな小さな時間の部屋に 閉じこもっている者がおりました 誰かが部屋の前を通ろうものなら ビクビクっと震えあがって もっともっと狭いところに もぐりこんでしまいます やっとやっと正直になれたのに やっとやっと手に入れた…

これから

愛されていた証拠を見つけようと 古いアルバムをめくるより これから出会う誰かを 愛していけばいい 愛されていた名残を探し出そうと おもちゃ箱をぶちまけるより これから出会う時間を 愛していけばいい 愛されていることに気づくのが 少しばかり遅くなって…

冬のふたり

昼の時間が すっかり短くなって まるで ぼくたちの影みたいだ 編むほどに もつれていくのは いつものことで ささやきが届く距離なのに 言葉がもう届かない 太陽は生まれ変わっても どうして心は 生まれ変わるのに とても時間がかかるんだろうね 昼の時間は …

猫のつぶやき

声をかけたのは 今思えば あなたのほうからでした 腕時計がキライだったのに その日は無理やりつけさせられていたのです おしゃれだなんだと決めつける身勝手な同居人に 我慢できずに逃げ出して 首元の重さばかり気にして ふるふる ふるふる 身震いしていた…

rétro box

行ったことのない国の匂いが袋からこぼれた コーヒーは 懐かしくて少し甘く 遠くて少し苦かった ディスクをそっと機械に押し入れると 夢と不思議が さわさわとあふれた 種は いつだってほんのり秘密を抱えてる 息吹き花を咲かせ 実を結び あなたやわたしの元…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-14

学校がお休みの間 週に1〜2度毛糸屋さんの店番をしています ほんの見習いなのですけれど トーザ・カロットの岬はこの季節 あまりにも風が強くて 毛糸を買いにやって来るお客様は ほとんどいないのです ただ 不思議な言葉を話す猫や わたしたちと少しだけ違…

噂と三つ目

宇宙語を習いに 猫のところに行ってきたんだが そこで興味深い話を仕入れてきた 星間の噂で片付けるには もったいなくてねえ それであんたに話してるってわけだ なんでも 小さな青い星では1の月がくるたびに どんちゃんどんちゃん大騒ぎするらしい もちろん …