猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

猫は焦げ色(句)

月隠れ 焦げ猫ひとり 花衣

おかえり

おかえり 迷いこんだ恋心 おかえり 憧れと嫉妬の混ざった ざらついた感情たち おかえり しまいこんだ 淡い憎しみ おかえり 片づけたはずの 深いため息

ふるふると(句)

ふるふると 心凍ゆる午前四時 まどろみてなほ 眠るまじきに

乳白インクを夜に浮かべて

乳白インクを夜に浮かべて あたしは猫をさそいだす 待ってましたと伸びをして 灰色毛玉が喉鳴らす 春は浅く風は甘く 猫の足でも 時の速さに追いつかない 乳白インクを夜に浮かべて あたしは猫をさそいだす 待ってましたと伸びをして 灰色毛玉が喉鳴らす

僕は森はずれに住む三つ目を訪ねた

あれほどまでに遠かった 親の背中や肩先に たやすく指先が届くのは 喜びもさびしさもひとしおだがね あんたにも覚えがあるんじゃないのかい あたしらの中身は いつの時だって分裂し続けてるのさ なに 人らだってそうさね おチビがだんだん大人に近づいていく…

空あおぎ

空あおぎ 学び舎遠く朝戸風

薄ピンクのトゲ

遠くで電子レンジが時を告げる 今朝も薄ピンクのトゲを うまく抜けなくて おはようの言葉が思い出せない やかんも鍋もあふれるほどなのに まだ薄ピンクのトゲを うまく抜けなくて 愛の言葉が思い出せない 遠くで電子レンジが時を告げる 今朝も薄ピンクのトゲ…

春寒

春寒や 猫と競いて 膝枕

あたしの猫は青い色を纏った

あたしの猫は青い海の底 生まれる前の 命たちがまどろむ虚空 あたしの猫は青い空の上 生まれる前の 命たちがさざめく宇宙 あたしの猫は青い色を纏った 生まれる前の やさしさが集う雨

ゴム風船

やがてくわえるのも飽きて すっかり小さくなってしまったから いっそのことかじりついてやろうかと 女は考えを巡らせる 夢は一瞬でも 熱は続くのなら しがみついてもっとねだればよかったのだ やがてくわえるのも嫌になって すっかり小さくなってしまったか…

手紙

沈丁花 香り閉じこむ 文の奥

春の風

きみが好きです

季節が進みすぎた昼下がり 僕はコンビニでアイスコーヒーを買う そういえばいつからか シロップをふたりで分けて ちょっぴり甘いコーヒーをホルダーに並べるのが ドライブのお決まりになって ダイエットは明日からにする! ちっともそんな必要はなさそうなの…

春の朝

乳白の 空ひともぎり 春の朝

遠恋

月も寝入り 海向こうは朝 きみおもふ

バレリーナのように

靴下を三つ折りにして小さな台に置く 明日の朝一番にひんやりフローリングをバレリーナのように軽やかに歩こう 靴下を三つ折りにして小さな台に置く 明日の朝一番にひんやりサッシをバレリーナのように優雅に開けよう 靴下を三つ折りにして小さな台に置く 朝…

面映く

面映く ただ面映くひとつ傘

街は蜘蛛の巣モグラになって進む

街は蜘蛛の巣 モグラになって進む 群れるのに飽きて 到達点を探す 命を喰いつつ生きながらえて 命を喰われつつ生きなぞる 街は蜘蛛の巣 モグラになって進む のしかかる闇に飽きて 差し込む光を手放して 終着点を探す 命を喰いつつ生きながらえて 命を喰われ…

仮想風景

人で埋め尽くされる誰もいない街

鼻の頭も唇も すっかり凍えてしまう街 薄青色のマフラーにすっぽり抱かれ 歩きます 耳と心を満たすのは 愛してやまない音の群れ 疲れた視界を満たすのは 街を埋め尽くす人の群れ 鼻の頭も唇も すっかり凍えてしまう街 薄青色のマフラーにすっぽり抱かれ 歩き…

固結び

冷えた空がゆっくり溶けだす頃 あたしはまだ固結びのままだ 寒いわけじゃない 朝が嫌いなわけじゃない むしろ 嬉々として跳ね回りたい だけど きみの匂いを忘れたくなくて あたしはまだ固結びのままだ 一瞬でも 幸せを怖いと思うのは罪なのだろうか 冷えた空…

恋深し

偽物ミニマリスト-5

ざわわと騒ぐ心を どうすれば片づけることができるのでしょう 体がなければいいのでしょうか そうすれば 心の宿る場所はなくなる ああだけど 心だけがさまよい続けることになり それはそれでずいぶん救いようのない話 女はため息をつきました ほんとのことを…

憎らしいと言われないだけましだと

赤子に乳を含ませながら一瞥し その人は目を釣り上げた ほとばしる激情をこぼさないよう そうしているらしかった あたしのこと大事なのかな 愛してくれてるのかな あたしのこと嫌いなんでしょう 愛してくれてるのかな 幼い日 覚えたての言葉と よくわからな…

それがあなたの常套手段と言われて

隠し事ひとつしてない日 お話作るの上手だね 嘘つくんじゃないよ だいたいどちらかのセリフをぶつけられた それが嫌で にこにこして何も答えずにいたら 子どものくせに生意気だ とまあそんな日々を呪ったことも 体のどこかに眠っています 流石にぐっすりとい…

いつもあなたはみんなでくくる

いつもあなたは “みんな”って言う それが安全な方法だから いつもあなたは “みんな”でくくる それがそこそこ正しいかもしれない だけど いつもあなたは “みんな”に属して あたしをますます生きづらくする

言えなかったし癒えなかった

皮を剥いて 罵詈雑言を刻まれ 何食わぬ顔して元どおりに さいしょの痛みをガマン そしたら見えなくなるし 傷が癒えたらぜんぶ忘れる そう信じ込んでいるうちに じわじわじわじわ 中からも外からも崩れていく 肌を裂いて 罵詈雑言は刻まれ 何食わぬ顔して元ど…

誕生日(もう訪れない誰かの)

ひとつひとつ何かを悟って ひとつひとつ焦りが増して ひとつひとつ何かを手放し ひとつふたつ幸せになる ひとつひとつ何かを諦め ひとつひとつ痛みが増して ひとつひとつ何かを重ねて ひとつふたつ幸せになる ひとつひとつ何かに傷つき ひとつひとつ向き合い…

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偽物ミニマリスト-4

おうちの中が すっからかんにかたづきました 命に必要なものは結局 そんなに多くはないのだと 女は満足げに部屋を見渡すのでした 悩みの種もかたづけて 嘘をつくのも 正直すぎるのも 好きになるのも 嫌いになるのも やめました 何か忘れているようで 何か落…