猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2017-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ある朝-1

今朝も いつものように過ぎていく きみの焼く少し焦げたオムレツ 僕の淹れる甘いカフェ・オ・レ 野菜だらけのベーグル みかんのジャム チビたちの「いただきます!」の声 今朝も いつものように流れさりそうで 新聞の見出しもテレビの占いも 素通りして 大き…

自分より1ミリでも不幸なヤツを

自分より1ミリでも不幸なヤツを ネットで見つけてほくそ笑む そんなことくりかえしながら おはようを交わす 自分より1ミリでも幸せなやつを ネットで 見つけてうらやんでる そんなことくりかえしながら 今日もかみさまが行方不明だよと 冗談交わす ヨノナカ…

荷物

詰めこみすぎたので 小さな小さな大切なものが どうしても 見つかりません あれもこれもと欲張ったので 小さな小さな優しさを 戸棚のうしろに 忘れたみたいです 何もかもを持ち歩こうとしたので 小さな小さな思い出を 生ゴミのように 捨ててしまいました

一日花-B

昨日が消えた あたしも きみも あいつも あのこも 昨日は消えた あたしが きみが あいつが あのこが だけど 今日を咲き誇る あたしが きみが あいつが あのこが 今を盛りと けなげに咲き誇る

一日花-A

きみに明日が来ることが うらやましくて 憎くて そのくせ 「きみではなくてよかった」 そうも思うんだ きみが昨日を知っていることが うらやましくて 愛おしくて それで 「もしもぼくだったら」 身勝手に想像するんだ きみが見ているのは もうぼくじゃない …

約束

約束した通り その日は雨でした うさぎたちが風を磨き終わって しとしと雨を降らせているのです 夢の中での約束なんて あてずっぽうで ずいぶんと淡い色なのに 目が覚めても消えずに残っていたのです 約束した通り 朝から雨でした うさぎたちが風を結んだり…

三つ目の見た夢

三つも目があるんだ きっと人とはいっぷう変わった夢を見るにちがいない もしもの話だがね 研究所なんぞに連れてかれたら 無理やり眠らされて脳波をとられたりするんだろうねえ 人の役に立つというごもっともな理由で 三つも目があるんだ きっと人とはいっぷ…

混乱

月曜日 感覚としてはすでに水曜日 なにを焦っている なにを慌てている 抜ける空とアポイントの海に溺れかけた 苦笑いの朝 木曜日 感覚としてはすでに日曜日 なにを焦っている なにを慌てている きみのメールと映画の予約を指先でたどっては 苦笑いの夜

止まらなくなったクシャミ

止まらなくなったクシャミ 陰険な言霊で八方塞がりな小径 ぼくは急いですり抜けたくて ものわかりのいいふりをする 悲しいドラマに寄り添うより 炎上に加担するより そうそう目立ちたくもなくて 風の噂を固く信じるふりをする 1000冊の本を指先にのせても 目…

切り抜いたはずの空

切り抜いたはずの空が 忘れたはずの記憶をかき乱す 手放したはずの言葉が 消えたはずの嫉妬を映しだす 選び抜いたはずの道は うねうねと横たわり 重ね続けたはずの努力は ことごとく砕け散り あきらめたはずの夢は 今も感情を裏切り続ける 絶望だけを味方に…

新学期

新学期の始まるころ なんとなくもどかしくて どことなく不安な心を抱きしめる ぎゅうぎゅうづめの電車に 少しだけうんざり 教室の空気になじむまでは なんか照れくさいけど それだって楽しみ 遠い岬の毛糸屋さんで バイトしてたことは 友達には内緒 つまんな…

命に巣食う悲しみ

床の綿ぼこりは 掃き出すか 掃除機が吸いとってくれる 隙間のゴミもちょっと頑張れば 取り除ける 心の綿ぼこりは なかなか掃き出せず 誰も吸いとってはくれない 隙間にこびりついて 隅にへばりついて 剥がすほうも剥がされたほうも 傷だらけになるから それ…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-11

トーザ・カロット岬に びゅうびゅうと強い風が吹いています このところ時折 ひんやりした風や雨が混ざるようになってきました 毛糸屋さんにレース糸と毛糸が なかよく並ぶ季節の到来です 今日も 猫そっくりの店主はまあるい手で だいじにだいじにひとたまひ…

三つ目と雪だるまの満月

雪だるまの満月が あたしら三つ目の窪みを こわごわ照らしてる あたしらのご先祖さまは そりゃあいたずら好きで あるとき月にもうひとつ 月をくっつけたらしい 人は 月が雪だるまの形をしてるなんて 気づきもしないだろうが あたしらは三つ目でそれをとらえ…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-10

もくもくと立ち上がっては 雨を運んできた雲たちが ようやく薄くなって 日差しのやわらかな季節の到来です このところ 「もみじになりきれなかった夕日色」 「次の季節を待つまでの穏やかな時間」 「猫たちのひそひそ話」 どこか秘密が匂いたつ そんな毛糸た…

夏夢(なつゆめ)

削りとられた蝉の音 消えた青い影 かすめたキスのなごり 恋のカケラ むしりとられた羽音 消えた青い心 かすめたハグのなごり 涙の雫

正夢

ざらざらした星空を 記憶だけを杖にして 今夜も歩く 砂に足をとられるから 記憶だけを味方にして 雨ざらしの時をいく 人の心を編みあげるくせに 感情は遠くで苦笑いする 正しくなくてもいいじゃないか 耳元で囁かれ 今朝も夢から転げ落ちる

再生

心の底からひび割れて 傷つくことを 本当はよく理解できない 落ち込んだ 立ち直れない 辛くて 悲しくて たまらない 何もかも許せない それはもう 心も体もバラバラになるような痛みだ だけどね そんなことを感じたそばから わからないほど少しずつ 傷が癒え…

四月某日はじめてきみの

冬が逆戻りしたような 四月某日 はじめてきみの隣に座る 天気のこととか 最近食べた美味しいものとか 他愛ない会話をした 夏を先どりしたような 五月某日 はじめてきみの車に乗る エアコンが壊れてしまったと 大笑いしながら 窓をあけた 七回りほど季節が巡…

終わりの日

なつかしく空がにじむのを もう止めることはできなくて ただ 抱きしめられていたんだ なつかしく風がこわれるのを もう止めることはできなくて ただ 叫んでいたんだ なつかしく誰かが歌うのを もう止めることはできなくて ただ 涙をぬぐったんだ

あなたを傷つけるには物足りないくらいの

今日の雨は 静かでしたか あなたを思い出すのには 物足りないくらいの 今日の雨は あたたかでしたか あなたを抱くには 物足りないくらいの 今日の雨は やさしかったですか あなたを傷つけるには 物足りないくらいの

ハリネズミの憂鬱

充電器のコード束ね 今だけは振り向かないって決めて 秋茜を見送った空 ハリネズミみたいに 季節を過ごすことが どうしても嫌で 今だけでいいから 前だけ見てな 必死で自分に言い聞かせた 充電器のコード束ね 今だけは振り向かないって決めて 秋茜を見送った…

三つ目と三つ目

あたしら三つ目は もともとこの星の言葉しか 知らないものだから 星間のうわさは猫に教えてもらうのさ 猫といっても 人と寄り添うことを選んだ四つ足じゃなくて 岬のほうやら 森の奥やらで 静かに暮らしている二つ足の種族 その中に 宇宙語とこの星の言葉を…

潮汐

水そのものでしかなかったら ほんの泡立つぐらいで すむだろう あたしたちは運悪く 星の粒と水を宿していたので よろよろ ふらふら 雲間へ迷いこむ 満ちては欠けて 欠けては満ちて よろよろ ふらふら 雲間を流れていく ただの水であったなら ただの天体であ…

なんでもない日に肩を並べて

あの人と肩並べ歩いた なんでもない日の夕暮れ うさぎたちが風を磨き終えたら 秋がくるよなんて 童話とも真実ともつかない話を どちらからともなく 真顔で語り合った あの人と背中あわせになった なんでもない日の雨模様 狐の嫁入りって言うんだって 人のサ…

三つ目と手のひらの空

人はアプリってもので 雲の行方から雷の落ちる場所まで 知ったつもりになるらしい あたしら三つ目もアプリは使うが それより信じられるのは 肌にまとわりつく風の重さと 戌亥の方角に黒雲が育つ日の 土砂降り予報ぐらいだねえ 手のひらの空に なんの意味もな…

あふるる愛ひとつ

涙を流し 祈りをこめて こころに奏でひとつ 不安を閉じ 祈りをこめて 瞳に夢ひとつ 命を抱きしめ 空仰ぐ あふるる愛ひとつ

秋の朝

秋の朝は 藍色でできています 熱を孕んだ空も さざめきあっていた海も すっかりすっかりしんとなって いつもより深く息をしているのです 秋の朝は 栗色に染まります 歩くひと 走るひと やっとやっと笑顔になって いつもより遠い公園を目指しているのです 秋…

迷子と三つ目

傘に隠れることのできる雨の日でなければ あたしら三つ目は街には行かない なにしろこの姿だろ? 拡散されるだけなんでね 仲間にも迷惑かけちまう あんたは人なのかい これから人になるのかい そうかそうか 街はお祭りなんだねえ ほら しがみついてないで あ…