猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-11

トーザ・カロット岬に

びゅうびゅうと強い風が吹いています

このところ時折

ひんやりした風や雨が混ざるようになってきました

毛糸屋さんにレース糸と毛糸が

なかよく並ぶ季節の到来です


今日も

猫そっくりの店主はまあるい手で

だいじにだいじにひとたまひとたま

棚に並べていくのでした


午後になって雨足が強くなった頃

頑丈そうな傘をさしたお客様がやってきました


雨の日にだけやってくるお客様は

いつもそんなに迷うそぶりもなく

毛糸だまをひと抱えお買い上げ


そしてまた

窪みに帰っていくのです


星間の噂では

青い星の行方について

あることないこと寄ってたかって

こっぴどく流布されてるらしいが…


猫そっくりの店主は

気になっていたことをお客様に訊いてみました


お客様は

そうさねえ、と言葉を探しておりましたが


「あたしらはこうして雨の日に普通に歩ければいいだけなんだがねえ」


お客様は「真夏に白い鳩が飛んで」という名の

毛糸だまを大事そうに抱えると

いい香りのするあみぐるみの頭を撫でて

にこっとしました

そうして


じゃあまたいつかの雨の日に


やさしく挨拶して

傘に隠れるように帰って行きました


トーザ・カロットの岬には

今日もびゅうびゅうと

誰かの悪い夢を吹き飛ばすような

風が吹いているのです