猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

笑顔

あした今日よりいくつか多く 笑顔をポシェットにしのばせておこう そこらじゅうに 花が咲くみたいな 笑顔をこぼそう クッキーのかけらが ハラハラ落ちるような 笑顔をポシェットに用意しておこう おやつをかじるふりして あたり一面に 笑顔を散らかそう あな…

毛糸屋さんのこと

トーザ・カロットという岬にある 毛糸屋さんは 猫にそっくりな店主が 営んでいます お客は 編み物好きの人や 空が好きな人 雨の日にしか来ない 窪みの住人 居場所を探している少女 店主によく似ているけれど 耳慣れない星の言葉を話す者 さまざまです 毛糸の…

三つ目と幼なじみ

その子は 嬉しいときにっこりするより 喉をゴロゴロ鳴らすのが得意でねえ あんまり気持ち良さそうだから うがいするとき真似してみたけど あたしら三つ目には到底難しい 満月が雪だるまの形をしていても びっくりしない 三角の耳と長いしっぽがおしゃれなの…

空に浅く切り傷できて

朝が遠く ため息ついてる きみの横顔 迷い風 海は深く あくびをしてる きみの泣顔 向かい風 空に浅く 切り傷できて きみの笑顔 通り風

あたしがあたしでいることと

あたしがあたしでいることと あなたがあなたでいることと そこに果てしない宇宙があるわけじゃなく そこに果てしない時間が置かれているわけじゃなく あたしがあたしでいることと あなたがあなたでいることと そこに複雑な理由があるわけじゃなく そこに複雑…

子どもの三つ目-2

"誰かが言ったから" "誰かに言われたから" そんなことは取るに足らないこと 一度は耳を傾けて そのあとよくよく心で消化して 答えを出せばいい "みんながやってるから" "みんなが持ってるから" そんなことは取るに足らないこと 見せてもらうもよし 試させて…

荒野

誰かのためなのだ この行為こそが そう思いこんだとき 体の中からこぼれる空模様は 見返りのないもどかしさや 意外なほどの嫉妬心 正義の意味は消え去り 全てに蓋をする 誰かのためなのだ この行為こそが そう信じこんだ時 心の中からこぼれる風景は なかな…

射手座の女でいてくれ

確か明日は 誕生日だったのだ 想い出が よほどの嘘つきでない限り 確か明日が 誕生日だったのだ 想い出が 美しく上書きされたのでなければ 確か明日が 約束の日だったのだ 想い出が 記憶と食い違っていたとしても ぼくが勝手に 思いこんでるのだとしても

大事だったのにね

好きなのは 君を笑わせること もっと好きなのは 君が僕を笑わせようと 繰り出す 微妙なダジャレ そんな素っ頓狂な時間が とんでもなく 好きだったはずなのにね 大事だったはずなのに ね

ぼくの

不安を煮詰めた 真っ黒なコーヒー きみは さも美味しそうに くいっと飲み干して いつものように にっと 笑うんだ なんでもないことのように それから ぼくの背中をどんってやって 平気 大丈夫 ごめんね ありがとね 大好きよ 魔法をかけるんだ 世界を見失わな…

家族

遠すぎても 近すぎても 照れくさいのに 遠いから 近いから 勝手に決めつけて 遠すぎて 近すぎて 見えないことだらけなのに 遠いから 近いから 素直になれないのだ

日曜の夜8時

日曜の夜8時 なにもかも払いのけようと 無意味に腕をふり回す 日曜の夜8時 なにもかも消してしまおうと 無意味に歩幅を広くとる そうやって街をゆけば 居場所のない心地悪さも 手放せそうで 無意味に口角上げてみる 日曜の夜8時 なにもかも忘れようと 無…

愛育

育児書から 集めたばかりの言葉を やわらかく浴びせられるのは なんて過酷なのだろう 選び抜いたであろう 硬質な言霊を 温かいうちに手渡されるのは なんと残酷なのだろう 衝動にまかせて かけまわれば 許しを請うよりまだマシだと 頑是なげに こともなげに …

夢クッキー

夕焼けの搾りかすをふたかけら 花びらは乳鉢でよくよく練り上げ 希望の種をポン!と割りいれる 彗星が涙を流すので 小皿に少し とり分けて ガナッシュ作っておきましょう それで世界が変わるとか それで夢が叶うとか そんなものではないのだけれど 今日の終…

ゆらゆら漂う

星を読む 月を読む あしたを知る 太古を想う ゆらゆら漂うクラゲになって 光を喰む 陰を纏う 風を数え 花を紡ぐ ゆらゆら漂うはぐれ鳥になって

きみをさがす

きみをさがす きみの言葉ときみの形を きみをさがす きみの心ときみの声を ほんのひと握り ほんのひとかけら ぼくの中に まだ残っているかもしれない クリームパンにかぶりつくような 小さな小さな幸せの粒

13の日、普通のふたり

13の日 あなたの普通の日 13の日 あたしの普通の日 仕事は休みで 天気はおだやか 心配事は過去に置きっぱなし 楽しみは次の休みに 13の日 あなたの特別な普通の日 13の日 あたしの特別な普通の日

深呼吸

時を止めることも 時を忘れることも 時をあやつることも からまった人生をほどくようには いかないもの だから深呼吸するんだ あなたにつながる糸が ピンと張るまで何度でも

知らない街の

知らない街の 知らない人の群れ 紛れ込んで孤独を味わえば それもまた 旅の醍醐味 知らない街の 知らない空の下 紛れ込んで風に触れれば それもまた 旅の醍醐味

冬の星座

冬の星座を ひとりじめした朝 夏の風にも 嫌われた夜を思う 冬の星座は いつのまにかそこにあって 夏に手放した 恋を描き出す 冬の星座を ひとりじめした朝 夏の雨にも 嫌われた夜を思う

レイトショー

パンフレットを ぱらぱらひらひら 劇場ロビーで 待ち合わせ ベレー帽は久しぶり 気づいてくれるかな あなたの好きな色 チケットを ぱらぱらそわそわ 初冬の匂い 手袋してくれば よかったかな 少し後悔する あなたにもらったお気に入り 「よっ!」 「時間厳守…

空をほどく

詩人だから 言葉ぐらいあやつれるでしょう 詩人だから 恋も夢もたやすく歌えるのでしょう 詩人だから 悲しいふりなどしているのでしょう 詩人だから 儚いことだけ集めているのでしょう 詩人だから 空がほどける日を 心待ちにしているのでしょう? ほんとは …

水曜

不安になるのです 水曜がくると 雨ふりな朝じゃない 恋してないわけじゃない 空が消えたわけじゃない お腹が痛いわけじゃない だけど 不安になるのです 水曜がくると あなたがいなくなったのも 心が壊れかけたのも ちいさな嘘をついたのも 死を意識したのも …

つかの間

出発ロビー 斜め前に立って 斜めうしろを見つめてた 目が合えば 今以上に見透かされそうで わざと下手なウインクして あなたを笑わせた 斜め前を歩く 斜めの影を見つめてた 声を聴けば 今以上に悲しくなりそうで わざとまくしたてて あなたをびっくりさせた …

子どもの三つ目

ちっちゃい頃より 空はずっとずっと近くなった それもそのはず 飛び回ることだって 見おろすことだって 叶うようになった ちっちゃい頃より 空はずっとずっと近くなった そのはずなのに ぼくの背丈が伸びるたびに 空はずっとずっとちっちゃくなった パパもマ…

星へ願いを

あたしの耳をふさいだのは 罵る声だった あたしの目をふさいだのは 虚栄心だった あたしの口をふさいだのは 憎しみだった だから どうかあたしをつかまえていてください あたしがあたしを忘れる日まで

朝はこないと

朝はこないと あなたは言う 傷ついた猫のふりして かわした約束を もうほどいてしまいたいと 夜だけで充分なのと あなたは言う 錆びついた季節にまぎれて かわした手紙を もう食べてしまいたいと 昼間はまぶしすぎると あなたは言う 降り注ぐ光が雨にとけて …

三つ目とご先祖様

あたしら三つ目には たいそういたずら好きな ご先祖様がいたんだよ ご先祖様は よく晴れた日でも 平気な顔して都会の街を歩いていたそうだ じっと見られても いないことにされるか 変わり者扱いされるか 子どもに泣かれるか そのぐらいですんでいたらしい 誰…

きみの好きな歌が

きみの好きな歌が ぼくの好きな歌だった頃 空がなくなっても 海が消えても 泣くことはないだろうと 信じてた きみの愛した風景が ぼくの愛した風景だった頃 言葉をかわさなくても 体温を分かち合えば 傷は癒えるのだと信じてた きみの大嫌いが ぼくの大嫌い…

それ

それは ささいな思い込みと わずかなすれ違いから 生まれた 瞬きする間にも 噂のカケラがばらまかれ 過去は ほんの日常の愛らしい 出来事だったはずなのに 甘くて泣きそうになる 苦くて溺れそうになる 寒くて笑いだしそうになる