猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2015-01-01から1年間の記事一覧

胎内の蛇

蛇を飼っている どろどろの鉄に似た蛇を 胎内で飼いならしている たまにそいつは 狂喜乱舞して 何かをしめあげているようだ たまにそいつは 意気消沈して のたうちまわっているようだ 尋ねても答えはなく しゅうしゅうと呼吸音が響く どろどろの鉄に似た 蛇…

名前を呼んだ

水色の闇が ぬるりゆるりと 這い回り 月もあらかた消え果てて 名前を呼んだ 穿つように ただ 名前を呼んだ 黄緑色の星が そろりほろりと 這い回り 空もあらかた消え果てて 名前を呼んだ 確かめるように ただ 名前を呼んだ

雨の終わりを

雨の終わりを 確かめたくて 稲妻の押し黙る瞬間を 見たくて 冬の始まりに ふれたくて 北風にもたれかかる午後

金木犀が泣いた

秋に噛みつき ふかふか溶けた 秋はあふれて そよそよ泣いた 秋がこぼれて 色づくたびに 人知れず 金木犀が泣いた

いつかの初雪

壊れたハモニカみたいだ きみの話は そう言われるのが怖くて 押し黙る 歌えないカナリヤみたいだ きみの声は 笑われるのが怖くて 背を向ける 曇り空に爪を立てれば ほろほろ雪が舞う 北風が迎えにやってくる 寂しさを迎えにやってくる

なぞなぞ

分母がどんどんふくらんで 0にならずに始まって あたらしい年おめでとう なーんだ

午後溜まり

今日も足音が わたしの中をざくざく響く 心の襞を削りとるのは ほんのり淡く揺れる午後 波は穏やかで ソラはきらびやか なにもかもつまびらかで 光もいらぬほど真っ暗闇だ 今日も足音が わたしの中をざくざく響く 捲れていくのは心の襞に とろんと歪む水鏡 …

金魚

水面まであと少し ぱくぱくしながら 探す 誰かがこさえたものを われさきに手に入れようと 口元をぱくぱくしながら 探す 水面まであと少し ぱくぱくしながら 探す 誰かがこさえたものを 自分だけのものにしようと 口元をぱくぱくしながら 探す

冷たい夜に

冷たい夜の くちづけ散歩 カラカラ自転車よけながら 冷たい夜に くちづけ散歩 月も星もいなくなれ 冷たい夜は くちづけ散歩 響く鼓動の愛らしさ

猫になってまだ5分

猫になってまだ5分 細い木の枝桜色 ざらりと舐めても かりりと掻いても もわもわ背中が騒ぐだけ 猫になってまだ5分 青い夕ぐれ北の風 ふわりと跳ねても くねりと逃げても 瞳はどんどん丸くなる 猫になってまだ5分 あなたの隣でまだ5分

手紙

鍵をかけて 隠したつもりでも あなたにはすぐ見つかってしまうね だから 一番照れくさくて 一番大切な言葉をあなたにあげる お誕生日おめでとう そばにいてくれて ありがとう あなたが大好きです

揺られて流れて

ご乗車ありがとうございます 当列車は 途中下車も途中乗車も お客様の気の向くままでございます 個室もご用意してございます どうぞご存分に ご注意ください 車両は常に増えたり減ったりを 繰り返しております ご注意ください お客様の数も常に増えたり減っ…

泥濘に光を

指先へ澱んだ感情を 指先から泥濘を 遥かな影と すり抜けた光を やわらかな蔑みを 指先へ潤んだ心を 指先から泥濘を

街がすべてを

街が私を置き去りにした 息もできずに探しまわったのに あの人はどこへ行っただろう 街は私を忘れ去った 呼吸も忘れて探したのに あの人は覚えているだろうか 街が全てを連れ去った 忘れたくなかったのに あの人は幸せでいてくれるだろうか

雨がそれをみてた

雨が気まずそうに 肩を濡らす 去年より早く咲いた小さな花 きみはもういなくて 雨がそれをみてた 憂うつの帽子は ふたりでかぶればなんでもないよと きみは教えてくれた もういちど毛布みたいに きみの笑い声にくるまれたい 雨がなぐさめるようにリズムを刻…

ablution

月の光で からだを洗えば 流れ落ちる星のさざめき 風が息継ぎするまでに 涙も乾くことだろう 月の光を からだに纏えば すり抜けていく星のざわめき 時が息継ぎするまでに 傷も癒えることだろう

とろりとろりと光が替わりそろりそろりと雲がとける 月は後ろへ押しやられ誰もが夜を脱ぎ捨てる とろりとろりと夢から覚めてそろりそろりと風が吹く 星は後ろへ押しやられ誰もが夜を喪失する

春いろバス

遅れたバスは薄い春いろ紙袋を抱えたままで彼女はやってきた どうしても会いたくなったのどうしても 遅れたバスは薄い春いろ紙袋を抱えたままの君を乗せて走ってた どうしても猫になりたいのどうしても 薄い春いろしたバスは止まったままの時計のように黙っ…

初恋

舌の上で確かめたはずなのに伝えるときにはどうしてこんなにほろ苦いんだろう 舌の上で確かめたはずなのに伝えた瞬間どうして味がなくなるんだろう あなたにどうやって伝えよう感謝と小さなぬくもりとどうやって手渡そう

プロポーズ

1+1が0になるまで一緒にいることを誓います 1+1が0になるまで抱きしめ合うことを誓います 1+1が0になるまでいっぱい泣いていっぱい笑うことを誓います 1+1が0になるまで命を信じることを誓います

その日

あなたは大きな声で「はんたーい!反対っ!」と大勢で叫んだ あなたは小さな声で「いやだ…反対」とひとり呟いた その日が二度と来ないよう強く祈った

残りのどこか

半分は嘘半分は薄暗い半分は冷たく半分は忘却 残りのどこかにぬくもり

言葉と声

声はとても勇ましくその場所に流れていた 声はとても弱々しくその場所に潜んでいた 言葉は強くどこまでも拡散していく 言葉は微力でやがて心に浸透していく

日常

カレールーを買い忘れコーヒー豆を買い忘れビールを1缶買い忘れ女房グチまで言い忘れ 果てにふたりで大笑いさてさて今夜は何作ろ

stopper

空は 私の心につっかい棒をした 光は 私の体にとおせんぼをした 不条理なわめき声と 理不尽な怒りで 粉々にならないように

おわりのあとに

月の丸みが 風を乱せば 足あとひとつは 残るだろう 時の終わりが 星を乱せば 夢ひとつほどは 残るだろう

今日よりは

借り物のあたしになってあなたに会った 借り物のあたしになってあなたに恋した かりそめのあたしなら傷つくことも上手になれるかな 今日よりは

産声

心も体も 毎日産声をあげてるんだ どうして気づかなかったんだろう 空を見上げて少し笑った 君の背中で少し泣いた

出ておいで

夜が染み込んだ ソラに染み込んだ いびつな今日はもう終わった だから 出ておいで 泣き虫さんたち

朝は今でも

朝は今でも残酷なのだろうか 時の逆流はついぞなく 音をたてて終着に向かう 朝は今でも狡猾なのだろうか 時が止まることはついぞなく 夜が消えていく