猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

空が遠くなるほど宇宙は近くなって

空が遠くなるほど 宇宙は近くなって わたしたちの 透明な命が輝いている 風が急ぐほど 宇宙は近くなって わたしたちの 透明な命が歌を奏でる 季節が巡るごとに 宇宙は近くなって わたしたちの 透明な命も再び抱擁する

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-9

コーヒーメーカーが コポコポと音をたてています 毛糸屋さんの店主ときたら それはそれは猫舌で ふだんは冷たいお水が好きなのです だけど この島の短い夏が終わりかけの頃には お店の奥で 愛おしそうにコーヒー豆を選び まあるい手で用心深く コーヒーメー…

MAILER-DAEMON

ね アドレス交換しよう LINE好きじゃないんだって? 気があうよね メールのほうが落ち着いて書けるし 確実に届くし きみが起きてるかな、なんて いらぬ心配しなくてよいし だから メールここに送ってよ 末尾はLで そこにフリーメールのやつを 足せば間違いな…

ココア色した夜がきて

ココア色した 夜がきて うさぎたちはこぞって 風を磨きます ミントブルーのそらに ふさわしい キラキラの光になるように 夏のまぶしい風景に 少し翳りが見える頃 ほんの一瞬 空が明るく遠くなる うさぎたちはこぞって 風を磨きます ミントブルーのそらに ふ…

食パン

あなたが 気まぐれに買ってきた4枚切りの食パン 冷凍庫には作り置きのおかずが 詰まっていて あなたは気にせず わずかな隙間にパンを突っ込んだ わたしたちは そんな風に壊れ始めた とても静かに 週末になって なんとなくあのパンのことを 思った 美味しい…

蝉時雨

蝉時雨 傘に隠れるふたりかな

雨と三つ目

どす黒い雲が あたしらの住処まで流れこんでくる なんでも人が増えすぎ車が増えすぎ それで雲がもくもく立ち上がるらしい そんな日の雨からは やさしさも寂しさも感じることができず ただただ辛い 仕方ないので ひとつだけ目を開いておくことに するんだ 一…

ぼくらの養分

潜っているときは聞こえなかったこと 溺れているときは見えなかったこと 目にも耳にも心地よいことばかりでは ないのだけど ほんのり遠くに感じることが 案外真実で ぼくらの養分になる 混じり合っているときは気づかなかったこと 寄り添えば寄り添うほど消…

月と三つ目

砂をはらんだ 風が今日も 齧りかけの三日月をつつみこむ 星のはずれ 人里はなれた 小さな窪みがあたしらの住処 三つ目だからと ひっそり暮らす 三つ目でもいいじゃないかと お月さんは笑ってたから ふざけて齧ってやったんだ それでときたま いびつな三日月…

海の街

海の街は曇りがちで 人々はゆっくり歩いている 陽が高いのに ヒグラシもツクツクホーシも ざわざわ鳴いて 坂道を風が抜ける 小さなミュージアムの 恋猫に誘われ 海の街の人々を真似て ゆっくり歩いてみる 旅を忘れ 海の街を行く

風の存在

砂像が崩れて 頬をうった ああ 風が強くなってきた そのものは見えないのに わたしたちは風を知る 服の裾が揺れ 心が和んだ ああ 気持ちのいい風だ そのものは見えないけど わたしたちは確信する 葉ずれ迷い子 記憶のカケラ つなぎとめられることを嫌って ど…

今日は晴れ

八月二十日 今日は晴れ 猫になるには暑すぎる だから ふたりは会うのをやめた 八月二十日 今日は晴れ しんみりするには早すぎる だから ふたりは会うのをやめた 八月二十日 今日も晴れ 青空見てれば泣かずにすむ だから ふたりでいるのをやめた

胸の中の行列

一晩かけて選んだ言葉たちが 胸の中で行列を作ってた まずはこれ 次にこれ うーん やっぱりこれ そして それとそれをつなげて まとめてもいいけど ああとにかく 丁寧に手渡そう きみに会いに行こう だけどきみは いらないって たった一言 僕の心に投げつけた…

長期予報

涙を積めば 哀しみは少し遠くへ 心を重ねれば 虚ろさも少しとろけて 体を合わせれば 少しは傷も癒えることでしょう

無頓着に

無頓着にひらいた視界の なんとも無防備なこと 呆れるほど無気力な それでいて 誰かを打ちのめした 夢のあと味 無頓着にひらけた空の なんとも無防備なこと 呆れるほど恩知らずな それでいて 誰かの涙を吸った 移ろい花の色味 無頓着にねころぶ二人の なんと…

こわれた空から

こわれた空から雨が流れおちて あたしのいい人も あのこの車も みんなみんな連れてった こわれた空から雨がふりそそいで 山も家も みんなみんな隠れていった こわれた空はあっけらかんと 今日も明日も焦げつく予報 星と同じく青を見せつけ 今日も明日も輝く…

Self-portrait

こんな風に笑うの こんな風にしかめっ面なの こんな風に泣いて こんな風に怒るんだ そらしたいけど 許さない つぶりたいけど 叶わない 容赦なく あたしをあたしは睨みつけ かき回したように 醜く歪む こんな風に愚かなの こんな風に残酷なの こんな風に立ち…

晩夏

夏が行く頃 ようやく気づくのです もっとこうすれば もっとこうだったら もしもあのとき まるで バラバラと花火が散るようだと 気づくのです たくさんのおとしもの たくさんの探しもの だけど誰のせいでもないことに 運悪く 気づかなかっただけなのです 花火…

あの日だってそれなりに暑かったはずなのに

あの日だって それなりに暑かったはずなのに ツクツクボウシが鳴いてたって 暑すぎると空を睨む 街がまるごと消えたって たくさん人が消えたって 蝉も鳥も犬も猫もネズミも 消えたんだって その日あたしは確かに聞いた 遠くの街の不思議なうわさ あの日は た…

空の記憶

空はまだ 笑顔と苦悶を同時に吐き出す 口元を見つめているだろうか 空はまだ 安堵と苦痛を同時に訴える 瞳を覚えているだろうか 記録には 何がどこでいつ誰と そんなことが記されて 八月の空にべっとり貼りついた どす黒い血の色など とうに かやのそとだ 空…

断罪

使い分けることなんて たいした罪じゃないと 思ってた ほんとの名前なんか知らなくたって 例えば親身になってくれたり 心から健闘を祈ったり そんな話は割と身近に転がっていて 言葉だけじゃないものを 交換しあってた つまり ほんとの名前なんか知らなくた…

通学電車

つり革のリズムが急に乱れて 世界は粉々になりそう メールも会話も あたしたちそんなに得意じゃないし だけど 手紙書いたことって まだなかったよね 今日は思いきって 手紙を渡すと決めたから 乗り換えのあの駅で つり革のリズムは急に乱れて 呼吸がバラバラ…

今日も歩いているのです

おなかの中で 思い出があくびしています 幸せなあったかい あくびです 明日と昨日が ゆっくりのんびり揺れています 幸せな夢の 振り子です 嬉しいこと 悲しいこと 静かに静かにうちよせて わたしたちは今日も 歩いているのです

くいしんぼ

わたしはとても くいしんぼ どうしようもないほど いやしんぼ どんなに食べても いっぱいになりません おいしくて幸せで だから ひとりじめなんてできないよ たらふく食べても いっぱいになりません おいしくて嬉しくて だから ひとりじめなんてできないよ …

あなたは朝を見つけた 何曜日だろう 何番目の月だろう そんなことを悩むかわりに あなたは朝を見つけた 何曜日だろう 何番目の季節だろう そんなことで悩むかわりに あなたが朝を見つけた あなたの朝を見つけた

秋風月の

秋風月の まだ見ぬ風を うさぎたちが探しています ひなたは焦げそう ひかげはほっとする せみたちが一瞬だまりこんだら 涼しい流れがひととき 空を覆うのです 秋風月の まだ見ぬ風を うさぎたちは集めてまわるのです だれの上にも きちんと季節がめぐるよう…

蝉は白く空は青く きみの名が風に散る 風鈴は揺れ雲は遠く きみの名が雨を彩る いつだって憧れは さびしさと隣り合わせ 夏がくるたび思い知らされて ぼくは涙すら流せずにいる 蝉は白く雲は遠く 心は揺れ きみの名を呼ぶ夏

あたしを裸にするもの

気まぐれな風でなく 無情な夏の陽でもなく 湯あみのくつろぎでもなく 旅の開放感でもなく 酒の酔いでもなく あなたの指ですらなく 燃やし尽くすような 嫉妬だったのです おかげで すっかりむき出しに なってしまいました こんなに傷だらけで 汚れてしまって …

美辞麗句

貯めておけばいいのよ そして ここぞという時に 使うの 体と心の接する 自分の感情と少し離れた場所に 小箱を作っておいて そこに貯めるだけ てらてらと飾り立てただけの 単語を 簡単でしょ 貯めておけばいいの そして ここぞという時に 使うの 愛を 見せび…

しなやかに渡れば

しなやかに渡れば 怖くはない しなやかに語れば 怖くはない しなやかに踊れば 悲しくはない しなやかに遊べば 涙も乾く しなやかに立ち止まり しなやかに進む しなやかに傷つき しなやかに喜ぶ