猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

烈夏の噂〜トーザ・カロットの人々

地に這う蝉も 彼らを弄ぶ猫らも かき消す陽光 手持ち無沙汰に爪弾くスマホも いまは黒々と落ちてしまった 夕涼みは今や秋の季語だと 子どもらに教える日がくると同時に 夏はいつしか懐かしすぎる言葉へ 昇華する もっとも かの青い星はそれを待ってはくれな…

猫と私#2

暑い日は抱っこは嫌よ でもちょっとだけのせてね 暑い日はなでなでもほどほどに でも耳の後ろは嬉しいよ 暑い日は会いたくないの でも足音聞きたいから 待ってるね

何人かがためらい 何人かがあきらめ 何人かは用心深く 何人かはかけ声とともに 何人かは迷いながら 何人かは何気なく 何人かが誰かを想って 扉をたたいた

猫と私#1

やわらかな はちみつ色の毛玉触れ 光と風をふたり分け合う

前兆

ざわざわと駆け抜けたのは どこか遠くの街の そのまた奥の片隅の いわゆる“ありふれた” または“とるにたらない” 普段なら誰も何とも思わないような ささやかな出来事でした 空がほんの一瞬だけ 「ぴかぴか」 ことのほか青く光りました あまりにもささやかす…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜あの日手放したのは#3

トーザ・カロットの岬に 大粒の涙みたいな雨が降っています こんな日は窪みに住む幼なじみが ひょっこり顔を見せるのですが “そろそろ冷凍庫を整えないといけなくてねぇ” そんな連絡をもらったばかり 午前中は雨よけの服に包まれたお客さまがひとり カーディ…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜あの日手放したのは#2

“あの日手放したのは”をすっかり並べ終わって お客さまもすっかりいなくなって お店の奥ではバニラのようなコーヒーのような ほろ苦い香りが漂っています 猫そっくりの店主はアイスミルク 雲予報士の卵は濃いコーヒー 彼女はよく覚えてないようですが ほんの…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜あの日手放したのは#1

“あの日手放したのは ” 宇宙語を話す猫から仕入れた それは美しい空色の毛糸の名です お客さまも毛糸玉も 今日はなんだかとってもたくさんなので 猫そっくりの店主は お店の中でいつもより早歩きしておりました そこへ久しぶりに元見習いが顔を見せたので 彼…

ぼくと妻#3〜トーザ・カロットの人々

窪みでの生活を 不幸だとも悲しいとも思わなかったが 二つ足の猫と恋に落ちたものだから やっぱり そのままそこで暮らすのは難しかった 仲間はさびしがっていたが 雨の日に毛糸屋で会う楽しみができたと 快く送り出してくれた 窪みを捨て “そうさねえ”の口癖…

雨が降りました

雨が降りました もういいよって 誰かが言いました 空が剥がれてそのまま落ちてくるようで もういやだ 誰もが思いました 雨が降りました もういいよって 誰かが言いました 忘れたいことも忘れたくないことも あっけなく消えていくようで もうやめて 誰もが願…

手の中の幸せごと

手の中の幸せごとは そんなに多くなくてもよいのだと 二度と会えなくなってから 初めて知ったのです 苦しさでいい 悲しさでいい さびしさでいい 何かで心を満たしていれば すっかり強くなれると 信じていたのです 手の中の幸せごとは そんなに多くなくてもよ…

孫〜トーザ・カロットの人々

きみのおかげで 孫は雲予報士としてしっかり歩いている 毛糸はすぐにもつれさせてしまっていたが 気象ごとには昔から興味を持っている子だった 学校が終わったあと いつの間にか遊びにくるようになって そのうち 親といるよりも居心地がいい なんて言い出し…

おじいちゃんが教えてくれたこと〜トーザ・カロットの人々

丈夫なふくらはぎと 動じない心を持っていなさい そして 空の言葉を聞きなさい 手放すことを 必要以上に怖がらなければ 道は拓ける 三つ目だからと 二つ目だからと 決めつけるのは意味がないこと 旅をしない猫(毛糸屋の店主のような)に出会っても 窪みを捨…

飲み込む

いま 飲み込んでしまった単語 それはそれでよかったんだ 誰も傷つけずに済んだから いま 飲み込んでしまった思い 一度は沈んでいっても 何かの拍子に浮き上がり 誰かを傷つけるだろうか いま 小さく吐き出した毒 これ以上濃くなる前に 自分で濾過できるうち…

ぼくと妻#2〜トーザ・カロットの人々

妻が 旅猫の種族の中でも とびきりの歌い猫だったことは 聞いているだろう 窪みにいる頃は猫が歌うなんて 信じちゃいなかったがね 妻から教えてもらった歌は 今思うと 生きる星を選べない者にとっては 不吉な言霊が並ぶものばかりで 妻は どこでも楽しげに歌…

自分の中に風があると知ったのは 息を吹き込むことで 美しく鳴るという楽器を 習い始めてからのこと 息を整えても 用心深く舌でつかまえても 心乱れる日は 自分の中の風を使いこなせない 吹き込んだつもりでも楽器からこぼれ続ける風 先生は苦笑混じりに “あ…

息苦しいほどの雨

息苦しいほどの雨に閉ざされ 駅も人も泣いていた 約束もさびしさも どうしてクーポンのように 使いこなせないのだろう 導き出せるほど賢くはなく 願えるほどやさしくもなく ひたすらに苦い喉の奥で 声なく叫ぶ 息苦しいほどの雨に打たれ 駅も人も泣いていた

空は誰の真似もしない

空は誰の真似もしない 初めのときから終わりのときまで canvasにみたてられ 不吉の種とされ 心奪う美しさをたたえ 怒りも 喜びも 底知れぬ孤独も わたしたちはそこに見えると浅はかに信じて 何もかもをぶつけるのだ 空は誰の真似もしない 初めのときから終わ…

ぼくと妻#1〜トーザ・カロットの人々

妻と出会ったのは ぼくが窪みを捨てる決心をした次の日だった 星のはずれに きみによく似た働き者の猫が営むカフェがあってね ぼくのようなはぐれものでも 一向に気にもとめない 猫そっくりの店主なのさ そのカフェで “緋色のコーヒーをひとつくださいな” 洒…

ぼくとミケ〜トーザ・カロットの人々

ミケのことは君も知っているね 言葉をよくよく解する猫で 孫がまだほんのおチビだった頃から懐いている 初めて出会った頃と変わらないミケのことを あの子は不思議ともなんとも思ってないようだが そんな動じない心持ちというのも 雲予報士には確かに向いて…

ぼくと月〜トーザ・カロットの人々

寄り添った月たちを見ていると ぼくのことを 孫にはどう説明したものか いつも迷うんだよ 満ち欠けではない気象ごと そんなことを記した古い文献はそうはない 雪だるまの満月が青く見える人間だって そうはいない まさか 自分の孫が雲予報士の 資質を持ちあ…

なくす

あなたを見つけたとき 幸せすぎて 言葉をなくしました あなたの声を聞いたとき 嬉しすぎて 我をなくしました あなたが指に触れたとき 怖くなって 心をなくしました 幸せすぎて 思い出も消えていきました

覚悟

とうの昔にわかっていました 道連れにしたんです 裏切られないように 置いてきぼりにならないように 例えば 思い過ごしでも よくよくわかっていました 道連れにしたんです ほかでもない自分自身のことを

自己紹介#2(仮)

“普通ってなんだよ” たまにそんなことをぼやきながら 日々を歩く少年でした 目立てばたたかれる 黙っていればたたみかけられる 世の中は不条理の嵐で だけど それに磨かれたり鍛えられたりも したのでした いっぱしの大人になって確信しました 多分 ぼくは自…

緋色のアイスコーヒー#2

ごゆっくり 猫そっくりの店主は やさしい声の持ち主の前にアイスコーヒーを置くと 店の奥に消えた 何も尋ねず 何も言わず ただ 同族だけにわかる何かをやりとりして あなたは今もミケと暮らしているのでしょう 思わず店の奥を振り返ったが 店主は僕らを気遣…

きみに届かないのなら

伸ばしかけては なんども結わえた 髪も指先もいっそのこと 迷いがちなら 切りそろえればと あたしの中で聴こえた 伸ばしかけても なんどか結わえて 髪も指先もいっそのこと 届かないなら 切りそろえればと あたしの中で聴こえた

あした

それでも信じたい それでもすがりたい それでも好きでいたい 流れるものを止める手だても こぼれるものを拭うチャンスも ないのだとしても それでも信じたい それでもすがりたい それでも好きでいたい あしたを。

宣告

靴にむりやり自分を押し込み 偽りの涙と笑みで街を歩く 剥がれ落ちる空も心もそのままに ただ 雨だけを思った 服にむりやりくるまれて 薄づきのシャドウとネイルで武装する 降りしきる空も心もそのままに ただ きみだけを思った 風にやさしくいだかれて 明日…

空も裏切ることがあるのに

空も裏切ることがあるのに 大人はどうして「杞憂」なんて言葉を 作ったのでしょう 空が落ちる日まで この誓いが破られることはない したり顔で言うのでしょう 空はいつか落ちるもの 大人は知らないだけ 猫が旅をするように 空だっていつか落ちるんだよ ずー…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜開店前

今日は朝から土砂降りです しっかりした雨よけの服に身を包み おじいちゃんにもらった頑丈な傘をさして 毛糸屋さんを目指します お店に着くと 少しひんやりした朝だからと 開店前に店主がとっておきの豆で コーヒーを淹れてくれました やっぱりカフェだか毛…