猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜あの日手放したのは#1

“あの日手放したのは ”

宇宙語を話す猫から仕入れた

それは美しい空色の毛糸の名です

お客さまも毛糸玉も

今日はなんだかとってもたくさんなので

猫そっくりの店主は

お店の中でいつもより早歩きしておりました


そこへ久しぶりに元見習いが顔を見せたので

彼女に店番を手伝ってもらうことにしました

「ふっわわ〜」と歌い続ける

大量の青い玉たちをなだめながら

まあるい手でだいじにだいじに

棚に並べているところです


トーザ・カロット岬の毛糸屋さんでは

お店に並べる毛糸玉たちに

“kanade”を染み込ませているので

何かの拍子に歌声や鈴の音が

かすかに聴こえるのだとか


“猫が空を落とす”という不吉な慣用句を

猫そっくりの店主が知らないはずはないのですけど

自分がもともとは旅猫であることも

二本足でいることも

実はカフェなんぞやってみたいと思っていることも

ひけらかしもせず

隠しもせず

淡々と毛糸屋さんを営んでいます


“あの日手放したのは”をようやく棚に並べ終わった頃

お客さまもぴたり!と途絶えました


少し休憩にしましょう


どちらからともなく

そんな話になって


猫そっくりの店主はとてつもなく猫舌なので

アイスミルクをさらによくよく凍らせたキューブ

元見習いの彼女は持参の濃いコーヒー

店主がいつかのように

凍ったキューブをぽちゃんぽちゃんと

カップに入れてくれました


トーザ・カロット岬には

今日もびゅうびゅうと

楽しげに歌うような力強い風が吹いているのです