猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

店主

かちんかちんの店に珍しく鍵がかかっています

空がひとかけ落っこちそうだと

雲予報士がラジオで言っていたので

安全のため店主が鍵をかけたのです

そして

空が大丈夫そうだとわかると

窓を大きく開けて

森の香りと夕焼けの香りから作ったお香を

店の中で

もくもくもく!と焚きました

 

さて

“人よけ”も済んだし

念入りに掃除でもしようかねえ

 

店主は窪みからえっちらおっちら運んできた雲の中に

ぐい!

冷凍庫を押し込むと

ほこりで目が痛くなっても大丈夫なように

三つある目をかわりばんこに

閉じたり開いたりしながら

大掃除を始めました

 

誰かに見られたら?

 

だいじょうぶ

“人よけ”をほどこしたので

やってくるのはきっと

風磨きのうさぎや

星を渡る猫ぐらいでしょう

 

牛がいなくなり

犬がいなくなり

鳥がいなくなり

人がいなくなり

猫だけになる…

 

窓を拭きながら

幼なじみの猫に教わった

素っ頓狂な歌を口ずさむと

岬のある方向の空に何かがきらり!と

光るのが見えました

 

旅猫が空を落としてるわけじゃ

ないんだがねえ

さて

明日には店を開けることにしようかね

 

冷凍庫も雲の中ですっかり充電が終わりました

あちらこちらを拭きあげ

消毒もして

人が使いやすいように冷凍庫の中を整え

もくもくもく!と焚いていたお香を片付け

残り火がないか

残り香がないか

よくよくたしかめてから

店主は窪みから持ってきた荷物をまとめて

 

そうさねえ

 

と呟くと

頑丈そうな傘を久しぶりにさしました

そして

えっちらおっちら窪みまで帰って行くのでした