猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-22

トーザ・カロットにあたたかな雨の季節がやってきました

岬のほうに出かける日に

雨よけいるかな?

と迷うほどの

霧のようにやさしい雨が人々の心をみたしていきます


“灰色こぐまの不安な夢”をひとつください


小さな女の子が

雨よけの服に身を包みお店を訪れました


いらっしゃいませ

不安な夢?えーとえーと

どこだどこだ


一番右の棚の下から三番目

あわてずに


猫そっくりの店主は

お客様に見えないように

しっぽをちょっとだけゆらゆらさせて

教えてくれました


本当はコースターの編み目がすっかり不揃いになったので

店主に習うつもりで岬まできたのですけど


お客さんが少ない日だからちょうどいい

何事も勉強


と促され

猫そっくりの店主と一緒に店番をしているのでした


言われた通りの棚に

抱きしめたくなるような

大ぶりの毛糸玉がゴロンとありました


そーっと持ち上げると

「ふわわ〜」とあくびのような歌声がして

すぐに聴こえなくなりました


丁寧に紙の袋に毛糸を落ち着かせると

女の子が持ち運びやすいように

覚えたてほやほやのラッピングをして


ありがとうございました

お気をつけて


と女の子に袋を手渡しました


おねえさん

店主さん

ありがとう


女の子はぺこりとお辞儀をすると

紙袋を大事そうに抱えて帰っていきました


小さなお客様がすっかり見えなくなってから


どうして不安な夢という名前なのか

知りたいですか


猫そっくりの店主がそう言いました


それは…


口ごもっていると


では

きみが見習いではなくなった時に

話しましょう

休憩時間ですね

コーヒーとよく冷えたお水を

用意してくれますか


猫そっくりの店主は

楽しそうにしっぽをふくらませました


やがて

お店の奥から氷を割る音と

コポコポという心地よい音が聞こえてきました


トーザ・カロットの岬には

今日もびゅうびゅうと

不安を連れ去るような強い風が吹いているのです