猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん-20

お店に新しく並べる毛糸玉に

“kanade”を定着させる日がやってきました

 

トーザ・カロット岬の風にあてたり

雪に浸したり

話しかけたり

 

そんなことを繰り返すうちに

毛糸たちは月の光のように輝き始めます

そのままにしておくと

調子はずれな歌を奏でるものが出てくるので

猫そっくりの店主も

はじめの頃はとても大変だったのだとか

 

今日は風のあたらない岩場にやってきました

お店からかついできた大きな大きな布包みには

毛糸玉たちがすっかりお利口さんになって

とろりとろりと夢見ています

 

日当たりのよい場所を見つけて

店主はそっと布を広げました

形のよい石で布を押さえ

毛糸玉たちに声をかけると

本物の猫がするように

布の上で香箱座りになりました

 

岩場はぽかぽかしていて

猫そっくりの店主と毛糸玉たちは

うつらうつらしながら

同じ夢を楽しんでいるのでした

 

夕方近くになって

岩場にもほんの少し風が入ってきました

猫そっくりの店主は立ち上がると

毛糸玉たちがびっくりしないように

大きな大きな布包みを

まあるい手でもう一度ととのえて

軽々と背負いました

 

そして

慣れた足どりで岩場をスタスタ

自分のお店に戻っていきました

 

トーザ・カロットの岬には

もしかしたら今日あたり

気まぐれな花びらが届いているかもしれません