猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

ひとつ

トーザ・カロットの岬に

不思議な毛糸玉の並ぶお店があります

猫そっくりの店主が

まあるい手でていねいに触れれば

ふわふわふわ〜とやさしく歌う

そんな毛糸たちです

 

毛糸屋さんは気まぐれに

小さな小さなワークショップを開きます

もともとは

編み物がこんがらがる人のための

教室みたいなものでしたが

いつの間にかこんなことになったのです

 

一人でいたい?もちろん大歓迎!

お昼寝したい?少し賑やかだけどどうぞどうぞ

飲み物は熱いのでも冷たいのでも好きなだけ

 

編み物してもいいし

原稿書いてもいいし

(詩人屋さんは常連中の常連なの)

 

無理におしゃべりしなくても

無理に口をつぐまなくても

シクシク泣きたくなったらハグを

うふふと笑いたくなったらハイタッチ!

 

おひらきは

日没の少し前あたり

時計を気にしなくてもいいように

 

そうそう

なんでもありのワークショップだけど

ひとつだけ“お初”を見つけて帰ってね

 

きっと幸せの種になるから…

 

森のはずれで

ワークショップのことを教えてくれた

鍵しっぽの猫は上手にウインクすると

またね、と笑って

どこかに行ってしまいました

 

空が壊れたような雨が降る星が

他にもあるのだろうか、なんて

堂々巡りが止まらなくなった

ある日の出来事です

 

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん: 猫そっくりの毛糸屋さんと彼をとりまく人々の物語 (MyISBN - デザインエッグ社)