猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

心を診る猫の医者-13

ドロドロでベタベタで

弱っちくてずるいんです

それが本当に本当の

自分の芯にある

いっそ

体から心を全て切りとって

ゴシゴシ洗いたい

 

だけど

誰に話しても

 

人はみんなそんなもの

だの

考えすぎだよ

莫迦だねえ

だの

 

真面目に受けとってくれる

人間はいない

 

いっそ

人でないのなら

それでここに来たのです

 

心を診る猫の医者は

くたびれ顔でやってきた

その人の話を

じっと

聞いておりました

 

そして

ハーブティと紅茶とコーヒー

あったかいの

冷たいの

どれがよいかと

やさしく尋ね

 

ふたりして

ほんのり甘いアイスティを

いただきました

 

蒸し暑い午後でしたので

体も心も

ふわっとほどけるようでした

 

くたびれ顔のその人は

ほんのちょっと

安堵した表情になりました

 

「猫も同じです」

 

心を診る猫の医者は

口を開きました

 

「人らの心を惑わすために

この仕事をしていると

たかが猫のくせにと

言われることが

ないわけではないのです」

 

心を診る猫の医者は

なんでもないことのように

微笑みました

 

「いっそのこと本当に

人らの心を惑わす言霊でも

入念に編んでみようか

そんな風に黒い黒い考えが浮かぶことも

昔はあったのですよ」

 

アイスティーのグラスを

もふもふの手でそっと

テーブルに置くと

 

「猫も同じです

ドロドロでベタベタで

弱っちくてずるい

自分がちっぽけな仔猫に

戻ってしまったような

心細さを感じる

そんな日もあります」

 

だから

心を診ることを続けているのかも

しれませんねえ…

 

心を診る猫の医者は

「お大事に」のかわりに

にゃぁぁぁん

と鳴きました

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イラスト:いとうのりこ さん(イラストACにて公開中の作品)