猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

心を診る猫の医者-14(休診日)

ある日

言葉を探すのにも

歌を紡ぐのにもほとほと疲れて

心を診る猫の医者のもとを

訪ねた

 

人の姿をしていない友人たちの中で

人のために医者をやってる奴は

彼ぐらいではなかろうか

 

それはともかく

友人に診察してもらうというのも

公私混同しているようで

美味しいお茶菓子を口実に

休診の日を狙って

図々しく押しかけたのだった

 

悲しいことが

雨と一緒に降ってくるようだねえ

それでも

こうして話し相手がいるのは

なんと幸せなことか

来てくれてありがとう

 

押しかけたのはこちらなのに

猫の姿の友人は

いつもやさしい

 

そして

こちらがお茶を飲んで

少しほぐれたところでさりげなく

 

小さなやっかいな荷物は

たまに悪さをして

心を疲弊させることがあってね

 

そうきりだした

 

例えばこうだ

「たいしたことない」

「些細なことなんだ」

「誰かに比べればとるに足らない」

「自分に強さが足りないだけ」

 

飲み込んで抱え込んで思い込んで…?

 

そういう例もある

だから

こうして美味しいお菓子を

きみと食す時間は

なんでもないけれど

わたしにとっても

かけがえのない時間だ

嬉しいよ

 

いつもなら

新作を見せろだの

続きはどうなんだと

軽口を叩く友人は

珍しく

僕の編みかけの言葉たちについて

尋ねようとはしなかった

 

お茶のおかわりはいかがかな

宇宙猫から

とっておきのコーヒー豆を

届けてもらったばかりだ

 

宇宙猫が飲むコーヒーか

それは苦そうだな

 

ほろ苦い程度だ

人生と同じぐらいにね

 

心を診る猫の医者はそう言うと

満足げにゴロゴロゴロと

喉を鳴らすのだった

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イラスト:いとうのりこ さん(イラストACにて公開中の作品)