降るはずのない
雨が香る
慌てて探ったバッグの底に
黄緑色の小さな折り畳み傘
流行にもゴシップにも
興味のなかった君の
数少ないお気に入り
忘れてるぐらいの重みが
あたしを楽にする
そんなこと言ってたっけな
傘にもなれず
恋人にもなれず
旅すらしなかった
忘れてるぐらいの関係が
あたしを支えてくれるの
一度だけ甘えた顔を見せた
降るはずのない
雨が香り
閉じた睫毛を濡らしていく
イラスト:いとうのりこ さん(イラストACにて公開中の作品)