猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜店主、旅に出る-6「浮かぶ海」

ざぁ

ざざぁ

ざぁ

ざざぁ

 

うすぼんやりした光の中に

海が見えてきました

 

まるで

低くたれこめた雲のように

海そのものが中空に浮かんでいるのです

 

猫そっくりの毛糸屋の店主は

波が寄せては返すのを

しばらく見上げていました

 

そして

旅行鞄から大きめの布をとりだすと

 

岬で毛糸屋を営んでいるものです

音霊を少しだけ分けてください

 

初めてここを訪れた時と同じように

心の中で呟きました

 

ざぁ

ざざぁ

ざぁ

ざざぁ

 

大きめの布に

ほんの少し波しぶきがかかりました

毛糸玉を作るにはじゅうぶんすぎるほどの

音霊でした

 

猫そっくりの毛糸屋の店主は

紫色の海に向かって

深く感謝をすると

まあるい手でていねいに布を包み

旅行鞄にそっとしまいこみました

 

そして

明るくなりすぎないうちに

宿屋へ帰って行ったのでした

 

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