猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜店主、旅に出る-5「花屋フリュ」

毛糸屋さんのいない街では

みかんの香りと森の香りが

ほどよく風に紛れこんでいます

 

猫そっくりの毛糸屋さんは

旅行鞄を持ち直すと

さっき風磨きのうさぎに

拾ってもらった襟元のブローチを

よくよく確かめ

なじみの花屋へ向かいました

 

リサラヌアという透明な花を

教えてくれた花屋の店長は

 

「そろそろお見えになる頃だと思ってましたよ」

 

そう言って

懐かしそうに瞳を細めました

 

ずっと昔

名のない店だったのを

フリュ(満潮)と命名したのは

ほかならぬ毛糸屋の店主

旅の始まりと終わりが交錯する

不思議な満足感が満ちていたからなのです

 

フリュの店長は

くるんと巻いたしっぽを動かすと

本当の猫のように

顔を洗う仕草をしました

 

すると店内に

緑色に染まった

とてもいい香りの風が流れてきました

 

猫そっくりの毛糸屋の店主は

この風と黄色のリサラヌアの花を

包んでもらうことにしました

 

「旅が終わる頃またお立ち寄りください」

 

フリュの店長は続けて

 

「音霊はここから猫の足で10分の場所に」

 

とウインクしました

 

月が雲に隠れないうちに

行ってみることにしましょう

毛糸屋さんはフリュの店長にお礼を言うと

お店を後にして

スタスタ歩いて行きました

 

寒くもなく

暖かすぎない

とても素敵な夜明けでした