猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

asylum

四年前と同じ女が

だるそうにチケットをもぎっている


“入口は隣のビルになります”


ずぶ濡れの僕を見ようともせず

劇場のサービスカードと半券が

決まり文句と同時に

光の速さで戻ってくる


女が愛用しているのか

一度だけ試した葉巻の香りがした

四年前と違っていたのは

それぐらいか


不条理と暴力と映画愛にあふれた

あの作品は

どうしても電車を乗り継がないと

観ることが叶わない


大雨になれば仕事にならないので

これ幸いと久しぶりの路線に

飛び乗ったのだ


二時間を長いと思わなかったが

余韻を抱え暗がりから出れば

非現実的な青空で

それでも僕はやっと息をつき

隠れ処をあとにした