猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

やりすぎ注意

昔、占いに人生を捧げているような知り合いがいた。 月初め・年初めには著名な星占い師の著書を買い求め、血液型うらないを頑なに信じこみ、新聞の占い欄にくまなく目を通し、手相占いにも足しげく通う。 どうせ、悪い運は星のせい。 だって、〇〇座だから。…

食い荒らされた心の穴

食い荒らされた心の穴を モノで埋(うず)め始めた 初めは砂粒のようなピアス きみは「化粧を変えたの?耳元がキレイ」と 笑ってくれて 穴はすぐに塞がった 次に小さいけれど ほんとのダイヤのペンダント ハイヒールを履いた日にすまし顔でつけてみた きみは…

いつか並行世界で-2

いつか並行世界を生き抜いたあげく 微塵にされるのなら dare にも知らせないでおこう いつか並行世界を生き抜いたあげく 夢も奪われるのなら dare かの愛を少しだけ信じてみよう いつか並行世界を生き抜いたあげく 喰われるのなら それはあなたがいい ほかの…

西日

西日に侵食され始めて 悲しいような夢見るような 心持ちになる 夏はめぐるはずなのに あなたに会える苦痛が消えない 春は去るはずなのに あなたと過ごした空白がうまらない 西日に侵食され始めて さびしいような覗き込むような 心持ちになる 時が滴り落ちる…

寒がりなあなた

日の出前はとても寒くなるから 上着を忘れないで 寒がりなあなたはいつも そう言って送り出してくれる 早起きは一体どれくらい得なのだろう 今となっては日常でしかないから てくてく歩きながらそんなことを考える 日の出はどんどん早くなり 命もますます駆…

寝床

もぐりこんだ寝床は あ、と声が出るほど温もりがなかった そうか今日からひとりだった 送り届けもせず 見送られるのも苦手で だから なんとなく片手を上げただけで終わっていった もぐりこんだ寝床は あ、と声が出るほど温もりがなかった やっと今日から自分…

具沢山のスープ

読書家のパートナーと数年暮らした。 どちらからともなく、具沢山のスープを鍋いっぱいに仕込む。 あるときからそんな習慣ができた。 スープができるまでの間、それぞれ好きな本に没頭するか、他にやりたいことがあれば同じく没頭する。 スロークッカーを覚…

歌い慣れたメロディを通い慣れた道の途中で

唇が喜ぶまで あなたの名をつぶやく 歌い慣れたメロディを 通い慣れた道の途中で 腕が懐かしむまで あなたの背に手を回す 歌いそびれたメロディと 歩き疲れた桜並木で ランキング参加中詩

息ができなくなったとき

息ができなくなったとき あなたの手を握っていたかった 喉が塞がったとき あなたの背中にしがみついていたかった 言葉を失ったとき あなたを抱きしめていたかった あなたを忘れかけた今 あなたの鼓動が蘇る ランキング参加中詩

桜を知らない人の手

その春 桜のない土地にいて 桜を知らない人といた その春 桜は蕾のままだったらしいよと 桜のない土地の人から聞いた その春 桜は枯れたんだってと 桜を知らない人が嘆いた 桜のない土地で わたしは桜に焦がれる 桜を知らない人と手をつなぎ 美しいんだよ、…

彼とあたし

彼は年上だった。 10歳を越えてなお、仔猫のように甘えた。 彼は年上だった。 あたしよりあとに生をうけたのに。 彼は年上だった。 あたしの膝が大好きで、遠慮がちに見上げては短く鳴いた。 彼は年上だった。 深い緑の瞳でじっとこちらを見ていた。 ランキ…

ふたりの春

歪んだ風が春を呼ぶのは 重ねた愛が崩れるから 軋んだ手首が持ち上げるのは きみのつぶしたクリームいちご 荒んだ部屋をふんわり染めて ふたりはふたりにモドラナイ

蒸し餃子

餃子を買って帰ろう コロッケでも唐揚げでもなく あの店の美味しい蒸し餃子を 買って帰ろう きみはバレンタインデーも知らぬげに そう言ってニコニコした スイーツは苦手で辛うじてミントキャンディを カリカリ砕く そんな二人には似合ってたかな 餃子を買っ…

あなたのことが

隠したかったのは 決して顔ではありませんでした 猫であることや言葉を話すことなど わたしはたいして気にしなかった 隠したかったのは 決してそんな物語ではありませんでした あなたのことがほの疎ましく あなたのことがほの羨ましく あなたとのことがほの…

春を待つふたり

だしぬくより だしぬかれるほうが圧倒的日常だから 単語の存在すら忘れていた 思い出したのはきっと 3日ぶりに雪が止んだせいだ 恋のせいじゃない だからきみのせいじゃない ライバルを思い浮かべてブツクサ言うのは 飽き飽きだもの だしぬくより だしぬか…

とっくに滅びた言葉で

息を殺せば愛は死ぬよと 黙り込んだあたしに告げた だったらなんと伝えよう つまらない言葉でもとっくに滅びた言葉でも きみにあげればよかったと 愛を殺せば心は消えると 言葉を探すあたしに告げた だったらなんと伝えよう つまらない物語でもとっくに滅び…

壊れていく人

あなたが壊れてわたしを忘れたのは あなたにとっては幸いな出来事です ああそれとも壊れたことにしておけば どちらも傷つかない なんて思いやりたっぷりな身勝手さなのでしょう あなたが壊れてわたしを忘れたのは わたしにとっては幸いな出来事です ああそれ…

趣味

昔の男は、歯磨きが趣味だった。 外国製のフロスや当時まだ珍しかった糸ようじを仕入れてきては、これで歯医者とは縁切りだ、などとほくそ笑むのが常であった。 結局は、やりすぎ、磨きすぎだとかかりつけ医に叱られるのがオチなのだが。 うまくいかなくなっ…

お互い様だよ

閉じられている場所での 振る舞いが 本質を顕にする どんなに隠したところで 選ぶ単語や文の端々に それらはどっかり横たわる お互い様だって 悪友が意地悪く笑う やっぱり、と笑顔を返しておきつつ ふたつの名を使い分けてるくせに そんなことを胸の奥の扉…

tarte

4つの名があり使い分けている 友が胸はりそんなことを言う 3つじゃないのか?ばかだねえ、 みんなとっくに知ってるじゃないか いやいやこれからつけようではないか、とね 友はタルト生地が柔らかくなりすぎたとぼやきつつ 古風な物言いをする それは恐れ入っ…

だから、会うつもりもなかった。

話を聞いてほしいわけではなかった。 だから、会うつもりもなかった。 情けなさでよれよれになった心もちを、どうにかすっきりさせたかった。 ただ、そうしたかった。ひたすらに。 LINEしてみる。ブロックはされてない。 そういうことすら無頓着な人だから、…

もっと。

冬休みは、 すりおろした生姜と柚子の香りで始まるのがお約束 風邪をひくかお腹を壊すかして寝込むことが多かったからだ たまに葛湯を飲みたくなるのは、 身体に染み付いたそんな記憶のせいだろう 大人になって。 こんなに砂糖が入っているのかとびっくりし…

今も信じているのかい

眩しいと寂しいは よく似ている 空も涙も海も 同じ成分なのに誰も 多分気がつかない そうだねそんな ことと同じだ あったかいと愛と幸せは 似ているより同じ だとあなたは信じているのかい 今も頑なに

殘滓

もうそれほど残ってはいないでしょう シワシワの欠片(だったもの)を差し出される あの方の顔なんて忘れたわ、と微笑んだ あなたが持っていたいならそうすればいいのだし あなたが手放したいのならそうなさい もっともこれじゃあ 喰い尽くされ搾り尽くされ…

恋人の猫

きみの鼻が冷たくなって 自分でもわかっているのか ぼくの手の中に顔をうずめる 冷たいな、冬だからなのかい きみは答えるかわりに喉を鳴らす ここが指定席なの、と言わんばかりだ 手袋をはずせばいつの間にか きみのおもちゃになって あたしにくれるんでし…

珈琲豆

仕事おわりに、ちょっといい? うん、待ってる 短い通話のあと 男友達が訪ねてきた サコッシュ?いいね ふふん、君も買いなよ そうだねえ お土産と称して 封を切ったミニクッキーを押しつけられた もう!新幹線の中で食べちゃいなさいな 君のことを思い出し…

焦燥

電波の届きにくいその部屋で あとどのくらいですかと尋ねた 命が ではなくて 死が でもなくて ましてや生でもない ただ尋ねたかったのだ 応える声を確かめたかったのだ 電波の届きにくいその部屋で あとどのくらいですかと尋ねた 時間のことでなく 空間のこ…

抱擁

わたしを撃ち落としてくれないか お前の鋭い眼差しで わたしを撃ち落としてくれないか お前の甘い言霊で 人知れず 闇歩き 我知らず 光り疲れ ならばこのまま消えてしまえば わたしを撃ち落としてくれないか お前の気高い優しさで わたしを撃ち落としてくれな…

会いたい会えない会わない

秋の始まりの頃のようだ。 いつもの時間、いつもの場所。待ち人(待ち猫?)は姿を見せてはくれない。 彼の特等席に陽があたる。そして、その時間はどんどん短くなっていく。 冬の入り口。 彼も私も会いたいのに会えないから会わない。 とびきりのいい声が、…

やっぱり違うと

あなたは朝を味わい尽くし わたしは夜を味わい尽くし そのうち互いを味わい尽くし やっぱり違うと離れたのでした あなたは朝に風を溶かし わたしは夜に雨を溶かし そのうち全てに愛想をつかし やっぱり違うと離れたのでした それでも忘れられなくて それでも…