猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

具沢山のスープ

読書家のパートナーと数年暮らした。

 

どちらからともなく、具沢山のスープを鍋いっぱいに仕込む。

あるときからそんな習慣ができた。

 

スープができるまでの間、それぞれ好きな本に没頭するか、他にやりたいことがあれば同じく没頭する。

スロークッカーを覚えてからは(気温の極端に高い季節はともかく)、「行こっか」と隣の市の古書店まで出かけるようになった。

遅くに帰っても、あったかい料理を食べることができる。帰りがけにパンを買うのも怠らなかった。

 

そんな風なので、会話は極端に少なかった。

別れ話もしなかった…というより、何かを話し合った記憶がない。

 

どちらからともなく具沢山のスープを作らなくなり、

どちらからともなく「行こっか」を言い合わなくなり、

どちらからともなく荷物を整理し始め、

 

じゃ

 

それきりである。

泣きも笑いもしなかった。

触れ合いもしなかった。

 

美味しい、と微笑んだことも。