猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

時計の多い家

大きなのっぽの…という歌い出しの曲ではないが、とにかく時計の多い家に生まれ育った。 祖父母から受け継いだもの、贈答品、何かの懸賞、まだ珍しかったデジタル表示のもの。 バンドの交換ぐらいは父も見よう見まねでやっていた(器用な人ではあった)。 あ…

誰かの不幸せを 誰かがそう名づけました それでいて 誰かの幸せを 誰かがそう呼ぶのです 人らはほんに 興味深い生き物だこと

夜が眠らない

今日もやってきては 眠れないのだと告げる このところ“夜”はそんなふうである 明るすぎるだの 騒がしすぎるだの 挙句のはてに 「夜のくせに」 「夜なんていらない」 そのくせ 「ずっと夜明けが来なければ」 「朝はなくても困らないし」 人らは総じてわがまま…

猫そっくりの生き物がおりまして

ワンピにしようか Tシャツにしようか あるいはちょっとドレッシーなのを 選ぶ? 合わせるのは麻のサラリとしたパンツ どうやったって逆立ちするほど暑いのだけれど 毛皮を脱ぎ捨てられるだけ 人らよりマシかもね ワンピにしようか Tシャツにしようか あるい…

オレンジジュースで出来た猫

猫がオレンジジュースで出来てるなんて ただの噂だよ すっかり夕陽に染まった手足を見つめて きみは笑う そんな童話を書いたよ きみのために いつかその柔らかな背中を 思って泣く日が消えるように 祈りを込めて愛してると書いたよ

絶望と安堵が命を充す

器をなくしても 宇宙は消えないと 生まれ落ちる前に教わってはいたが では 閉じ込められたままどこへも行けないのか 同時に絶望と安堵が命を充す でも 宇宙ごと消えたらどうしようもないのだな すっくと立った猫の命を選んだのは自分であるから それもまた宿…

魔法の一種だとされている。

耳を持っていかれそうな風を背に 平然と傘をさす いつか魔法はほどけ 心すら去りゆくさだめだが すでに器はカケラほど存在しないだろう 誰かを愛すること 誰かを退けること どちらも現在では魔法の一種だとされていて そうではなかった時代を知るものは 古び…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜店主の好きな花〜

青空の色を そっくりそのまま集めたような まあるいまあるい花が 群生する森があります トーザ・カロット岬で毛糸屋を営む 猫そっくりの店主は その花が大好きでした まあるいまあるい花は 空の色を映し海の色を宿し だんだん夕暮れに彩られたように 紫に染…

拾う

ああまただ 画面に貼りついたのを 丁寧に拾い上げて ため息ひとつ 掃除も済ませ仕事もやっつけ 料理は作りおいたのを解凍すればいいだけだ このところ手早く素早く何もカモが進むもので やっとマイリストに入れたままの 番組でも見ようかという気になったの…

約束

ようやく花散らしも鎮まり、 虹龍さんと森に出かけることにした。 以前からの約束だったのを、 わたしがお腹を下してしまって遠出が危うくなった。 それで、のびのびになっていたのである。 雨だろうが、風だろうが、 むしろ虹龍さんには嬉しいことであるよ…

無題放題または心をみる猫の医者

じぶんをだいじにできない そんな病に罹患した 娘にも息子にも相談できず 連れ合いはすでにおらず 兄弟姉妹は行方しれずときたものだ 心を診る猫医者は そんな日もあります、と 話をゆっくり聞いてくれたが 出されたハーブティがどうにもぬる過ぎ かえって笑…

今朝はそんなふうに始まったのだよ

もはや懐かしさすら感じない わたしにとって そんな夢の話をしよう 遠い街で約束があってね 大勢の人らが待っている わたしは彼らに話をすることになっているんだよ それで バスに乗ったというわけだ それがどうだろう 観光バスのような様子で 皆が目的地が…

繕い屋

ちくちくちく 幅も長さも深さも色合いも なんともとりどりなことであるのか ちくちくちく 思えばその理由も 決して一言では語れないだろうし 「誰に」「誰が」「何に」「何が」 「こうだから」「ああだから」 すっきりわかるものでもないのだろう 傷ついたわ…

詩人、カフェに出かける

手にのるほどの地図に 案内される街ハズレの店 たった一度 海向こうに暮らす人が 連れて行ってくれたのだ 道案内してくれた人は 女のくせに 男のくせに そんな言葉が嫌いで だから ほんとうのところは 私も知らないままである 「人」と記してはいるが それも…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜雲ちぎりのシロップ、味見〜

トーザ・カロットの岬に再び 暑くも寒くもない素敵な日がやってきました ちょうど 雲ちぎりのシロップが出来上がる頃 「半分忘れる魔法」がほどけていきます 猫そっくりの毛糸屋の店主は 何か楽しいことがありそうだけど それはなんだったのか すっかり思い…

泣く星

星が泣いています 心細くて壊れそうで 震えているのです 星が泣いています 愛されずほって置かれて 震えているのです 人らも泣いています 星の外にも宇宙の外にも 逃げられないからです RF素材

わるこ・わるたろう

子どものさらさちゃんは しかめっつらになりました 鏡ばかり見ていると 中に吸い込まれちゃうわよ 暑さでイライラしているママに そう言われたからです 子どものさらさちゃんは ママの三面鏡が大好きで 無限に続く自分そっくりの顔たちと 会話をしていたので…

おじいちゃんの童話

うーんとちっちゃい頃 祖父に寝かしつけてもらうことが たまに ほんとうにたまにあり その時に聞いた話を シェアします さらさちゃんは 水たまりが海になる話を 知ってるかな 最近は幼稚園でもそんなことを 教わるのかい そうかそうか 水たまりは 空から…

海をしまった箱と、空をしまった箱をあずかっている。 この上なく、 どうしようもなく、 なんの手立てもなくなった時に、 初めてふたをあけなさい。 小学校にあがる少し手前、 夢の中で手渡されたのである。 ちいさかった私はただ、 変な夢としか思えず、 今…

詩人屋さんの日常-10

すっく!と立って、人のように生きる命を選んでから、出会いと別れが絶えない。 いつ果てるやら、自分の歳もさだかではないので当然といえば当然だ。 多くの心ない言霊を浴び、少しだけ愛を浴びた。 全てが必要である、特に「詩人屋」でいるからには。 栄養…

詩人屋さんの日常-9

めっきりテレビを見なくなった。 感染症のニュースが8〜9割となった頃から、だと思う。 たまに「リアタイ」するのは、好きなキャスターが登場する、夜の報道番組程度である。 必要な情報は勝手に画面上に流れてくるか、流したままにしているラジオかポッド…

見破り

美辞麗句が一人歩きする やさしく甘く 一見無害で既知にとみ よかったですねが繰り返される 巧妙に嫉妬を秘めて 美辞麗句が一人歩きする やさしく熱く 一見無害で既知にとみ 誰でもそうだよねが流れ続ける 巧妙に敵意を秘めて 淹れたてのコーヒーが香って 僕…

ある朝-4

口を丹念にゆすいで チュアブル錠を噛み砕く コーヒーの香りが広がって 少し遅れてハムエッグとサラダの味に 体の奥まで包まれる 食事はそれでおしまい 昔ながらのバタバタした朝の光景は この時代の人らは おそらく映像でしか知らないだろう 通勤ラッシュと…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜雲ちぎりのシロップ、仕込み〜

落ちることを すっかり忘れた空ですが たまに 低く低くたれさがってくることがあります 雲ちぎりのシロップを 漬け込む季節がやってきたのです 暑くも寒くもない素敵な日 猫の足で15分 毛糸屋の店主は雲ちぎりに出かけました ビンを抱えて 丘の上に腰かけて…

安眠のための新しい習慣

さく、さくっ。 飽かずにくりかえす、単調な動き。 妄想の中で、ぬるぬるどす黒くなっていく。 さく、さくっ。 何度も何度もくりかえす。 妄想の中で、すでに僕の器はなくなっている。 さく、さくっ。 どれほどくりかえしただろう、眠気が襲いかかり、 夢と…

残酷で幸せな食卓

星を喰べる 好むと好まざるとにかかわらず 僕たちは 星を喰べる 生きているものたちにとって いや 生きていたものたちにとっても まぎれもない事実 これほど平等なことは 他には見当たらない 星を喰べる 好むと好まざるとにかかわらず 僕たちは 星を喰べる …

ぺとむんぺどむん

ぺとむんぺどむん 秒針が歌う あの日 静音タイプを選んだはずなのに 今夜もまた ぺとむんぺどむん歌っている お前もひとりが好きなのか お前に悩みがないだけか それとも最期を夢見ているか 規則正しく居心地悪く ぺとむんぺどむん繰り返す RF素材

詩人屋さんの日常-3(下)

鍋蓋のような空の下 のびをして にゃあんと鳴いた かき混ぜられた星に 人らの姿は見あたらず すっくと立ってスタスタ歩こうが スケッチブックに絵を描こうが ぎょっとした視線を向けられることもない 鍋の中身はいつしか吹きこぼれ いちばんどうでもいいもの…

心を診る猫の医者-21

星と星が口づけするように 出会うなら わたしたちはとっくに 滅びていたでしょう すっくと立つ命を 選びとることも叶わず ありふれた猫のままで 終わりをむかえたに違いありません 宇宙は多く存在するが 行ったり来たりは なかなか難しい あなたもよく知って…

心を診る猫の医者-20

どこにもないのです あなたにしか 紡ぐことはできない 「なんと感動的で素晴らしい」 「誰もが涙する」 そう評される物語よりも 彩り深い ひとつとして同じお話は ないのですよ いつか空に帰るまで 飽くことなく物語は 紡がれていくのです もっとも 我らのよ…