猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜雲ちぎりのシロップ、仕込み〜

落ちることを

すっかり忘れた空ですが

たまに

低く低くたれさがってくることがあります

雲ちぎりのシロップを

漬け込む季節がやってきたのです

 

暑くも寒くもない素敵な日

猫の足で15分

毛糸屋の店主は雲ちぎりに出かけました

 

ビンを抱えて

丘の上に腰かけて待っていると

だんだん雲が

ジャムのように垂れてきました

 

猫そっくりの毛糸屋の店主は

慣れた手つきで雲をちぎりとって

ぽい、ぽいとビンにほうりこむのでした

 

広口ビンの底が

見えなくなるぐらいになったら

蓋をしてビンを抱え直すと

自分の店に戻って行きました

 

例によって

人払いの魔法を店の周りに施すと

キッチンで早速シロップ作りです

 

花びらを乾燥させたもの

香りのよい葉を乾燥させたお茶

花の蜜で作った飴玉

魔法をほんのひとさじ

 

よくよく混ぜて

よくよく寝かせて

「半分忘れる魔法」を注意深く

自分に施すと

 

何か楽しいことがありそうだけど

それはなんだったのか

ちょっぴりぼんやりした感じになりました

魔法が解ける頃には

美味しいシロップが出来上がっているはずです

 

さて

人払いの魔法を解いておかなければ

猫そっくりの毛糸屋の店主は

しっぽをゆらゆらさせながら

店の外へ急ぎ足

 

ワクワクした待ち遠しい気持ちの正体は

なんだろう、とちょっとだけ首をかしげたけれど

それはあまり気にしないことにして

人払いの魔法を丁寧にほどき

自分も本当に猫のように

ううう〜んと気持ちよく伸びをしました

 

お店を整え

毛糸玉に声をかけ

いつもの一日が始まります

 

トーザ・カロットの岬には

ちょっぴり甘い香りのする

やさしい風が吹いているのでした

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RF素材(店番猫)