猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜雲ちぎりのシロップ、味見〜

トーザ・カロットの岬に再び

暑くも寒くもない素敵な日がやってきました

ちょうど

雲ちぎりのシロップが出来上がる頃

「半分忘れる魔法」がほどけていきます

 

猫そっくりの毛糸屋の店主は

何か楽しいことがありそうだけど

それはなんだったのか

すっかり思い出して

尻尾がピン!となりました

 

ビンを抱えて

丘の上に腰かけて待っていた日のこと

雲がだんだん

ジャムのように垂れてきたこと

ぽい、ぽいとそれをちぎって

ビンにほうりこんだこと

 

心も体もにこにこと幸せになる光景が

ついさっき起こったことのように

ありありと目の前に浮かんだのです

 

例によって

人払いの魔法を店の周りに施すと

キッチンでシロップの味見をすることにしました

 

花びらを乾燥させたもの

香りのよい葉を乾燥させたお茶

花の蜜で作った飴玉

魔法をほんのひとさじ

 

よくよく混ぜて

よくよく寝かせて

再び

暑くも寒くもない素敵な日がやってきたら

シロップは出来上がりです

 

丁寧にビンを拭き

シロップがラベンダー色になっているのを確かめ

そうっと蓋をあけました

 

小さなおさじで

ほんのひと口分シロップをすくって

ぺろり

幸せな甘さの奥にちょっぴりの苦みが隠れていて

ちょっと遅れて微かな花の香りがやってきました

今年の雲ちぎりのシロップも上出来です

 

キッチンを片づけお店を整え

唄う毛糸玉に声をかけ

 

人払いの魔法を丁寧にほどき

自分も本当の猫のように

ううう〜んと気持ちよく伸びをしました

いつもの一日が始まります

 

トーザ・カロットの岬には

今日も森から運ばれてくる

すっきりした風が吹いているのでした

 

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