猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

激情とは経験の親であり よくよく編んだ麻紐のようである 心を縛り 肉体を縛り 知恵を遠ざけ 人の間を巡り続けるものである 激情とは経験の鏡であり よくよく燃え盛る焚き火のようである 心を引っ掻き 肉体をすり減らし 人の間を巡り続けるものである

こっそり優しくしようと決めて

こっそり優しくしようと決めて 一日を過ごすことにする 「大丈夫」は ほんのひととき効能を発揮するが 長続きしないことは 今や子どもでも知っていること だったら尚更 …それでも 何かを強く信じたいと願うのは 思い上がりの我儘なのだろうか

夢物語

冷凍しておいて 好きな分量削りとる 体温でゆるむ頃合いに言葉をのせる 感情クラウドを すでに体から追いやって それはそれは楽になった やさしく聡くなれぬなら せめて傷をつけぬよう 未来的技術に頼ったのである 冷凍しておいて 好きな分量削りとる 体温で…

連動する孤独

宇宙が咳払いするので ようやく光が滞る きみはこぼれた愛を拭きあげて 上手に飼い慣らしてる 風が息を凝らすので かえって闇は隠れがち ぼくは今夜も哀を紡ぎながら 音律を歪めていく 人の孤独と星の孤独は 連動していることを 人らはいつか気づくのか それ…

少し疑え

絶好調を疑え 絶不調を鵜呑みにするな いつも いつのときも 自分を信じて愛して その上で少し疑え 絶好調を疑え 絶不調を鵜呑みにするな いつも いつのときも できる範囲で自分の限りで

こきおろして 叩きのめしたい そんな欲望が微かにでも含まれれば それはすでに 憧れではなく嫉妬であろう 似ているのは 自分の世界が狭まりがちだということ そうして焦点が絞られたとき 自分すら見えなくなる 嫉妬は酸味と苦味が混ざっている 憧れは甘味と…

わたしの中の猫が疼く

わたしの中の猫が疼く 悲しいことなのか嬉しいことなのか 区別がつかなくなってから ずいぶん経つので 猫が疼けば悲しいこと 猫が喉を鳴らせば嬉しいこと そう理解して 人らの中に紛れて暮らしている わたしの中の猫が逆立つ 悲しいことなのか怒りにとらわれ…

絶滅

詩人はいつか必ず 絶滅危惧種と呼ばれる日がくる すでに全ての人が “我こそは詩人なのである” そう名乗り始めた昨今なので 詩人という単語にすら 意味がなくなりそうな勢いだ そうであった 始まったものは終わりを迎えるのだ だから人らもいつかは

いつか拾い上げる日まで

耳から沁み込む事象の全てが 私を形成しています そう思えば この衝動も薄らぐことでしょう ですから 心を小さく畳んで サコッシュに入れるのです 誰にも気づかれぬよう 誰も傷つけぬよう 見捨てた自分を いつか拾い上げる日まで

裏側

つい今しがたの残酷な願望を 言葉にも声にもしないまま なに食わぬ顔のあたしは 実行はしない 傷つけもしない 困り顔の人がいれば見過ごしはしない 大丈夫ですか、と口に出しながら こちらの道が近いですよ、とにっこりしながら なぜか残酷な言霊が心のスク…

Nocturnality or Luminous

昼夜逆転とやよく言ったもので 日が出る頃 えらく睡魔を感じるのだ 口さがない連中からは 夜行性とあだ名を付けられ いやいや夜“光“ 性だろ、などと 冗談めかした学生時代だったな 夜はいい 暗いのは快適だ 見たくなければ見なくていい よく見たければ光をあ…

あたしを知らない

この器は あたしの過去を知らない この器は あたしの未来を知らない この命は あたしを知らない この命は あたしの想いなど 知らない 期待と夢は 愛と嫉妬とが捩れ合うような 関係で あたしの心はまだ届かない あたしはあたしを知らない

遺せるものは愛だけ

魔法であろうがなかろうが 夢を持とうが持つまいが すべては始まりと同じく すべてが終わる どんなに厳重にお呪いを施しても いつかはほどける そんなものなのよ 今日は幸せしかない日 明日も明後日も そう信じられる日は 体の調子がすこぶるいいだけのこと …

遺書のようなうた

妬みの感情が 少なくなっていく 次第次第にあたしは 最後の眠りに近づいていることを 知る 割とどうでもいいことやら 恨みつらみに勤しむことが まるで無駄だと決めつけることはできないが SNSで日がな一日悪意を垂れ流すか それとも 読書アプリや語学のアプ…

順調とはなんぞ

捉え方によっては薄く曖昧で 嫉妬の種になりかねない ありふれたひとことを きっとここまでくるには紆余曲折が とか きっとたくさん泣いたんだろうな とか そんなふうに瞬時に変換できる人に わたしはなりたい

呪いのかけ方

ものすっごい嫌いな人がいてね (多分その人もあたしのことを嫌いなのよ) 呪いをかけてやろうと決めたの ただかけるだけじゃだめ そういうのってブーメランみたく 返ってくるものなのよ 巡り巡ってね だからこんなふうに 「何回かに1回は塩と砂糖を間違え…

つみのこし

ほんの少し あと3問で終わりの 計算ドリル ま、いいや また後でもできるだろうし 翌日 ほんの少し あと1行で終わりの漢字帳 ま、いいや 明日でも間に合うし そんなふうにつみのこした結果が この星だと断言されてしまった それが今日 さて宿題は 後回しに…

心得

音律ばかりを調えてはいけない 言霊に寄りかかりすぎぬよう 詩人であることすら 気づかれぬよう振る舞いなさい 酸っぱい葡萄の逸話など ほうっておけばいい 甘い水の香りなど 消えてしまうのだから 詩を書く自分に酔ってはいけない 詩人であるなどと吹聴して…

春眠

わたしは眠らせる、目を耳を口を鼻を わたしは眠らせる、手を足を わたしは眠らせる、悩み苦しみを 闇雲な憎悪を わたしは眠らせる、小洒落た言葉を わたしは眠らせる、たれこめる妬みを わたしは眠らせる、明日への哀しみを 闇雲な思い込みを

絶対量

絶対量は変わらない 幸せを焦っても 不幸を嘆いても 絶対量はそのままだ 愛を欲しても 憎悪を垂れ流しても この星での生活が途切れる日は それはもう命を宿した器によりけりで だから 濃度に差こそあれど 絶対量は変わりはしない 大事なこと、すべきことは …

悪口

ふつり、と心の糸が切れ あたしは魂だけになる 流れる理由も 陥る理由も あからさまに わけなく醜くなっていく 衣擦れは耳障りで あたしはもう手放したの 人生は調子っぱずれ あたしはいつか手放したの あたしでいようと決めた あの日に ふつり、と身体の糸…

きみにはない世界観だね、と

拙詩を朗読してくださった 恩人のような人がいます もう何年前になりましょうか よく響く鍛え上げたその声で まだまだ幼すぎる作品を 丁寧に朗読してくださいました 誰かの声で自分がむき出しに晒されていく 恥じらいのうちに俯いておりますと 「きみにはな…

眠る前に

仰向けになって数えたのは つらかった秒数と 笑った回数 うつ伏せで数えたのは 嬉しかった秒数と 妬んだ回数 くるくる寝返りをうっては くるくる心がうつろう ぎゅううと縮こまって ずっと夜だといいのに なんて願う 綺麗な心でいたいのに 汚れた心で痛い日…

すき、まわりはしない

すきだらけでも きらいだらけでも 人生って回らないんだよね どっちもほどほど適量に (大人じゃない頃は偏りがちだけどもさ) それで大抵回っていく 好きも嫌いもいいもんだ、結局のところはね

合間を縫って

好きの合間を縫うように “嫌い”や“狭量”が混じり合う 自信の合間を縫うように “不安”や“不幸”が溶け込んだ 心は風より移ろいやすく きみの愛より不確かだ 明日よりもなお あざやかだ

もしも

もしも 究極の幸せというのが存在するのなら 高揚感に耐えられずむしろ悲しんでいただろう もしも 究極の愛というのが存在するのなら 果てしなく求めるだけの人生だったろう もしも 究極の不幸というのが存在しても いつか幸せに転じるという法則を知れば 落…

日々各々

大抵のことは あとになって「ああそうなのだ」と気づかされる 不幸自慢も幸せ自慢も 結局は誰かと比べているだけで いっときの高揚感があるにすぎない SNSがその象徴だとは思わないが “流れ”や“閉鎖的な場”に心を預ければ よりどころ以上のものにもなり 存え…

手紙

ハサミは切れ味悪くなり カッターこの前手放した ティアテープがあるのだから 困ることはないけれど あたしに届いた手紙の束は そんなわけでいつも歪む インクは切れたし プリンター壊れた 返事を待つ相手はいないのだから 困ることはないけれど そんなわけ…

入れ替える、表のわたしと奥に眠るわたしを。

入れ替える、表のわたしと奥に眠るわたしを。 傍目からは暴れているようにも見えるだろうし、 随分と寂しそうに見えることもあるようだ。 入れ替える、表のわたしと奥に眠るわたしを。 何やら真面目そうだ、と信頼関係を誰かと築けるのか、 または孤独を存分…

愛と哀と無知と無茶

自分を愛するように 他人を大切にしなさい 先生は 教壇でそうお話されておりましたが 自分を愛したことがない子は どうふるまえばよいのでせう 母さまも父さまも教えちゃくれませぬ ついぞ愛してはくれなんだ わたくしの中で たまにおチビが暴れるのでござい…