猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

空を拾う

慎み深く空を拾う 用心深く開く傘は 僕と外界を程よく隔ててくれた 思慮深く色を集める 辛抱強く重ねる言葉は 僕と心を程よく乖離させた 用心深く体を重ねる 嘘をつく理由なら 僕ときみが出会った言い訳ぐらいには できるだろう ランキング参加中詩

雨の午後は恋の前ぶれ

小狡さと愛らしさは 紙一重なるかな 汚(けが)れと草臥(くたびれ)も また 意味も意地も同時進行できるくらいに 曖昧な顔を装い 嘘つきなのは救われたいからなどと もっともらしくつぶやいた 晴れた朝は雨の前ぶれ 雨の午後は恋の前ぶれ 恋は別れの前ぶれ 生…

愛を届ける人

これみよがしにふりまくよりも 根深くじっとり憎むように 愛を届ける人になりたいのだ 奥底からとりだすのだから もうどちらでもない 区別もつかない 言葉ですらないものを 後生大事にしたところで 一生きみには届かないのだ ボルトを締め上げるような 伝え…

愛の一欠片も

愛の一欠片もなかったと断言はしない 立場が逆転するのを恐れていたのだと 今になってようやく理解する 母の日も父の日も 「あれは百貨店の戦略でしかない」 と教えられ 学校で「お母さんお父さんにお手紙書きましょう」の宿題は 学期が終わってもなお終わら…

幸せびとの嘆き

褒められることなく大人になった せめて笑っていようと決めて 隠れるように大人になった そのうち 人になりすますのも猫になりすますのも 詩人になりすますのも すっかり飽きた それでも死に物狂いで 幸せな人になりすます ランキング参加中詩

忘れるため、忘れないため。

舌先は苦さを忘れるため 爪先は涙を隠すため 指先は嘘をつくため 背中は温もりを忘れないために。 ランキング参加中詩

ジンピニンの端くれ

冷たい言葉と熱いハグを 同時にやってのける それは人でなしじゃなく人たらしの端くれだ ジンピニンの端くれときたら 温かい言葉にそっとトゲをこめる いつかあなたが深く傷つくように いつかわたしが正しく泣けるように

猫が照らす

「いつき、です」 昨日も。 一昨日も。 その前も。 下の名は、さらさ。 歌いはしないんだけども、なぜか同じ名前。 あの素敵な歌いびと、と。 それはそうと。 「開けて」 あしたも。 明後日も。 明明後日も。 空を、宇宙を。 ことばを尽くしても、 ことばを…

ペンダント

人の心ほどではないに違いない。 絡まった鎖を不器用にほぐしながら、女は思う。 時を経ても、傷は広がり続けるか深くなる。 忘れられないのはこちらだけだとしてもだ。 納得と疑念がよりよりより、とねじられひねられ見えない枷となっているのは、誰より知…

電車

人生で何度めかの 執着が強すぎる日が訪れて 電車であたしはキュッと唇を噛む わかってるから わかってるのに そんなどうでもよさげな いつもは受け流してしまう空気感が いつまで経っても現れない あたしは電車の速さに追い立てられ 大人の心と子どもの心を…

SNSのお作法

自分のものでないものを許可なく使う。 引用以外で。 それらは控えたほうがいいのではなかろうか。 正解や正義はそれぞれだとしても。 あとは、少しだけ俯瞰を意識する。 あまりに過剰だと心が苦しくなるから、そこは加減して。 お作法と言っても、堅苦しい…

その人は知らないままだ

数日前、拙作品に時折登場する「男友達」のモデルとなった人物が遊びにきた。 立ち話も何なので部屋に招き入れる。以前からのお願いごとをテキパキこなして、「またね」と慌ただしく帰っていった。 男友達。 甘美な響きだと、舌の上で転がしながら改めて思っ…

私と朝と晩秋と

朝が私を締め出そうとしている。 いつもと変わらない通学路なのに、寝坊して10分遅い出発となった。それだけで、日常光景は見慣れないものに変容する。 学校に通っていた日々からはすでに遠ざかり、今日も今日とて急用があるわけでもない。 いつもの光の角度…

嫉妬と憧れと尊敬と安堵

久しぶりに男友達の車に乗せてもらった。 幸せこの上ないことに互いの家族公認。いわゆる「異性の親友(戦友?)」である。 いっき〜悪い!運転手提供するから、ケーキ屋さんとスーパーでいつもの頼める? 「いっきー」とわたしを呼ぶのは、後にも先にもこの…

孤独の凪で逆らうなら

閉じこもってしまえるなら 君の紡ぐ歌の中がいい 抱きしめられるのは 君の腕じゃなくてもいい 孤独の凪に逆らうくらいなら いっそ風の淵で立ち尽くしていたい

宇宙が削ぎ落とされた

宇宙が削ぎ落とされた あなたの寿命の分だけ 思い出も恋も宝も どこかに消えた 宇宙が削ぎ落とされた あなたの後悔の分だけ 未来も夢も愛も どこかに隠れた 宇宙が削ぎ落とされた あなたの重荷の分だけ 昨日も明日も明後日も どこかで輝いてる

宇宙は広がることをやめないよ

時計は狂うことを忘れたよ 時間は狂いっぱなしだけど 約束は昔より気安くなったよ 束縛の意味は恋だけじゃなくなったけど 宇宙は広がることをやめないよ わたしたちが「閉じ込められてる!」と ざわつかないためだよ

宇宙がうるさすぎるから

宇宙がうるさすぎるから あたしはどんどん薄くなる 宇宙がうるさすぎるのは 誰のせいでもあるまいに 宇宙がうるさすぎる日の 過ごし方なんて知らないくせに ああだこうだと押し付ける みんながみんな内にも外にも宇宙を信じて 笑ってくれたらよかったのだけ…

いまはいらない

ストラップが邪魔くさくて 僕は猫のように不機嫌になる 画面のヒビは誰のせいだ なじる相手も今はない 割れそうな指先 割れそうな心 甘さと苦さは今日も背中合わせに 肉体が邪魔くさくて 僕は×××のように不機嫌になる 画面のヒビは誰のせいだ なじる相手も今…

素通りの記憶

あの人もこの人も 後退りするように消えていき 今日がなんの日だったのか もう思い出せない それは幸せだねえと 誰かが笑う 嫌いな人のことを思い出さなくて よくなったんだもの 好きな人は今この瞬間から見つければいいのだし うん かなり幸せだよ羨ましい…

変わり目縁切り

自分と折り合いがつかなくなっているとき 季節の変わり目 人との別れ目 そんな折、決まって心身ともにデトックス状態に陥る 体調が落ち着く頃 酔いからさめるような後悔が走ったり かと思えば妙に体が軽く 次の段階へ何かが進むことも多い 心と体は密接だと…

日曜

壊したいほど日曜が疎ましくて なのに どこか待ち望んでいる僕がいる 閉じ込めたいほど日曜が疎ましくて なのに 壊れてみたい僕がいる 待ち望んだって理想の日曜は来ないから なのに無理やり 幸せ装う僕がいる

忘れもの

スマホにメモしたのだったか 手帳に書き込んだのだったか いやいや乗り換えの時 あの電車の3両目 今時珍しい網棚にのっけてそれっきり 憎む元気と愛する余裕 を こんな時代だから誰も興味は抱かないか それとも届けてくれるだろうか 昔々の良き良き世界のよ…

わたしはスマホをオフにする

秒針がスキップするのを 確かに見届けて わたしはスマホをオフにする 日付をまたぐ瞬間に スキップに出会うことは珍しく 隣で眠る連れ合いに気づかれぬよう 「あなたよりちょびっと得したわよ」などと ニンマリしてしまう 起床時には忘れているが 就寝時に魔…

わけ

感情を封じ込めるのは 得意だ 単語の端々にのせず 相手を怒らせることもできる 短い単語から人となりを知るのも 苦ではなく 答え合わせは腹だたしいほど当たっている (もっとも流動性がついて回るのだが) 群れないのに引き寄せてしまう みたいなことも確か…

紙一重

あなたを思っています あなたがケガしないか あなたが病むことがないか あなたを心配しています そう まるで初恋のようにずっと 鬱陶しいほど狂おしく 子を思う本能など心当たりはなかったが これがそうだったのかと 戸惑うばかりだ あなたを思っています あ…

だって強い人だから

なぐさめ? その必要はないでしょう だって強い人だから そんなふうに噂されたのは いつのことだったか 考え込む? その必要はないでしょう 誰にでもやさしい 粘り強くて一人でもへっちゃら そんなふうに断言されたのは いつのことだったか わたしのことを一…

手元の風

通知音をすべて 葉擦れサウンドに変更した 雨がひどくなっても ざわわわわ あの人からのLINEも ざわわわわ どこかの国での不穏な動きも ざわわわわ みんながみんなそうしたところで 心のざわわが消えるわきゃないけども 風の時代に手元から 風を吹かせるのも…

激情とは経験の親であり よくよく編んだ麻紐のようである 心を縛り 肉体を縛り 知恵を遠ざけ 人の間を巡り続けるものである 激情とは経験の鏡であり よくよく燃え盛る焚き火のようである 心を引っ掻き 肉体をすり減らし 人の間を巡り続けるものである

こっそり優しくしようと決めて

こっそり優しくしようと決めて 一日を過ごすことにする 「大丈夫」は ほんのひととき効能を発揮するが 長続きしないことは 今や子どもでも知っていること だったら尚更 …それでも 何かを強く信じたいと願うのは 思い上がりの我儘なのだろうか