久しぶりに男友達の車に乗せてもらった。
幸せこの上ないことに互いの家族公認。いわゆる「異性の親友(戦友?)」である。
いっき〜悪い!運転手提供するから、ケーキ屋さんとスーパーでいつもの頼める?
「いっきー」とわたしを呼ぶのは、後にも先にもこのふたりぐらいかもしれない。
ふっとおかしいようなもの悲しいような気分になるが、態度には出さなかった。
ちょっといい葡萄も?
うん!チビたちも喜ぶ〜
お前なあ、いっきーに甘えすぎだろ
いいからいいから、ほら行くよ
いってらっしゃ〜い
虹色に彩られたような音楽が咲き乱れるような調子で、彼女は送り出してくれた。
もう何年になる?
ああ…10年だな、来年で
そっか
それきり、わたしたちは高速のリズミカルな揺れに身を任せる。
ラジオつけよっか
そうだな
チビさんたちも、こちらとあちらが繋がっている場所で笑い転げてるだろうか。
地元の長寿番組があの年と変わらない賑やかな空気で車内を満たす。
葡萄、今年は奢らせてよ
本が売れたんだ?
ベストセラーなんて言葉はわたしの辞書にないけどね
ブログ詩人ってのもイケてるそ
やめておくれ
二度と会えず声も聞けない、と思うと今でも鼻の奥がツンとする。
チビさんたちのはしゃぐ声を思う。
お前が泣いてどうすんの
いいでしょ、〇〇ちゃんの前じゃ偲ぶこともできないんだもん
まあなぁ…時間止めちゃってるからな
ぐすっ
よし、とびきりいい葡萄を頼みますよ、いっきー先生
なんでこんな時だけ先生なのよ
流れかけた涙がどこかに消えていく。
かすかな嫉妬と憧れと尊敬と安堵を乗せて。