猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

右を見れば絶望 左を向けば夢 振り向けば希望 未来には後悔 進んで戻って躓いて崩れ去って 何も必ずの夢じゃなくても 何も必ずの幸せじゃなくても 何もあなたの言葉じゃなくても なのにどうして選ぶんだろう 惹かれてやまないのだろう

準備

ようやくあきらめがつく九月夜 夏をすべて記憶から追い出し 秋を迎える準備に余念がない ようやくあきらめがつく九月夜 あなたをすべて記憶から追い出し 生きる準備に余念がない ようやくあきらめがつく九月夜 ため息すべてを記憶から追い出し 夢見る準備に…

秋を恋う

秋を恋う秋を恋う 厭われても失われても 秋を恋う あなたを思って泣く心 なのに じぶんのことはさっぱりで やはりどこかが壊れているか やはり何かが違ってきたか 答え知らずの愛憎なんぞ お腹の足しにもならないわ せめて 秋を恋う秋を恋う 厭われても失わ…

大きな大きなお団子

あの人の声が好き あの人の言葉が好き 言葉尻をつかまえては こっそりダイアリーに書きつける あの人の髪型が好き あの人の背中が好き 隠し撮りしては こっそりファッション真似てみる あの人が好き 寝ても覚めても大好き なのに誰にも言えなくて あたしは大…

心配性

閉じ込めて知られぬよう 鍵をかけてあふれぬよう 唇を噛み締める 叫び出さないよう あなたへの恋心が消えぬように

夏恋(こ)われの

居場所

居場所がないのはただの思い込みで 体はいつだってここにある 居場所を見つけたいのはただの夢で 体はいつだってここにある 居場所でないのはいつだって承知で 体もいつかは消えていく 居場所がないのは初めからで 感情が今もそうさせる

オレンジジュースで出来た猫

猫がオレンジジュースで出来てるなんて ただの噂だよ すっかり夕陽に染まった手足を見つめて きみは笑う そんな童話を書いたよ きみのために いつかその柔らかな背中を 思って泣く日が消えるように 祈りを込めて愛してると書いたよ

連鎖

好きを知り 嫌いを知って愛を知る

最後の手紙

「半年前に書いて忘れてたんだ」 文末には またね、の代わりに一言だけ 「らしい」とつい声に出てしまう 瞬時に声も思いも届いてしまう時代に 逆らうように生きてた 理由はわからない 器は2度と戻らない もう会えない はっきりしてるのは そんなところだ 「…

そのまま湛えて

自分の顔を乱暴にかき混ぜた それが答えになるだろうと言わんばかりに あいつの前でわざとそうした 喚き散らすかわりに コーヒーに砂糖とミルクを落とすかわりに ぐるりぐるり ぐるりぐるり いつまでもどこまでも渦を作る マグカップの中でちょっとした嵐が…

悲しい知らせ

またね。

3月は、忙しない。 寒いのとあたたかなのが数日おきに訪れては消えていく。 恋忘れのチョコレート。 涙送りの焼きマシュマロ。 不幸も不義理も花束の奥底にぎゅうぎゅう詰めて、 なんでもないよな顔をして、きみに手渡すよ。 卒業おめでとう、またね。 ひき…

誰も知らない

加速するのは愛だけでいいのに

加速するのは愛だけでいいのに 急に冷たくなるのは 空だけでいいのに 押し寄せるのは幸せだけでいいのに

それが恋なら

里帰り

あまりにくたびれて 午後9時を回った頃には 寝床にいた 長男の嫁でこそなくなったが 里帰りだけは今でも気遣いと気苦労を 天秤にかけるようなもの 眠りの間も夢にまんまと忍び込み 空元気の日中をやり過ごす 自分の実家となれば もっと顕著で 傷もつけ合えば…

許してしまう

挑戦的な物言いも 蔑みの態度も 何かもう「あはは」と笑い飛ばしてしまう 強さだと褒められたかと思えば 諦めの早いと揶揄もされる 視線の角度はいく通りもあって こちらの受け止め方もいく通りもあって 一望千里に近づきたいものよと 嘯いてみたりもする 丸…

首都-2

なじみの薄い街という事実は 今も変わらず 点と点で結んだ場所にしか 行かないのは 何年経っても同じである 始発駅で乗り込み いつもの駅で一度乗り換えるだけの 他人にも自分にも説明できる道筋しか 知らないままだ 冒険はしない 約束もしない ただそっと訪…

首都-1

もう地図を頼りにすることも 人の多さにまごつくこともなく 人々と同じ速度で 首都を歩く わざとの回り道は少し孤独で 旅人という自覚が 駄々をこね始めた 路線図を穴が空くほど見つめ 車内放送に耳を傾け 乗り換え駅で迷子になって そんなことも想い出深く …

出勤日

ぬかるむ道を歩く 街 なのか 己の感情なのか定かでないが 赤と緑でごった返した ぬかるみをよろよろと歩いている ほどけていった恋が 背中にもお腹にものしかかるのだ ぬかるむ道を歩く 重みを増す踵を引きずりながら 職場へ続くはずの橋を渡っている

桜が揺れる

桜が揺れる 旅を奪われ歌を奪われ もうずいぶん経ったのに 桜が揺れる 季節は消えて風は留まり もうずいぶん経ったのに きみの桜だけが揺れている やさしすぎるほどの 痛みを含んで

速度

言の葉の届く速度が 海食(※)と同じとさならば かく傷つくこともあらざりけむに ※作者註…浸食

愛を啜る人

愛を啜っては 真実ではないと吐き出すのだ そのくせ不機嫌の塊になり まだまだ足りないとばかりに 貪り続けるのだ 闇は揺れ 光は揺れ 入り乱れて影を落とす 群れに染まれない心を 誰が知るだろう 愛を齧っては 偽りだらけだと吐き出すのだ そのくせ不機嫌の…

あの人はまだ

あの人はまだ 私を傷つけたと 悔いているでしょうか それともすっかり 忘れたでしょうか それがいいわ そのほうが きみはそう言って 今日も寂しく笑う あのひとを呪うのは 時間の無駄遣いですし それこそ怨むなんて もってのほかですし たまに様子見するだけ…

雨音

さえずりのように 雨音が溜まり続ける そうだ 天気予報では水曜日まで 降り続くらしい 死もいつの間にか 命のうちにたまり続けるのか 恋が滅んで 憂いが滅んで いつしか情も滅びゆく 最後に残るのは希望か絶望か さえずりのように 雨音が溜まり続ける 愛を満…

プレゼント

手のひらで包むと 起動音が振動になった 小鳥が呼吸するようだと きみは少しだけしんみりした 誕生日に何が欲しい? ありきたりな問いに 互いがときめいていた頃 小さなスピーカーが欲しいわ 珍しく音周りのアクセサリーを きみはねだった 濡れても平気なの…

恋ふ

上書き

忘れたい傷も 忘れた祈りも 体の奥でわだかまる あなたを上書きした幻想は わたしを上書きしてはくれなかった 思い起こせばほろ苦く 思い出せない愛の日々 胸の隅でわだかまる わたしを上書きした過去に あなたを閉じ込められるなら ふたりを閉じ込められる…