猫街暮らしの詩人さん

猫街に暮らす詩人さんのひとりごと

2019-01-01から1年間の記事一覧

家族

酸味が気にいらない 些細な出来事が 食卓を行き交って 誰もが無口になる 冬休みなんていらない 不用意に口にすれば 食卓に不機嫌が充満する 音楽なんて煩い 会話なんて面倒だ 愛の破片と 嘘つきな人の群れ 食卓は今日も冷め続けている

怒号

がさつなる 言の葉ひとつ踏みし朝

変容

彼はかつて プログラムを組み 画面でささやかなゲームを動かし 何かもう 小さな小さな幸せを摘みとるのが 楽しすぎて どんどんどんどんのめり込んだ あるプログラムが 世界中の人らをあっと言わせ 小さな小さな幸せは どんどんどんどん摘みとられ 何かもう …

いつもポケットは空っぽ

ポケットにショパンはいない 恋人もワルツも入ってはいない いつも空っぽ 叩いたところで ビスケットも飛び出さない 体も心も風邪気味で 僕はいささか弱ってる ポケットにショパンはいない 恋人もワルツも入ってはいない 気づいたのは 遅くはなかったけれど …

ぬれぎぬ

知らぬ存ぜぬの末に 同じ時間軸にいないからと ただ わたしたちは言い訳する 涙のはてに装う優しさは たやすく破れてしまうだろうに ただ わたしたちは言い訳する 弱さもずるさも 受け入れるでなく ただ わたしたちはぬれぎぬにして いい人のふりをする

警告灯

最初の点灯に気がついたのは きみだったろうか わたしだったろうか 「よくあること」 「そのうち消える」 「そうそう」 「差し迫ってるわけじゃなし」 見て見ぬふりはしなかったが 後回し案件のひとつ ことが起こったのは 傍(はた)から見れば ずいぶん急だ…

紡ぎ屋デカルコマニー

するってぇと何かい はなっから ドロドロしてるように見えるが 案外隙間だらけってのか 元の木阿弥ってやつかい 編み直し編み直し 継ぎ足し継ぎ足し そのうち わけわからんってことに なっちまうからな かと言って 初期衝動だけでは どうにもならん 言霊って…

つれづれ

soraと書いて から 宇宙と書いて とわ 道と書いて わかれ 涙と書いて うそ

残像の中にあたしはいなかった

あなたを構成するものは 時も 空も 光も 影も 残像に満ちていて どこにもあたしはいなかった あたしを構成するものの 半分以上は 後悔だの嫉妬だのに満ちていて そこにあなたの残像が ゆらりと見え隠れする あなたを構成するものは 時も 空も 光も 影も 輝き…

ひび割れたふたり

好きなことと 苦手なことを 慎重に打ち明けあって ふたりは それをよしとした 互いのテリトリーには 口を出さない 知らない言の葉は 丁寧に伝える ふたりは 必死に努力した 好きなことと 苦手なことは 日々を重ねれば変わるもの 打ち明けあったことは いつか…

やまおりたにおり

やまおりたにおり 手にのせて 「ふっ」 おしまいなんてそんなものだ けんきゅうしゃたちは 一人残らずそう言った 小さな小さな青い星は 遠い遠い明日 どうなるんですか? 無邪気にほおった問いかけに けんきゅうしゃたちは やまおりたにおり 手にのせて 「ふ…

道化屋

あたたかな思い出ほど 圧縮してしまう癖があり さてどうしたものかと 巡らせる 亀裂ひとつで ぼぼん!と音高く 喚き散らしてしまうだろう まあ滑稽だと褒めてもらえれば これ幸い 苦しみ抜いた思い出ほど 濃縮してしまう癖があり さてどうしたものかと 巡ら…

晩餐

乾燥しきったチーズの味が 口いっぱいに広がって 思わずワインで流しこむ ね? 面白いでしょう 干すと栄養価が上がるんですって 楽しそうなきみに 僕は目を白黒させる 外食はキライだからと 招かれた きみが居心地よく過ごす部屋 どうぞ キスの直前舌の上に…

かまびすしと

かまびすしと 思(おぼ)ゆ縁(えにし)の 懐かしき 遠く儚くなお明日紡ぐ

24時間以内に

停止しましょう あなたのアカウントを 消してしまおう あなたのデータを そうすれば ここにいてもいい理由が 生まれるのだから 停止しましょう あなたのアカウントを 消してしまおう あなたのデータを そうすれば まだあたしのままで生きていい理由が できる…

asteroid belt

さららと広がる時を編むほど 空はひどく狭くなる きららと輝く命を問うほど 体はひどく透けてくる ひららと羽ばたく恋を追うほど 時はひどくもつれだす Arceさんによる写真ACからの写真

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜店主、旅に出る-2

お店をすっかりお留守にすると さびしくなる人もいるでしょう それで 猫そっくりの毛糸屋の店主は 考え考えした末に 雲予報の仕事をしているご夫婦と 鍵しっぽの詩人屋さんに 店番をお願いしました 森の外れの窪み暮らしの一族にも お願いしようかと思いまし…

しばしお別れ

千切れるくらい振った手を あっさりポケットにねじ込めば 夜はふくよかに香る 繰り返す“またね”を 数え終えた頃から 同じ方向を見ていなくても そこにふたりがいなくても 許せるようになった 千切れるくらい振った手を あっさりポケットにねじ込めば 時は軽…

わたしはこぼれ続けている

わたしはこぼれ続けている だって どうせ でも もう 〇〇だから 若くないんだもの 若すぎるんだもの 近すぎてねえ 遠すぎてねえ 自分なんか、ねえ 無理でしょ 無理でしょ ダメでしょ ダメでしょ そんなわたしがポトポトこぼれ続けてる それを毎日拭き上げて …

桐〜空想版「結ばれし」より

樹の快活であれば けして咲くことはない 鳳凰のとまり木 sakurahubuki桜♡雪さんによる写真ACからの写真

2分遅れのラブレター

今年の誕生日 初めてきみと一緒にいられなくなった 互いに仕事が面白くなってきた頃だし 行き帰りの運転席だけがほっとできる時間 そんな日も増えてきた それはそれで 幸せだけど流されがちでもある それはこの際置いといて 不思議と同じラジオ番組が好きで …

秋桜〜空想版「淡く咲く」より

雨走る夜の 片棒かついで さびしさを集める花 桜に憧れ続けている

ずれ

少し暑いね そんな問いかけに あなたは一瞥もくれず そうだ あたしは10分の道のりを急ぎ足で あなたは新車を運転して やってきたんだもの 気のせいかな そんな呟きに あなたはスマホから目をあげない 今日はね 意を決して話しかければ 難しい話はまたにしてよ…

待ち受け

いいかげん変えよう もうすっぱり忘れよう 決心するたび 悲しみがつのり データを消せずにいるわたしがいる 通知が届けば隠れてしまうし それなら 猫だって犬だって鳥だって 旅先の写真だって なんでもいいはずなのに 手にのせたのは 遠い昨日愛した人 いい…

きっと気にも留めない

見たいものだけが瞳に映る 聴きたい音だけが鼓膜を揺らす 淡い照明に満たされた足元は不確かで 季節が狂っても 時が暴走しても きっと気にも留めないだろう 触れたいものだけに囲まれる 錠剤ひとつで胃袋が小躍りする 毒々しいほどの記憶は不鮮明で 間違いを…

金木犀

甘い香りが心を毟る あの日の記憶が暴れて あたしを傷つけた 花が咲けばきみを想い 花が散ればあたしを哀れみ 優しい言葉さえ 涙で崩れていく 甘い香りが心を毟る あの日の記憶が暴れて あたしを傷つけた 灰兎さんによるイラストACからのイラスト

優しいの意味

優しいの意味を 検索するしかなくなって 愛すら手ばなす時代になって 甘いは優しい 優しいは愚か そんな説がまことしやかに認知され 優しいは あまり歓迎されなくなった たまに手渡される “優しいね”は どこかに嘲笑を含んでいて こちらも曖昧に頷くことが増…

再会

大好きだった瞬間と もう離れたいと泣いた時間を くらべるでもなく 並べるでもなく 切り離した たやすいこと 少し心をかたづけておけば 体のほんの片隅に そう思ってた 大好きだった瞬間と もう離れたいと泣いた時間を とりもどすでもなく 望むでもなく 消去…

トーザ・カロット岬の毛糸屋さん〜店主、旅に出る-1

ようやっと 半袖の上に羽織りもの ぐらいの格好で 陽だまりを歩けるお天気になりました とは言え 晴れた翌朝の冷え込みは ぶるる、としっぽまでかじかんでしまうほど 猫そっくりの毛糸屋の店主は 何色のベレーを編もうかと思案中 空のかけらの青を混ぜましょ…

あなたといた頃よりも

ねぇ 泣いたよたくさん こんなに流れたの 久しぶりだよ 昔は 不幸せだといいのに なんて 呆れるぐらい 願いは尽きなかったよ ねぇ あたしより幸せでいて あたしは幸せでいるから ねぇ あたしより長く生きて あたしは見届けられたいから ほらね もう雨はやん…